富山や金沢にご縁があるなあと思っていたところ、このたび所用で、北陸三県における未踏の地・福井に降り立つこととなった。
福井駅周辺の第一印象は、地味。富山ほど素朴じゃないし、金沢の派手さには程遠い。
金沢は伝統的な街並みをぶっ壊して近代的な都市に生まれ変わるつもりなのか、本末転倒な再開発っぷりに圧倒される。
富山は富山らしく素朴かつ誠実なまちづくりを目指せばいいのに、変なところで金沢に対抗意識を燃やして空回りしている印象だ。
対して福井に感じたのは、微妙な区画整理が広く薄くひろがるイメージだった。ひとことで言えば、地味なのである。
もちろん東へ向かえば美しい山々が、西へ向かえば日本海が雄大な風景として迎えてくれるだろう。それをわかった上で、この日歩いた街並みは、やはり、こう、なんというか、地味だったのだ。
駅前のホテルに荷物を預け、カメラ片手にしばらく散歩する。空は広く、美しい川にかかる大きな橋には路面電車が走っている。
川を渡るとともに、街並みに感じる既視感。なつかしさ。平らな土地に、似たような住宅が立ち並ぶ光景。
道路幅も均等、家々も均等に配置されている。こ、これは……。私が育ったS玉県に似ているのかもしれない!どうりで地味に感じるわけだ。
というわけで、ここらでカメラ散歩にて得られた、シブい物件を紹介していきましょう。
●輪郭線
いわゆる原爆型のトマソンだが、壁面ではなく、屋根のラインのみ刻まれているのが興味深い。
●でっぱった穴
ごく普通のブロック塀だが、穴あきブロックのみ奥行きが長い。ツラをどこに合わせてあったのかを確認しなかったので、次回訪問の際は確認したい。
手前のブロックの欠けは、「ギリギリ駐車」を狙ったテクニカルドライバーがうっかりバンパーをあててしまったのだろうか。さぞショックだったであろう。
●やたら長い直線階段
平地の中に突然現れる「足羽山」。東側からアクセスするこのストイックな急階段には、百坂という名前がついて
いる。正保年間から続く由緒正しい階段である。
平成半ばに改修工事が行われたせいか、段の幅や高さが妙に揃っていてワビサビが少ないのが残念。
●愛宕坂脇の雨樋
足羽山の北側の尾根にそったゆるやかな階段が愛宕坂だ。ここは足羽神社の参道にあたり、階段自体は平成半ばのリノベ物件。隣接する家屋の大半も再建されたもののようで、周囲には更地も目立つ。風景はゆるやかに変わってゆくのだなあ。
そんな中、飾らない生活感と機能美を兼ね備えたステキな雨樋を発見。隣のホースの巻きっぷりも含めて、これはまさに詠み人知らずの彫刻と言えよう。
●背の高いバス停
地味だけど個性的。なぜこのようなカタチに? と思い地元のヒトに訪ねてみると、雪で埋もれても認識できるようにとのこと。極めてシンプルかつ明快な理由でした。
●「洋菓子専門店」の看板
独特の色彩(写真はモノクロ)で個性的なネーミングの看板が並ぶ! 歴史も長く、地元では有名なお店らしい。こんど行ったらわらびもちとバウムクーヘンを食べてみたい。
●V字踏切
類似する踏切が『タモリ倶楽部』でも紹介されている。急カーブする線路の内側に、十文字の道路が重なっている。って言ってもわかりにくいか。こんどはより明快かつ面白く撮れるよう心がけます。
さてこの路線こそ福井鉄道福武線である。たしか福武線にはシブい車両・200形が走っていたような……。調べてみたところ、すでに現役を引退。現在は北府駅に留置してあるらしい。
走行シーンが見られないのは残念だが、スクラップにされず、本線に繋がる線路上に存在しているのはとても嬉しい。今回は時間の関係で見ることはできなかったが、次回は是非訪ねてみたいと思うのだった。
そんなわけで福井駅周辺散歩でした。次回はもう少し深いところまで踏み込んで、よりシブい物件を探したいと思う。
【さいとう・ひろし】[email protected]
http://tongpoographics.jp/
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。