「どうせ配られるなら、人のため、社会のために役立つものに使おう」――。

 3月5日から一部の村で支給が始まった総額2兆円の「定額給付金」。そのお金を全国に散らばる約80のNPO法人(特定非営利活動法人)に“再支給”する受け皿「定額給付金基金」が、18日発足する。6月末までの約3カ月半、約80団体が共同で基金への寄付を呼びかけていく。

 これまで、単独のNPO法人や、地方自治体が定額給付金をあてにした基金の設立を表明したケースはあるが、複数の団体が大同団結を組んだのは、これが初めて。大きなうねりへと発展する可能性もある。

 目標金額は特に設定していないが、「1万人規模で関わってほしい」と今回のプロジェクトの取りまとめ役を務めるNPO法人チャリティ・プラットフォーム(チャリプラ)の佐藤大吾理事長は言う。チャリプラは、国内に3万7000から4万あると言われているNPO法人を支援するNPO法人として、2007年5月に設立された。

1000円単位で受け付け

 4月から本格的な給付が始まるのを前に、様々な企業が「給付金特需」を狙ったサービスや商品を打ち出している。例えば、旅行会社のJTBは27日に首都圏発1泊旅行の「1万2000円ぽっきりプラン」を発売予定。通常価格より2000~5000円ほど割安だという。

 こうした取り組みでカネの回りが良くなれば、政府の大義名分通り、景気の浮揚につながるかもしれない。だが、経済的な意義よりも別の意義で使う道もあるのでは、というのが今回の定額給付金基金の取り組みだ。


定額給付金基金の決起集会

定額給付金基金の決起集会が3月12日、東京・青山の貸し会議室で行われた

 寄付金の額は、受給額の1万2000円、あるいは2万円という単位にこだわらず、「各自の気持ち」。1000円単位からチャリプラのホームページ上で受け付ける。「子どもたちを支える」や「自然を守る」など17分野から寄付をしたい分野を選択してもらい、クレジットカード決済か銀行振り込みで任意の額を寄付してもらう仕組みを作った。

 寄付の受け付けは3月18日から。チャリプラは各分野で得た寄付金の90%を、各分野に属するNPO法人へ均等に振り分ける。チャリプラが受け取った10%は、チャリプラ自体の次年度以降の運営資金と、事務局やホームページ制作などの経費として回すとしている。

「3000人がおなかいっぱいになれます」

 「フィリピンの児童養護施設の子どもたち約30名が食べる野菜1週間分を作ることができる」「不登校の子ども向けに毎週1回実施するランチイベントの1カ月分の食材費に充てることができる」「トキが飛ぶ森に4本の樹を植えることができる」…。

■ 定額給付金基金に参加する主なNPO団体と、1人分の寄付でできること

団体名 1万2000円(2万円)でできること
樹木・環境ネットワーク協会 自然と触れ合う体験への参加募集のダイレクトメールを300名の親子に送ることができる
ACTION フィリピンの孤児院の子どもたち約30名が食べる野菜1週間分を作ることができる
DGC基礎研究所 2万円で大学研究機関の研究者などによるキャラバン「まちの科学屋さん」を2日開店できる
ハンガー・フリー・ワールド 発展途上地域の子どもに、おかゆ260食分、またはオレンジやレモンの種17kgを提供できる
自然環境復元協会 国土の7割を占める里山里地にある棚田の田んぼ1枚を1年間守ることができる
ピースウィンズ・ジャパン アフガニスタンで干ばつに苦しむ8家族に、最低限必要な飲料水1カ月分を提供することができる
TRYWARP 2万円で大学生と地域住民の世代間交流の契機となるパソコン研修を20人に実施できる
アスクネット 100名の子どもたちに、「社会で活躍するオトナ」との出会いの機会を提供できる
グリーンバード 2万円で、約100人分の掃除用具を購入することができ、全国各地の清掃プロジェクトに活用できる
国際子ども権利センター 売春宿から救われたカンボジアの母親3人が、1カ月間、子どもを保育室に預けることができる
シャプラ二ール=市民による海外協力の会 バングラデシュやネパールの「ストリートチルドレン」が通う青空学級を2カ月間運営できる
とちぎボランティアネットワーク 若者の自立・就労支援のボランティア「ユース・アドバイザー」を2人養成することができる
フリースクール全国ネットワーク 不登校児が安心して過ごせる場所があることを100家庭に知らせることができる
ブレーンヒューマニティー 生活保護を受給している家庭の子どもに週1時間30分の学習機会を1年間、提供できる
ボラナビ倶楽部 どこでどんなボランティアが必要とされているかを知らせる紙媒体「月刊ボラナビ」を数千部印刷できる
自立生活サポートセンター・もやい 住まいを失った4人の生活困窮者が公的なサービスにつながるまでの緊急支援を行なうことができる
阿蘇エコファーマーズセンター 2万円で遊休農地1反(1,000?)を借りて、農作物の生産を始めることができる
荒川クリーンエイド・フォーラム 2トントラック1.5台分のゴミを拾うためのゴミ袋と軍手が買える
国境なき楽団 12台の鍵盤ハーモニカを、世界のどこかでの子どもたちに届けることができる
チャイルドライン支援センター 子どもが無料で約5時間の電話相談をできる。子どもに番号を届けるカードを1万枚、作成できる
越谷らるご 不登校の子ども向けに毎週1回実施する「ひるめし食堂」の1ヶ月分の食材費に充てることができる
難民を助ける会 アフガニスタンの15人の子どもたちの未来を地雷から守ることができる
HIVと人権・情報センター 即日結果を通知するHIVウイルスの抗体検査を12名の方に提供できる
東京盲ろう者友の会 「光」と「音」を失った盲ろう者2人に、コミュニケーション訓練を提供することができる
難民支援協会 国民健康保険へ入ることの出来ない国内の難民の、通院1回分の医療費を支払える
アニマルレフュージ関西 捨てられた犬や猫1匹分の基本的な健康診断、血液検査、ワクチンが実施できる
ジャパン・フォー・サステナビリティ 途上国のキーパーソン約10人に、日本の先進的な環境情報を届けることができる
SERVICE FORPEACE カンボジアの貧しい家の親2組に教育の大切さを伝え、小学校6年生2人を無事に卒業させることができる
かものはしプロジェクト カンボジアの農村で1家族(5人)を、3カ月間、生活させてあげることができる
ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン 2万円が15人から集まれば、アジア・太平洋地域の1家族に「きちんとした家」と安心、希望を提供できる
昭和の記憶 高齢者のもとへ、これまでの人生を傾聴するボランティアを1名派遣できる
地球市民の会 タイ東北部の貧困家庭の中学生1人が、1年間学校へ通うことができる
環境リレーションズ研究所 1万2000円でトキが飛ぶ森に4本の樹を、2万円で森林再生が必要な地域に5本の樹を植えることができる

 チャリプラのサイトにある寄付受け付けのホームページには、「1万2000円でできること」という、各参加NPO法人からの一言メッセージが掲載される。給付金の額で、社会の世界の何を変えられるのか。これまで寄付に興味がなかった人にも振り向いてもらうために、チャリプラは各NPO法人へ工夫を促す。3月12日に行われた決起集会の日、チャリプラの佐藤理事長は、居並ぶプロジェクトに参加するNPO法人関係者に、こう語りかけた。

 「1万2000円で何ができるか。各団体の文言に、もう少し、見る人の右脳を刺激するような味つけをした方がいいと思います。嘘はいけませんが、読者の目につく言葉に。例えば『3000人に食事を提供できます』じゃなくて、『3000人がおなかいっぱいになれます』とか」

 こう、活動内容について分かりやすいプレゼンテーションを各NPO法人に求める一方で、広告宣伝やマーケティング、システム構築など、各分野のプロフェッショナルへの協力体制も築きつつある。

親しみやすいよう、デザインにも力を入れる、チャリティ・プラットフォームのホームページ

親しみやすいよう、デザインにも力を入れる、チャリティ・プラットフォームのホームページ

 定額給付金基金のプロジェクトには、広告最大手、電通の社員も参加しており、「何かクライアント企業にメリットがある形で協力できないか」と手弁当で思案に暮れている。インターネット最大手、ヤフーの社員も「3月末くらいに、モバイルからの募金システムが検索サイトの『Yahoo! Japan』で稼働するので、そちらを定額給付金基金でも使っていただければ」と検討に入った。

「寄付文化」を日本に根づかせる

 「ふつうの人がふつうに世界を変えていく場」――。チャリプラが掲げる合い言葉だ。チャリプラが全国のNPO法人や民間会社を巻き込んでプロジェクトを牽引するのは、もともと「寄付文化を日本に根づかせよう」と、寄付をしたい企業や個人と、NPO法人とのマッチングを主な活動に据えているからだ。

 目指すは「NPO法人の四季報」と、昨年10月にはNPO法人の検索サイト「チャリナビ」を開設した。チャリプラは登録希望があったNPO法人に活動実態があるかなどを審査し、基準を超えた団体のみ、掲載する。

 一方でチャリプラが代表となって企業などからの寄付を集め、これら掲載済みNPO法人へ活動資金として振り分ける。今回の定額給付金基金への参加NPO法人は、このチャリナビに掲載済みの約120のNPO法人に声をかけて集めた。

 実績は徐々に上がっている。昨年12月のクリスマスシーズン、チャリプラは「THE BODY SHOP」や「日本交通」「Yahoo! Japan」など6つのブランド・企業を巻き込んで、新手のチャリティーキャンペーン「SayLOVE 2008」を実施した。

 各社は、それぞれの商品の一部に寄付金を上乗せして販売したり、レジ脇などに募金箱を設置したりして、キャンペーンに参画。チャリプラは、合計で約1200万円が集まった寄付金を、それぞれの企業が掲げる社会貢献のテーマに合ったNPO法人へと振り分けた。

 ちなみに、チャリプラの代表を務める佐藤理事長は、学生を秘書として議員事務所へ送り込む「議員インターンシップ」を運営するNPO法人を立ち上げた後、村上世彰氏の協力を得てチャリプラを発足させたという経緯がある。証券取引法違反で逮捕・起訴され、現在も係争中の村上氏は、チャリプラの理事を務めるだけではなく、運営資金として20億円(10億円は寄付、残りは融資)を個人で提供したと見られる。

 ただし、チャリプラの広報を務める大下剛氏は「村上さんは、チャリプラの活動については、基本的には現場に任せてくれている。定額給付金基金のことでも、理事会の承認は得ているが、スタッフが主体的となって取り組んでいる」と話す。

この稀有な経験を、日本を変えるきっかけになれば…

 チャリプラを中心とする定額給付金基金のプロジェクトチームは4月上旬をメドに、都内に参加団体と市民を集めて、「定額給付金で市民が社会を変えちゃおう!(仮称)」というイベントを開催する計画も練っている。

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