「僕が選んだ今年(2013年)上半期のトップは、『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶著)です。」
出口さんのこの一言で、私のその後の人生はけっこう大きく変わりました。「ビジネスに効く読書」ご愛読のみなさまこんにちは、当編集部の副編集長、Yと申します。
同輩Hさんが仕切るこのコラムに今回お邪魔しましたのは、皆さんに「たるんだ頭を、一緒にハンマーで殴られてみませんか」と、お誘いしたかったからです。
『社会心理学講義』がどんな本かは、元記事をお読み下さい。こちらです。
「安定」しながら「変化」しなければ生きられない
ちょっとだけ出口さんの記事を引用しましょう。
なぜこれが(今年の本の)トップか。それは、この著者が基本に据えている考え方が「社会が安定していなければ落ち着かない。しかし変化しないと進歩はない」という矛盾にあり、これが「人間とは何だろうか」という永遠の問いに対する大いなるヒントにつながっているからです。
【中略】人間は動物ですから、寝ている間に寝首をかかれるのはやはり、イヤです。安心して眠れる、道を歩いていても山賊や海賊に襲われる心配もない安定した社会がやはり一番重要です。著者の言葉で言えば、「社会は同一性を保っていないと落ち着かない」のです。
【中略】社会における「同一でありながら変化を続けるという矛盾」をどう理解できるのか、この本は、この難問に挑戦して、その答えを全体として捉えようとしている本なのです。
「出口さんがここまで言う本なら間違っても損はないだろう」と思って迷わず購入、さっそく読み始めたのですが、これは恐ろしい本でした。
まず、頭の今まで使っていなかった部分がフル回転します。文章は決して難しくないし、むしろ読みやすいくらいなのですが、今まで考えたこともなかった疑問や「言われてみれば…」と言わざるを得ない矛盾が、常識以前、社会の基本と思っていた事に対して続々と投げかけられ、足下が掘り返されるような不安にかきたてられるので、「いや、でも、そんなはずは」と、頭が必死で考えて考えてあがくのです。が、小坂井先生に小気味いいまでに論理的にビシビシ畳み込まれ、反撃できないまま押し流されていく。
頭をフル回転させる夜をご一緒に
ですので、とっても頭が疲れます。
だけど、途中で止められない。中毒したかのように読み続けてしまう。
頭が痺れるような読書、こういう経験は本当に久しぶりでした。
こうなると、パリにいらっしゃる小坂井先生に、是非お話を聞いてみたくなります。できることなら、この本を読破した人たちといっしょに!。
幸い、編集を担当された筑摩書房のKさんを介して先生にご了承をいただくことができました。しかし、私では先生の話を引き出すには能力不足です。そこで、この本を紹介して下さった出口さんにホスト役をお願いに上がったところ、本当に一瞬でご快諾をいただきました。
というわけで7月15日(火)の夜7時から、出口さんをホストに、小坂井先生に、2時間以上に渡ってお話を聞くトークイベントを開催することになりました。最初に1時間、先生にご講義をいただき、その後、出口さんと一緒に質疑応答をたっぷりと、という内容です。会場においでになりにくい方のために、ウェブでのライブ中継も予定しています。
今回はこれに先立ち、改めて出口さんに小坂井先生の本、そして考え方の魅力を語っていただきました。『社会心理学講義』をまだお読みでない方にも、格好の入り口になるお話を伺えたと思います。ぜひ、本欄とこの本を読破していただいて、小坂井先生に直接「頭をハンマーで殴られる」貴重な経験を、ご一緒しましょう。
え、なぜそんなにハンマー、ハンマーと連呼するのか? その答えは、出口さんがこの記事でこれから語って下さいます。次のページへどうぞ。
「覆される常識――〈開かれた社会〉とは何を意味するか」
社会における「普遍的な価値」「正しさ」について、講義と対話で学ぶ
◆日時
2014年7月15日(火) 19時~21時10分(開場18時30分。席は先着順です)
◆場所
東京都中央区日本橋本石町3-2-4 共同ビル日本映像翻訳アカデミー3階
東京駅、神田駅、東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅近くです。地図はこちら
※インターネットのライブ中継も実施します。ネットからの質問も可能です(録画はできません)。
◆募集人数・受講料
会場:30人(5000円) ネット中継:70人(2000円)
(会場参加をお申し込みの方は、おいでいただけなかった場合はネットでご参加いただけます)
18:30 | 開場 |
19:00~20:00 | 1部:講義「覆される常識――〈開かれた社会〉とは何を意味するか」(小坂井先生) |
20:00~20:10 | 休憩 |
20:10~21:10 | 2部:小坂井先生×出口会長×会場・ネット参加者の質疑応答 |
【お申し込み】
◆会場での直接参加をご希望の方はこちら(会場+オンライン受講)
◆オンラインでのライブ参加ご希望の方はこちら(オンライン受講のみ)
◆主催 ブイキューブ
●おことわり
- 本イベントは『社会心理学講義』を読破しておられる方を対象にしております。当日までに必ずお読みになっておいて下さい
- 会場にてご参加いただいた方がネット中継上に映る、ご発言が音声が配信される可能性がありますので、予めご了承ください。
- 会場での質疑応答は、日経ビジネスオンラインなどのコンテンツに再録させていただく可能性がございます。
- ネット中継はブイキューブの「V-CUBEマーケット」を使用して配信します。技術的なお問い合わせは、こちらにお願いいたします。
【注:講義は『社会心理学講義』を読破しておられる方を対象にしております。当日までに必ずお読みになって下さい】
編集Y(以下Y):今回はご尽力を本当にありがとうございます。小坂井先生にパリから東京にお出でいただけるとは、実はほとんど無理だろうと思っておりました。
筑摩書房Kさん(以下K):いえいえ、これまでの話をまとめるだけではなく、今、先生が進行中のお仕事を先に披露できる機会でもあるということで、喜んでやらせていただくとのことでした。
当日のお話の大枠は、『社会心理学講義』で語られた「開かれた社会」というのは一体なんなのか、本を踏まえて敷衍していただくのが第1、その次に「べき論」について。「○○であるべき」と語る、語られるときに、そこにどんなワナがあるのかを論じられます。そして最後にご自身の発想法についてもお話しいただく予定です。
出口治明・ライフネット生命会長兼CEO(以下出口):私は以前小坂井先生が『責任という虚構』という本をお出しになる前に、小規模の集まりで「責任」についてのお話をお聞きしたことがあります。次の研究のテーマを深めていかれるために、こういう場をお使いになることもおありのようですね。
K:今回は、まさしくいま出口さんが仰ったパターンで、現在、正義や規範についてご考察中です。人間は本性として、善や正義を志向する。それが結果としてとんでもない惨禍を引き起こすという、この矛盾ですね。
出口:なるほど。そのことは理論化されていなくても、なんとなく人間は知っていますよね。立派な人ほど悪を成す。いい加減で自堕落な人は意外に悪さをしない。いい加減な人の方がひとりひとりの人間の生き様に思いを巡らす気持ちがあるからかもしれない。だいたい大言壮語する人は、個人なんて見ていませんからね。
「かくあるべき」の暴走
Y:『本土決戦幻想-オリンピック作戦編』(保阪正康著)をたまたま古本屋さんで手に入れて読んでいたら、本土決戦は「戦力にならない女子供老人は、国を守る力がある軍隊を守るためにまず犠牲になるべきだ」という基本思想で防衛計画が作られていて、一体何が起こっていたのかと、ぞっとしたんです。国民じゃなくて「国」を守ろうとすると、こういうことになるのかと。
出口:沖縄での戦争は、まさしくその象徴でしたね。正義とか国体とか、抽象論が人間を潰していくんですよ。
Y:「かくあるべき」の怖さですね。実はKさんと、こちらに伺う前にブレストをやりまして、
出口:ほう、そうですか。
Y:2時間くらいやったんですけれど、最初の1時間くらいまでは全然ふたりの話が噛み合わない。何を言ってもお互いに「うーん」と。
K:そうでしたね(笑)。
Y:そうしたら突然Kさんが「わかった」と。「Yさんに限らず、ふつう会社員って『べき論』で考えたがるでしょう。だから噛み合わないんですよ」と言われたんですね。言われてみれば私、この『社会心理学講義』を読んで「世の中ってのはこうである」という小坂井先生の視点を教えていただいた。「じゃ、それを知った上で会社員たるわれわれは、“どうすべきなのか”を、小坂井先生に伺おう…というような意識で、やっぱり企画を考えちゃうんですね。
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