深い話は浅く、浅い話は深くする。これが憧れるかっこいい姿だ。
リリーフランキーとみうらじゅんの対談集「どうやらオレたち、いずれ死ぬっつ―じゃないですか」を再読した。
「人生」「人間関係」「仕事」「生と死」という重たいテーマについて、居酒屋で2人が話してるのを聞いている感じの本。ちょうどお酒がまあまあ進んで、いろんな発想が飛び交うあの時間帯の雰囲気だ。
今回レビューしていくのは1章「人生にまつわること」の部分。この章だけでも読み応えがあり、でもトークは軽いので聞き流さないよう気をつけて読んだ。
心に残った部分と、二人の話を聞いていて思った「深い話を浅く話す」ことについて話していく。
人生とは?
この章では、人生を悩む時に現れがちな9つのトピックについて対談している。それぞれの語尾に「とは?」がついていて、Q&A方式で進んでいく。
- 不安
- 満足
- 喜怒哀楽
- お金
- 知識
- 噂と嘘
- 酒とタバコ
- 羞恥心と自尊心
- それで結局、人生とは?
各トピックには2人の答えが一言ずつあり、続いてその結論に至った対話が書いてあると いう構成だ。一つ一つのトピックの感想を途中まで書いたものの、とんでもない量になったので、かいつまんで3つ紹介する。
不安とは?
みうら:安定って不安を感じるための装置みたいなものなんじゃない?
「どうやら俺たち、いずれ死ぬっつーじゃないですか」より引用
2人がイメージする不安は「加齢・病気・死」。わたしの今の不安も概ね同じで、一番は病気だった。
病気によって今の楽しい活動サイクルが中断されることを一番恐れている。それはきっと、ブログ・創作・仕事・交流のサイクルが安定してきたからだと気が付いた。
いずれ死ぬことだけは確定しているから、(ずっと不安で楽しそうに)不安定を乗りこなせという2人のメッセージには、笑いながらもじんわり心温まるものがあった。
知識とは?
リリー:知識というのは単なる情報だから、自分で摂取する情報をちゃんと選ばないと。
「どうやら俺たち、いずれ死ぬっつーじゃないですか」より引用
知識は使えてこそ意味があるというみうらじゅんと、知識が自分の邪魔をすることを危惧するリリー・フランキーのどちらの言葉も印象的だった。
世の中には別に知っていなくてもいい雑学であふれている。どれだけ博識だとしても、教養がなければ意味がない。その言葉が深く胸に突き刺さった。
みうらじゅんは著作をいくつか読んでいるからなじみ深い言葉が多いけど、リリー・フランキーの文章はほとんど読んだことがなくて、この切れ味というか、ちょっと刺さってくる感じが新鮮だった。
羞恥心と自尊心とは?
リリー:よく、「日本人はプライドが低すぎる」って言うけど、プライドじゃなくて美意識が低いんです。プライドはとても高いんですよ、日本人は。
「どうやら俺たち、いずれ死ぬっつーじゃないですか」より引用
この言葉には思い当たる節しかなかった。主語が大きすぎるんで自分に置き換えてみると、美意識が他人まかせであることが本当に多い。
「世間ではこういうメイクと服装が流行っているので、今まで好きだったこれはできないかなあ」「未だにこの本とアニメが大好きだけど、いい年こいてそれはもう言えないかな」とか。(後者は割と最近言っちゃってる感じもするけど)
羞恥心も自尊心も、変なプライドがあるから生まれる。つまらないプライドは捨てて、人の基準ではなく自分の基準で生きること。
2人がいうことを体得するには、たくさん経験するしかないようだ。このままいろんなことをやっていけば、もう少し深く分かるときが来るはずだ。
深いことは浅く、浅いことは深く
人生/人間関係/仕事/死生観…この本の扱うテーマは大きい。漠然としていて、つかみどころがなくて、気が重くなる。
しかし2人は、核心に迫るような話を軽〜くする。
途中で下ネタを挟むこともしばしばで、でもよく考えれば性は三大欲求の一つだし、欲の一つとして例をあげているのか?と思ったり、や、これはしたいからしてるだけだなと思い直したり。
今回感想を話したのは1章の人生についてだけだったけど、一冊を通して伝えたいことは「今を生きろ」ということなんだと思う。
人は、まだわからない未来、もうどうしようもできない過去にとらわれ続けるもんだけど、それはそれ。結局今しか生きれない。
どこかで割り切って、自分なりの美学に沿って今を生きるんだよ。美学については、自分の人生をかけて、とことん突き詰めるんだよ。2人に背中を押される感覚を得た。
(おまけ話)賢者に、なるには。
2人を見ていて、「賢者とは、一見愚者のような振る舞いをするなぁ」と感じた。一周回ってイージーモードな感じ。これがわたしの憧れるかっこいい姿だ。
この境地に行くには、わたしは何をすれば良いかな…その時思い浮かんだのがこの文章。
君にないものは、金、時間、自由、心の平和、労働経験、街遊び、女、刺激、この他、君の傑作を作り上げるのに必要なものすべてだ。
バレリア・ルイセリ著「俺の歯の話」より引用
お久しぶりの競売士、サンチェス・サンチェスのお言葉。若き売れない作家に彼はこの言葉を寄せるのだ。返事は「まったくその通りです」、わたしもまったくそう思う。
わたしに足りないもの、金、時間、自由、心の平和、労働経験、街遊び、女(男…?これはナシ!)、刺激、この他、わたしが目指すところに必要なものすべてを、倫理内で体験しまくろう。ああ、また忙しくなるぞ、これから。
その先には…いや、そこまではいいや。この過程がまず最高に楽しいのだから。存分に味わおう。