全国平均のガソリン小売価格が統計開始以来の最高値を更新する中、岸田政権は石油元売りへの補助金の延長を打ち出し、10月中に1リットル175円程度の水準を実現すると表明した。
そもそも、当初は23年度後半以降に実質賃金がプラスになる期待があったため、物価高対策は今年9月までとされていた。しかし、政府の物価見通しも1%ポイント近く引き上げられて実質賃金のプラス転換が遠のく一方で、物価高で税収上振れの可能性が高まっていることからすれば、政府が物価高対策を延長するのは致し方のないことだろう。
ただ、そもそも昨年打ち出されたガソリン補助金策は、1リットル168円をめどに抑制するために支給されていたことからすれば、今回のめどをそれより高い175円とすることで、その分負担軽減効果は限定的となるため、今回の延長は出口戦略も見据えているということだろう。
トリガー条項の利点と欠点
これに対し、小売価格値下げ効果をより高めるには、現在凍結されている減税措置「トリガー条項」を活用した方が効果的との向きもある。
トリガー条項とは、総務省が発表する小売物価統計調査でガソリンの平均小売り価格が3カ月連続で 160 円を超えた場合、揮発油税の上乗せ税率分である 25.1円の課税を停止するものだ。そして、停止後に3カ月連続でガソリンの平均価格が1リットル130円を下回った場合に、課税停止が解除される仕組みになっている。また、トリガー条項の発動は、ガソリンに課せられる揮発油税や地方揮発油税以外にも、1リットル当たり17.1円の軽油引取税引き下げを通じて家計や企業の税負担軽減となる。
そして、仮にトリガー条項が1年間発動された場合、筆者の試算では、これらの減税効果を通じて年間の家計と企業の税負担をそれぞれ0.7兆円、0.8兆円以上軽減する。世帯当たりに換算すれば、平均的な負担減は1.3万円に達する。特に北陸や東北、四国、東海地方では自動車関連の支出割合が高いことから負担減は1.6万~2万円前後になる。
さらに、発動に伴う実質国内総生産(GDP)の押し上げ効果は、1年間継続された場合には、1年目に0.5兆円、2年目に0.8兆円、3年目に0.6兆円。トリガー条項発動は、国と地方で年間1.5兆円以上の税収を減少させるが、自然増収効果もあり、財政赤字は1年目は1.4兆円の拡大にとどまる。そして2年目は0.2兆円、3年目は0.1兆円の、財政赤字縮小要因になる。
ただ、トリガー条項発動にも課題がある。というのも、現状の仕組みでは一気に1リットル当たり25円も価格が下がるため、発動前後で給油現場の混乱が不可避ということである。実際、2008年4~5月の暫定税率一時失効時には、全国各地のガソリンスタンド周辺の道路で渋滞発生や、在庫切れになったガソリンスタンドが閉店するなどの混乱が生じた。また、トリガー条項の適用対象には重油や灯油等のエネルギーは含まれない。
こうしたことからすれば、トリガー条項については段階的な価格変動や対象エネルギー拡充等の法改正を経た上で、地方経済活性化策として凍結解除を検討すべきだろう。
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