トヨタ自動車が12月17日、機械学習や深層学習(ディープラーニング)のベンチャー企業、プリファード・ネットワークス(PFN、東京都文京区)に、12月30日付で10億円を出資すると発表した。2014年10月から自動運転などに関する共同研究をしており、約1年の交流を経て、トヨタから出資を提案した格好だ。トヨタはPFNの第三者割当増資を引き受け、外部株主としては、第3位の株主となる。
PFNの西川徹社長とともに17日に会見したトヨタの村田賢一BRコネクティッド戦略企画室長は出資の理由について、「PFNの技術は非常に優れている。今までよりも緊密な関係を持ちたいからだ」と強調。昨年からの共同研究で「一定の成果が出つつある」(村田氏)ことが決め手になったという。トヨタが11月に発表したAI(人工知能)技術の研究・開発強化の一貫でもあり、来年1月に同社が米国で設立を予定しているAI研究の新会社とPFNのメンバーも連携していく見込みだ。
ただ、今回の提携に関するプレスリリースは、共同研究の具体的な内容にはほとんど触れていなかった。会見でも、来年1月に米ラスベガスで開催される家電の見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」で公開する「『ぶつからない』ことを学習するクルマ」のデモ動画を1回流したのみ。質疑応答の際にも、「まだ研究の段階、内容については公開できるものはない」(トヨタの村田氏)との発言が繰り返された。詳細はCESで明らかにしたい、というのがトヨタの考え方のようだ。今日の会見だけでは、PFNの技術力や両社の提携によって自動車産業に対して何が生み出せるのかは、正直なところ、よく分からない。
一方で、筆者は12月のはじめ、PFNのような企業が既存の大企業と交わることで、製造業が大きく変わるかもしれない、というワクワクした感情を抱いていた。東京ビッグサイトで開かれていた「国際ロボット展」で、彼らの実力の一端を見たからだ。
8時間でばら積みロボの成功率9割に
ホールの一角が、黄色いジャケットの技術者と黄色いロボットで溢れている。初めて訪れた人は大抵ぎょっとする産業用ロボットの大手、ファナックのブースに、それはあった。ディープラーニングをする「ばら積みロボット」。トヨタに先んじること約4カ月。今年の8月にファナックはPFNへの資本参加を発表し、共同研究の最初の成果として、このデモ機をお披露目した。
ばら積みロボットについて簡単に説明すると、整頓されずにどさっと山盛りになった部品を一つひとつつまんだり、吸着したりして、別のトレイに移したり、整列させたりするロボットを指す。部品の向きも高さもばらばらに積んであるため、ビジョンセンサーを使っても上手く取れないことが多く、「難しいアプリケーション」の代表例とされてきた。
ファナックもこれまでの見本市で何度となくばら積みロボットを出展してきたが「ビジョンセンサーの判定結果や、ロボットを動かす条件などのチューニングは、我々のような熟練者でないと結構大変」(ファナックの説明員)だという。取り出す部品が山盛りになった上にあるか、下にあるかで、チューニングを替えなければならないことも多いという。
しかし、今回展示したばら積みロボットは小難しいチューニングをしていない。なのに、ほぼ失敗なしで円柱型の部品を吸着してトレイに並べ続けていた。仕組みは単純だ。とにかく何度も繰り返して、「成功」と「失敗」を学んでいく。
具体的には、成功時の画像と失敗時の画像のデータをどんどんためていって、「円柱の端面は取れる」とか「円柱同士の一定間隔以下の隙間は取れない」とか、成功する部品の取り方を学んでいくのだそうだ。シンプルながら、8時間繰り返せば成功率は9割。熟練のロボット技術者によるチューニングと変わらない成功率になる。ロボットの熟練者がいない企業にとって、ばら積みロボットを導入するハードルが下がるのは間違いない。
もちろん、「失敗」が致命的になるアプリケーションでは今のままでは使えないといった課題はある。それでも、ファナックとPFNは6月の協業開始から半年、資本参加から4カ月というスピードで、このデモ機を完成させた。「PFNとの協業は我々にとっても、大きな刺激になっている」とファナックの稲葉善治社長は話す。世界で指折りのロボット会社が手を尽くしたと思ってきた商品開発を、もう一段飛び越える可能性を感じたからだ。
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