格付会社のあり方とは
「年頭所感 格付会社のあり方」、JCRのサイトより
http://www.jcr.co.jp/top_cont/report_desc.php?no=2012010410&PHPSESSID=70a06f9855037028b1f83030b28f2572
内海孚社長は冒頭から、「2011年ほど、格付が市場とメディアを賑わせた年はなかったろう。それによって、格付について、その根元から考えさせられることになった。」とコメントしている。
その先頭に立つのが、いち格付会社による米国国債の格下げだ、として、米国債の格付に関して、「少なくとも現段階ではこの世界における格付の基軸となるべきものであり、その格下げには、慎重な上に慎重であることを要すると思う」と、かなり批判的なコメントをしている。このいち格付会社とは、いうまでもなく8月に米国債を格下げしたS&Pのことである。ただ、この格下げの際に動揺を見せたのは米国債ではなく、何故か米国株式市場であったのではあるが。
次に、内海氏はユーロ圏諸国を襲った格下げの嵐について言及している。「ギリシャに始まって、スペイン、ポルトガル、アイルランド、イタリアなどに次々と波及し、遂には、独、仏まで含んで一括的な格下げを行おうとする格付会社まで現出した。」。12月5日にS&Pはユーロ圏17か国のうちドイツなど15か国の格付けを格下げ方向で見直すと発表している。
「何とか危機を克服しようという政策努力に対して、微塵も考慮することなく格下げ競争を行ってゆくアングロ・サクソンの格付会社に対する批判と不信感が、欧州諸国に拡がっている」
「アングロ・サクソンの格付会社」というところが気になるものの、格付け会社に対してかなり批判的なコメントであることは確かであろう。これが格付け会社のトップの年頭挨拶に出ていることは、ある意味驚きとも言える。
このような動きの中、内海氏は「格付会社としてのあり方をその根底から見つめ直す必要がある」と指摘している。さらに以下のようなコメントもあった。
「格付会社は、格下げによって国や企業の資金調達を困難にし、その命運を絶つことができるという意味で、慎重な上にも慎重な配慮が必要である。少なくとも、市場の動きに便乗したり、これを徒に加速したりすることは厳につつしまなければならない。」
これはつまり、昨年の格付け会社によるソブリン格付けの動きは、格付け会社からも、「市場の動きに便乗したり、これを徒に加速したりすること」を意識した動きと見えたということであろうか。
そして内海氏は、JCRの行動基準として「我々と他社との基本的姿勢の違いは、格付先のSurvivalについて可能な限り配慮するかどうかというところにあったのではないか」としている。格付先のSurvivalというのは、米国のMITグスターヴォ・マンソー教授の論文からの引用である。
内海社長の今回の発言内容は、かなり共感できる部分が多い。しかし、格付先のSurvivalを意識するあまり、本来であれば警告の意味も含めて、格下げを行うべきタイミングを逸してしまう可能性も出てくるのではなかろうか。
ただし、本来、格付け会社とは決して目立ってはいけない存在ではないかと思う。債券市場を支える縁の下の力持ち的な存在であるべきはずが、マスコミ等を賑わし、さらに市場に多大な影響を与え、国の資金調達そのものに支障が出るような事態を結果として招いてしまったことに対しては、格付け会社にも責任はあると思う。そのあたりを格付け会社のトップが指摘したということには、何らかの意味もあると、内海社長の年頭挨拶を読んで感じた次第である。
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