代表取締役・社 長 サーリープッタ [バラモン出身] 知恵第一
専務取締役・総務担当 マハー・カッサパ[バラモン出身] 頭陀行第一
常務取締役・営業本部長 モッガラーナ [バラモン出身] 神通第一
取締役・第一営業部長 プ ン ナ [バラモン出身] 説法第一
取締役・第二営業部長 カッチャーヤナ [バラモン出身] 広説第一
取締役・中央研究所長 ス プ ー テ ィ [商 人 出 身] 解空第一
取締役・労 務 担 当 ア ヌ ル ッ ダ [クシャトリア出身]天眼第一
取締役・広 報 担 当 ヴァンギーサ [バラモン出身] 弁舌第一
取締役・法 務 担 当 ウ パ ー リ [シュードラ出身] 持律第一
取締役・財 務 担 当 ヤ サ [商 人 出 身]
監 査 役 ス ダ ッ タ [商 人]
相 談 役 ブ ッ ダ [クシャトリア出身]
ブッダの学派を企業にたとえると、その経営陣はザットこうなる。まさに綺羅星のごとき精鋭ぞろいである。実際、ブッダ学派が競合学派をリードして急速に勢威を拡大することに成功したのは、ひとつには幹部に優れた人材をえたからである。だから、ブッダが学派を離れてふたたび遊行の旅に出立したあとも、サーリープッタをはじめとする幹部たちによっておおむね経営は安泰だったようだ。しかし、ブッダの入滅後、そんな学派も彼を開祖にすえた宗教教団へ転進してしまうのだが、それは、ブッダにいわせれば、乗っ取りにひとしい所業だった。どうして、そんなことになってしまったのか?
ひとつには、急成長の要因そのものにもある。まず、社員のリクルートにおいて、地道な募集活動を怠って、競争企業からのヘッドハンティングを多用したことにある。サンジャヤ学派からサーリープッタとモッガラーナを引き抜いたときには、彼らの弟子たちがわれもわれもと追随して、師のサンジャヤは悔しさのあまり憤死したといわれている。
さらに、クライアントの確保――営業活動において重大な問題があった。というのは、「犀の角のようにただ独り歩め」とセールスマンを鼓舞するだけの人的販売に偏重して、ライバルだったジャイナ学派のように、マーケティング諸手段を整合的に展開することをしなかった。また、財政面においても、スダッタやアジャータサットゥのような大富豪や権力者に依拠して、ひろく民衆を組織していくという地道な市場開発の努力を怠った。
致命的には、縁起という立派な企業理念を掲げながら、「悟り」などというあいまいな個人目標しか与えず、それにいたるステップとカリキュラムを明示しえなかったことである。それらが、やがて教義のなかに輪廻思想を取り込む原因となって、学派として自滅していくことになるのである。