こんなにおいしくない豆乳を飲んだのは久しぶりだ。大手小売りチェーンが販売する1リットルで200円弱のPB(プライベートブランド)商品の無調整豆乳。妻と小学生の娘と幼稚園児の息子も「これは飲めない」と口を揃えた。豆っぽい味がする昔風の味わいで、水で薄めた豆腐といった表現が適当か。もったいないので私1人が飲むことになったが、正直つらかった。
最近はコーヒー味やきなこ味などの飲みやすい調整豆乳が当たり前になっている影響もあるが、無調整豆乳で有名なほかのメーカーの商品と比べても、味がいまいちとの印象は否めない。
だがこのPBの豆乳がおいしくないのは、私としては意外で正直驚いたほどだ。それほどまでに、肌感覚として最近のPB商品の味は改善している。
例えば、西友の「みなさまのお墨付き」シリーズ。主婦などを対象にした消費者テストで支持率が70%未満のPB商品は販売しないという方針を掲げる。
実際に8枚入り(144グラム)で168円の「スライスチーズ」(支持率90.9%)や、230グラムで198円の「コーンフレークシュガー」(支持率92.6%)を買ってみたが、確かにどちらも味は合格点。価格も安くて、定番にしたいと思うほどだ。
わが家はお好み焼きやたこ焼きが好きで、自宅で作ることも多いが、最近はオタフクソースの「オタフクお好みソース」や、キユーピーのマヨネーズに以前ほどこだわらなくなってきた。PB商品とそれぞれを比べてみて、正直、価格差ほどの味の違いは感じられないからだ。
キユーピーより売れるPBのマヨネーズ
実際そう思う人は増えているようで、コンビニの「セブンイレブン」でマヨネーズの販売上位は、今やセブン&アイ・ホールディングスのPB「セブンプレミアム」の商品が占めている。500グラムで178円と手頃で、キユーピーのマヨネーズとはサイズが違うがグラム当たりで比較すると5割以上安い。
もちろん豆腐や納豆、うどんなど、価格以外に魅力が乏しいPB商品は少なくないが、全体的に平均点が上がっていることは間違いないだろう。
低価格を売り物にしたPBだけでなく、最近、小売り大手は素材や製法にこだわった高級PBにも力を注いでいる。
セブン&アイが力を入れる「金の食パン」。6枚入りで250円と、敷島製パン(パスコ)の人気商品「超熟食パン」(6枚入り)の一般的なスーパーでの販売価格より100円前後高いが、ヒットしている。金の食パンは、北海道産の生クリームと甜菜糖を使った甘みや、手でこねる工程を加えるなど製造方法も工夫して、弾力のあるもっちりとした食感を実現。実際、食べてみると味の違いはかなりあるように感じられる。
セブン&アイは高級PBの「セブンゴールド」で、東洋水産と組んだ生麺に近い食感の袋入りラーメン「金の麺」や、サントリーと組んだビールの「ザ・ゴールドクラス」を投入。ペットボトルのお茶では伊藤園と共同で「金の緑茶」を商品化している。いずれも同ジャンルで一般的なタイプのNB(ナショナルブランド)商品の店頭での価格よりもやや高いが、販売は好調だという。
「消費者の節約志向はあるが、ちょっとした贅沢を求める人も多い。ほかで買えない独自性の高い商品はライバルとの差異化にもつながる」。セブン-イレブン・ジャパンの商品本部長である鎌田靖・常務執行役員はこう強調する。
イオンはPBの高級シャンプーを投入
イオンも主力のPB「トップバリュ」で低価格商品を拡充する一方、付加価値の高い高級タイプ「トップバリュ セレクト」の販売に力を入れる。
500ミリリットルで798円の「ノンシリコンシャンプー」。一般的なシャンプーで髪の表面のコーティング剤として使用される「シリコン」を含まず、海藻エキスを配合するなどして滑らかな指どおりを実現しているという。
特徴的なのはパッケージがPB商品らしくないことだ。海をイメージした青色を基調に、海藻が描かれている。トップバリュのロゴ自体も目立たない。従来のPB商品はロゴが大きく、パッケージデザインも画一的だったが、変化させている。
「商品の中身もパッケージも変えることで、価値をきちっと伝え、PBのブランドイメージを高めたい」(イオントップバリュの仲矢長蔵社長)
5月中旬に発売した500~1000円の「トップバリュ バス&ボディ」シリーズも緑や紫などカラフルなパッケージで、トップバリュロゴは目立たず、一見しただけではPBであることが分からない商品だ。
「PBだらけで売り場が画一化して、買い物の楽しみが減っている」という批判が強まる中、小売大手も戦略転換を急いでいる。こうした取り組みは発展途上で、まだ安さだけを売り物にするPBが多い状況は続いているが、変化の兆しは見えつつある。
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