医療機関や自治体の間で新型コロナウイルスワクチンの後遺症が疑われる患者に対応する動きが広がっている。接種後極度のけん怠感や発疹、歩行困難になる人がおり、専門外来による診察や公費補助などが患者のよりどころとなっている。国の予防接種健康被害救済制度もあるが、専門家は「申請書類が膨大なうえ、認可まで時間がかかるケースが圧倒的に多く、民間の草の根支援が必要」と話す。
関西在住の伊集院遥さん(仮名、31)は記者の取材中、座席横の壁にもたれかかったままだった。「慢性的なけん怠感があり、少しの動作でも力が入らない。200メートル歩くだけでも10キロ走った後のように息切れする」
伊集院さんは2021年6月、都内にある職場の職域接種で米モデルナの新型コロナワクチンを接種した。接種には迷いがあったが、主治医から「(基礎疾患である)ぜんそくがあるのでなおさら打った方がいい」と勧められた。
接種から13分後、溺れているかのような息苦しさに見舞われた。全身麻酔を打たれたように意識が混濁し、ろれつも回らない。すぐに病院に緊急搬送された。症状は治まらず3日間入院。退院後も自力で歩行するのが難しく、めまいと頭痛に断続的に襲われた。
両親に介護されながら在宅勤務しようとするが、すぐに疲れる。症状が落ち着いたのを見計らってタクシーで出勤したが、急に体が動かなくなり医務室に運ばれた。その後、医療機関から「慢性疲労症候群」「筋痛性脳脊髄炎」と診断された。
「生きているのがつらい」

接種から約4カ月後の10月には退職し、関西の実家に戻った。処方された薬のほか、アミノ酸やプロテインを積極的に摂取。はり・きゅうなど効果があるとされた治療を試してみたものの症状は改善しない。
「とにかく力が入らない。食器を洗うだけで腕がまひする。口を閉じているのもしんどいため、よだれを垂らしたままの方がラク」。接種前はマラソンも水泳もする“体育会系”だったが、「もう元の体に戻らないのだろうか」と絶望感にさいなまれる。海外での勤務経験も豊富で、米国で暮らす夢もあったが、このままではかなわない。
「何もできない、家族に頼ってばかりで自暴自棄になる。明るい見通しもなく生きているのが本当につらい」。別れ際、伊集院さんは力が入らない左足をひきずるようにその場を去った。
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