現在、世界中でさまざまな団体が開発途上国の援助にあらゆる形で携わっている。しかしそのうちのいくつが、10年、20年と続いているだろうか。
開発援助というものは、最新の設備、技術をただ現地に持っていけば済むという簡単なものではない。提供した設備や技術を生かし、応用していくマンパワーがなければいくら素晴らしいものとて無用の長物になってしまうだろう。開発援助で一番大切なのは「根付く」すなわち持続性である。多くの援助は資金的な問題、人繰りの問題でプロジェクトの時間が限られている。限られた時間で現地の人に技術供与し、一人前のプロジェクト後継者になってもらうのはなかなか難しいことだ。結果、世界のあちこちで「中途半端な支援」の遺産が残ってしまう。
「開発途上国の問題は、現地に適したやり方で、そこに住む人自身が解決していく」ことの実現を目指すNPO法人がある。京都大学大学院工学研究科教授、木村亮氏が2005年に立ち上げ、理事長を務める「道普請人」だ。
木村氏は1993年にJICA(独立行政法人国際協力機構)専門家としてケニアに赴任して以来、工学者として開発途上国の人々の幸せに貢献するにはどのようなアプローチをとることができるか考えた。その後10年間で15回にわたる現地訪問や活動を通してたどりついたアイデアで「道普請人」を立ち上げた。
そのアイディアとは、「土のう」を積み上げることで道を固め道路を整備する方法だ。布袋の中に土砂を詰めて用いる土木資材「土のう」は、シンプルながら強い耐荷力を持つ。水や土砂の移動を妨げることができることから、日本では昔から水害時の応急対策や土木工事全般に使われてきた。
例えば、雨季になると水が溜まって車が通れなくなるような未舗装道路を、土のうを使って補強する。50センチ四方の土のう袋に砂利をつめて並べ、木槌でたたいて固める。その上から土をかぶせ、水を逃がす側溝を作れば「舗装」の完成だ。
この工法は、コスト面でも優しい。土のう袋のもとになるプラスチックの袋は、世界中のどこでも20円から30円で調達できる。1メートルの道を直すのにかかる費用は約500円。これはアスファルトを使った道路舗装方法の約20分の1だという。
自分で道を直すと自信が生まれる
「ほんまもんの研究者は、簡単な技術で人々を幸せにできる」これは木村氏がよく話す言葉だ。土木の原点である「土」を素材として見直し、簡単な方法で有効活用することで、工法の普及が早くなり、迅速な援助が可能になる。発展途上国にとって「道」とは、ライフラインそのものだ。道が途絶えてしまうと農作物の運搬ができなくなり、安定的な生活を営むことができなくなるからだ。従って道直しは「貧困撲滅」にもつながる。実際、プロジェクトを通じて道を直したケニアでは、市場への農作物の運送コストが3割減り、結果農民の収入が5割も増えた。
そして何よりも大切なことは、舗装工事はもちろんのこと、資材の調達や費用の負担など一連の作業を共同作業することで「自分たちのライフラインを自分たちで補修した」と現地の人々が自信を持つことだ。自信は自立へとつながり、途上国の人が社会的な問題について関心を持ち、自発的に国を豊かにするための取り組みに積極的になる。まさに、木村氏の狙い通りの「持続可能な開発支援」につながってくる。
【初割・2カ月無料】お申し込みで…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題