優秀な社員を引き留めるには、どういう方法があるか

 何週間か前、私が勤務するビジネススクールの経済セクションの同僚が、私の研究について質問してきた。「ビジネスパーソンの勤務先企業への貢献度と満足度」をどのように測定するかというテーマについてである。

 私の意見は簡単に言えば、次のようなものである。

 「もし満足していなければその人はその会社を去るだろうし、もし会社に残っているのならそれは会社のために働きたいと考えているからで、その度合を緻密に測定しても仕方ない──」。

 私のこのエコノミスト的発想は「企業の大切なリソースとしての人材」という概念を捉えるには、確かに単純過ぎるように思う。もちろん社員が今の会社をやめないのは他の選択肢より勝るものがあるからだが、実情がもっと複雑なことは承知している。

 優秀な社員を会社に引き止める──。近年の人材管理において、この課題に関して様々な研究が行われてきた。だから私の同僚のような質問をしてくる人が多いのはもっともである。

 にもかかわらず、近年の世界不況によって労働市場が危機的状況に陥り、「引き止める必要」そのものが薄れているのは、皮肉としかいいようがない。

 ギャロップ社の調査(140か国以上対象でこの分野の調査では定評がある)によると世界各国の会社員中、会社に満足しそこで働き続けようと考えているのはわずか13%に過ぎない。

 この調査では、社員の会社への貢献度のレベルによって、社員を三段階に分けている。

 ①「やる気がある人」、②「やる気を感じていない人」、③「会社に反感を抱いている人」の3つのグループだ。

 まず、やる気がない人というのは、仕事はこなすが全く情熱が感じられない社員。

 反感を抱いている社員とは、会社への不平不満を隠しもせず、同僚や部下との関係が悪く、職場の雰囲気を最悪なものにする社員。こうした社員の割合は25%でやる気のある社員グループの2倍も占めている。

 このデータは企業にとっては憂慮すべき事態である。なぜなら不況を完全に脱して、労働市場が活発な動きを回復した時、このグループの社員たちは他の有利な選択肢の方へと流れてしまうからだ。

 このデータを他の視点からも分析することができる。会社への「帰属意識」の程度からの分析である。──つまり、自社の文化やポリシーに一体感を感じて、それを仕事にも反映させようとする思いの強さからだ。言い換えれば、「組織と個人の関係」の視点からの分析である。

会社への思いに大きな差が出てくるのはなぜか

 この帰属意識はどういった要因から生まれるかは、それぞれの社員によって異なるはずだ。三つのパターンを考えてみる。

 第一は客観的に見て他社の労働条件より現状が勝っているため、そこにとどまることをよしとしているタイプだ。しかし会社への帰属意識は低い。「滞留的コミットメント(Continuance Commitment)」と呼ばれる。

 第二のタイプは「規範的コミットメント(Normative Commitment)」と呼ばれるタイプである。組織へのコミットメントを「義務」としてとらえている社員たちだ。例えば一定期間勤務することを条件として、企業が社員の職業訓練に投資してくれているようなケースを含んでいる。

 最後は「愛あるコミットメント(Affective Commitment)」。社員の価値観と企業のスタイルが一致していて、社員は自らが選んだ企業で勤続するだけでなく、企業とともに成長していきたいと願っている。積極的で能動的なコミットメントであり、社員の帰属意識が強い。会社側からすれば一番望ましいケースである。

 というわけで社員はそれぞれのレベルで企業との約束は果たしているわけではあるが、会社への思いにどうしてこんなに差が出てしまうのか。その原因をもっと深掘りしていくことが重要だ。心理的側面も含めた人材管理で大切なのは、まず、各社員の会社との関わり方を見据えること。そして、各自のやる気を引き出す工夫をして、ビジネスの上でのプラスに持っていくことである。

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