わが逃走[272]東京コンパクト散歩の巻
── 斎藤 浩 ──

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電話をひとりひとりが持ち歩くようになり、その電話にカメラが組み込まれるようになったと思ったら、あっという間にコンパクトカメラの存在意義がなくなってしまった。

あの黒い板を一般的には電話と呼称するが、実際あれを電話として使うことは稀だ。厳密にいえば、携帯型パソコンなのだろうが、広告においては、ほぼカメラとしてアピールされている印象すらある。

さて、機能としてのカメラとモノとしてのカメラは違う。モノとして、私は電話よりカメラが好きなのだ。これはもう、ただ好きか嫌いかという話であり、理由なんかない。





つまり、カメラマンと電話マン、どちらに憧れるかといえば誰がなんと言おうとカメラマンだ。なので、私は電話のように携帯しやすいカメラを持ち歩いている。

このカメラを手にいれてから2年と数か月が経つ。それまで所有していたものと比べると、ズームの倍率は格段に上がったが、解放値は格段に下がった。

画像もシャープさに欠けるように思う。記録写真用と考えていたので文句は言わないが、以前のカメラの鋭敏で味わいのある描写がやけに懐かしくなるから困る。

ちなみにSONY RX100M3からLeica C-LUXに買い換えたのだが、ブランドと見た目を優先して大枚を叩いたため、後悔していると認めるのがクヤシイのである。

ちなみにC-LUXはパナソニックのナントカいうカメラのOEMらしい。じゃあ、パナソニックのナントカなら後悔しなかったかといえば、そもそも買おうという気にならなかった。だってカッコ悪いんだもん。

つまり使いこなせてないのだ、きっと。そう思い、積極的に持ち歩こう週間と銘打って、出かける必要が生じた際は、必ずC-LUXを持っていくことにしたのだった。

まず微妙にピンが甘い印象をなんとかしたいと思い、マニュアルフォーカスを使うことにした。オートフォーカスを信用しないわけじゃないが、AFエリアを狭めたところで、ピンの合う“幅”はカメラ任せになる。

なので、責任の所在を自分の目としたほうが気分的にラクになると考えた。

つぎに、RAWデータの設定を「圧縮ナシ」にした。これこそが“イマイチ写真”量産の元凶だったようだ。

買ってからずっと、圧縮アリのRAWで撮っていたことにまったく気づかなかった。同じ1インチセンサーなのに、RXと比較してなぜこうもラチチュードが狭いのかと疑問だったのだ。

これはカメラのせいでなく、自分のせいだった。で、いろいろと撮ってみた。結果はというと……。前よりはイイかも。

これは明らかに非圧縮RAWのおかげだと思う。Lightroomで現像する際も、格段に自由度が違う。またAFに頼らない撮影方法も、私の撮り方(というか被写体)に向いていたようだ。

●日本橋界隈
https://bn.dgcr.com/archives/2020/12/03/images/001

ギャラリーの帰り道。このあたりは幅の広い道が多く、また歩行者が渡れる交差点も限られているようで、どうにも赤信号に当たる確率が上がる。休日なので人も少ない。自然に歩調も緩んで、オモシロイ物件に気づく確率も上がるのかもしれない。

このカメラは絞りの選択肢は少ないが、ズームの倍率がスゴい。寄らなきゃ損とばかりに思い切り迫ってみると、リズミカルな抽象画が切り取れた。

おお、寄るって楽しい。しかもマニュアルでピントを合わせると、けっこう納得がいく。望遠はとくに前後のフォーカスの差がでやすいのでMFにして正解。

●直線と曲線
https://bn.dgcr.com/archives/2020/12/03/images/002

Twist,Twist,くねくねハイウェイ、つっぱしって Twist,Twist,つむじまがり… 東京ラッシュ!

ハナ歌まじりにシャッターを切る。普段は見過ごす高架のスキマまで寄れる。購入後2年目にして、ようやくこのカメラが楽しくなってきた。

●トラスと球体
https://bn.dgcr.com/archives/2020/12/03/images/003

上野広小路界隈。球体のマウント部分がカッコイイ! と思うのだった。360mm相当、絞り8、1/500。コンパクトカメラとしては充分な性能じゃないか!

この2年間、画角の自由度をもっと活かして写真を楽しむべきだった! といまさらながら反省する。とにかく、「寄れる」のだ。

●白い四角形
https://bn.dgcr.com/archives/2020/12/03/images/004

「アートパラ深川」の帰り道、不思議物件に出会う。看板の痕跡だとしても、ずいぶんと美しく丁寧な仕事である。
展覧会を観た後なだけに、ミニマルアートがこんなところに! と思わずカメラを構える。そして寄る!
360mm相当、絞り7.1、1/1000。

●東富橋
https://bn.dgcr.com/archives/2020/12/03/images/005

門前仲町界隈。

トラス橋を見上げる。リベット周囲の塗装のハゲもきちんと解像、逆光のツブレもなし。

欲をいえば、光学的にあと一歩シャープな絵になってほしかったが、これはこれで味があるのでよしとする。それにしてもトラス橋って機能美だなあ。換算でだいたい85mm域。

こうしてみると、やはりこのカメラは望遠がオモシロイと思う。今までほとんど使わなかった領域だし、それほど必要とも思ってなかったけど、なかなか奥が深いものよ。しばらくはこの領域を楽しみつつ、さらなる使い方を探っていこうと思う。

そしてやはり散歩は楽しい。


【さいとう・ひろし】
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。