「安かろう悪かろう、なんじゃないか」。ダイハツ工業が新設計の低燃費・低価格の軽自動車「イース」構想を発表してから、ライバルメーカーは半信半疑の目を向けてきた。
無理も無い。「ガソリン1リットル当たり30kmの低燃費と最低価格80万円以下を実現する」。軽量の軽自動車とはいえ、あまりにチャレンジングな目標に見えた。
ところが、ダイハツは公約を実現した。9月20日に「ミラ イース」と名付けて発売した新型車の価格は79万5000円から。燃費も実際の走行時に近いとされるJC08モードで計測して1リットルあたり30kmを達成した。馬場建二専務執行役員・営業本部長は「初年度12万台の販売目標を掲げているが、道筋は見えた」と手応えを語る。
1リットル当たり30kmと聞いても、実感がわかない人も多いだろうから、エコカーの代表的な存在であるハイブリッド車と比べて見よう。トヨタ自動車の「プリウス」は1リットル当たり32.6km、ホンダの「フィット ハイブリッド」は同26kmだ。ダイハツはイースについて、ハイブリッド車、電気自動車に続く「第3のエコカー」と称しているが、それにふさわしい燃費性能を実現しているといえる。
ちなみに79万5000円という価格はハイブリッド車のほぼ半分。(プリウスは205万円から。フィット ハイブリッドは159万円から)。もちろん軽自動車と登録車という違いがある以上、一概に比較はできない。例えばトランク空間など、それ以外にも重視すべき部分はあるだろう。それでも燃費と価格に重きを置く消費者にとって、イースのスペックは魅力的といえる。
「安かろう悪かろう」の懸念にどう答えた?
ただ、懸念も残る。2009年にインドのタタ自動車は「ナノ」で10万ルピー(現在のレートで約16万円)という破格の価格を打ち出して話題を集めた。この「ナノ」は出足は好調だったが、その後はトラブルが多かったと報道された。
イースは「安かろう悪かろう」に陥っている懸念はないのか。誰しも気になるところだろう。
そこで、自分自身でイースを試乗してみた体験と、考えたことをお伝えしたい。もちろん、私はビジネス誌の記者であって、クルマの走りについての専門家ではない。普段乗るのは、国内メーカーのステーションワゴンと呼ばれるタイプのクルマだが、実際に運転するのは月に1度程度だ。詳細な試乗レビューは専門誌に譲るとして、ちょっと先に体験した素人ドライバーの率直な感想と受け止めていただきたい。
イースに乗り込んですぐ感じたのは、室内空間の意外な広さだ。記者の身長は178cmだが、運転席では窮屈な感じはしなかった。同社の「ミラ」も、全幅は147.5cmでイースと同じ。そう考えると、軽自動車全般に言えることなのかもしれない。
助手席との間隔は狭いが、運転しているドライバーとしては、前方に集中するのでそれほど気にならない。だが、「俺が運転すると命が保証できない」と早々に宣言して助手席に乗りこんだ同僚のK記者(男性、ペーパードライバー)は5回ほど「めちゃめちゃ距離が近い」と繰り返していた。誰か助手席に乗せるなら、仲が良い人と乗ったほうが良さそうだ。
ドアは普段乗っているステーションワゴンに比べると薄く感じ、横から突っ込まれたらどうなるかを想像するとちょっと怖い気もした。ただし、ダイハツは安全性能については入念な実験をしている。例えば側面に時速55kmでの衝突実験を実施した時でも、室内には十分な生存空間が確保されていることが実証されているという。
いざ走りだしてみると、時速40kmぐらいまでの加速・減速には、ほとんど違和感がなかった。街中で通常走るには今使っているクルマより、むしろ狭い路地などで重宝しそうだ。ただし、長い直線でスピードをだすと、非力な印象は否めない。風切音もやや大きい気がした。
新アイドリングストップも無事機能
ただし、なんといってもイースのハイライトは独自のアイドリングストップ技術だ。赤信号などで減速していき時速7km以下になると、自動的にエンジンが止まる。通常のアイドリングストップは、完全停止してからエンジンを止めるのに比べて、よりガソリン消費を節約できる。アクセルを踏めば、エンジンが再起動しスムーズに加速していく。
気になるのは、減速をして時速7km以下となり、エンジンが切れて停止する前にもう一度アクセルを踏んだらどうなるかだ。そこで停止寸前にアクセルを踏んでみた。エンジン再起動の音がして、スムーズに加速していく。動いている間にプルルルというエンジン起動音がするのはやや違和感があるものの、少なくとも運転の妨げにはならない。
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