◎今週の一枚──佐野元春「タイム・アウト!」
「佐野元春 1990-1999 オリジナル・アルバム・リマスタード」
(ソニー・ミュージックダイレクト DQCL 1642〜7)より
佐野元春の1990年代のオリジナル・アルバム全6枚が、ボックスセットとなっているうちの1枚。2009年12月発売。完全限定生産。
前回に続いての佐野元春作品です。「佐野元春 1990-1999 ...」は、90年代に出たオリジナル・アルバムすべてがリマスタリングされた上で、Blu-spec CD仕様で再発売されたものです。「タイム・アウト!」から「Stones and Eggs」までの6枚の再発売は、これが初めてになります。
リマスタリングの恩恵を最も感じるのは、やはり1990年発表の「タイム・アウト!」でしょう。実はこのアルバムを、僕はあまり好きになれずにいました。先行シングルだった「ジャスミンガール」のように軽快なロックナンバーもあるのに、オリジナル盤(ESCB 1111)では全体的に元春のボーカルが元気なさげに聴こえ、かなり地味な印象だったためだろうと思います。ジャケットもモノクロっぽい色調で、明るさを感じるものではありません。
ところが大変うれしいことに、この再発盤で印象が一変しました。発売から20年も経った今になって、お気に入りの一枚となっています。技術の進歩には、どれだけ感謝してもしすぎることはありませんね。再発盤を聴いて、元春のボーカルは、前面に出しゃばらないよう控えめにミキシングされているだけで、実はいつものように元気よくシャウトしているんだと分かるようになりました。そして、元春を支え、バンドサウンドを形作っているのはザ・ハートランドの面々。彼らの演奏のシンプルさと締まりの良さも明確になっています。
「佐野元春 1990-1999 オリジナル・アルバム・リマスタード」
(ソニー・ミュージックダイレクト DQCL 1642〜7)より
佐野元春の1990年代のオリジナル・アルバム全6枚が、ボックスセットとなっているうちの1枚。2009年12月発売。完全限定生産。
前回に続いての佐野元春作品です。「佐野元春 1990-1999 ...」は、90年代に出たオリジナル・アルバムすべてがリマスタリングされた上で、Blu-spec CD仕様で再発売されたものです。「タイム・アウト!」から「Stones and Eggs」までの6枚の再発売は、これが初めてになります。
リマスタリングの恩恵を最も感じるのは、やはり1990年発表の「タイム・アウト!」でしょう。実はこのアルバムを、僕はあまり好きになれずにいました。先行シングルだった「ジャスミンガール」のように軽快なロックナンバーもあるのに、オリジナル盤(ESCB 1111)では全体的に元春のボーカルが元気なさげに聴こえ、かなり地味な印象だったためだろうと思います。ジャケットもモノクロっぽい色調で、明るさを感じるものではありません。
ところが大変うれしいことに、この再発盤で印象が一変しました。発売から20年も経った今になって、お気に入りの一枚となっています。技術の進歩には、どれだけ感謝してもしすぎることはありませんね。再発盤を聴いて、元春のボーカルは、前面に出しゃばらないよう控えめにミキシングされているだけで、実はいつものように元気よくシャウトしているんだと分かるようになりました。そして、元春を支え、バンドサウンドを形作っているのはザ・ハートランドの面々。彼らの演奏のシンプルさと締まりの良さも明確になっています。
また、このアルバムでは、内省的な元春の心情が、通奏低音のごとく響いているように感じます。元春自身が「タイム・アウト!」を「ホームアルバム」と称していることにも、なるほどと納得のいくサウンドです。象徴的なのが10曲目「ガンボ」のラスト。フェードアウトしていく部分で元春は「誰か ここに来て 救い出してほしい」というセリフを語っています。この時期の元春は、心の中の「ホーム」へ回帰しようとしていたようです。おそらくは、このアルバム制作のごく近い時期に身内を亡くしたことも影響していたのでしょう。
この新たにリマスタリングされた音源で「タイム・アウト!」を聞き直すと、オリジナル盤が実際以上に地味に聴こえていたんだと、つくづく感じます。当時のマスタリング技術や機材が、まだ十分と言えるレベルでなかったことに、地味さを増していた一因があるのは確かでしょう。
けれども、当時を振り返り、よく考えてみて、僕自身の心境のほうが大きく影響していたんじゃないかと思えてきました。このアルバムが出た頃の僕は、初めての一人暮らしを始めておよそ一年半。世間はバブル景気の真っ最中です。貧乏学生の僕が、絶好調の日本経済の恩恵に浴することはほとんどなかったはずで、むしろ逆に、僕の大学生活は決して好調と言えない状態でした。
そんな僕にとって「タイム・アウト!」は積極的に聴きたい音楽じゃなかったようです。寂しさや辛さを紛らわせるため、もっと華やかで派手なサウンドを無意識のうちに求めていたのかもしれません。中島みゆきを聴いてますますどっぷり落ち込み、カタルシスの中で精神的に浮上する、というのとは逆ですね。どうしようもなく今さらですが、「20年前に『タイム・アウト!』を好きになれなくてゴメン」と、この場を借りて元春に謝っておきます。
さて、「佐野元春 1990-1999 ...」の発売から半年以上が経ちました。6枚組とは言え、15,000円というのは安くありませんし、一般のレコード店では売られてないので、このセット品を買うのはよほどのファンに限られます。そういう商品特性を踏まえた上での完全限定生産ですから、そろそろ売り切れていてもおかしくないのですが、実際は今も販売が続いています。販売数が想定を下回っているのは想像に難くありません。ファンのひとりとして、これはちょっと残念です。全体的にCDが売れなくなっていることが、こんなところにも現れているように思います。
また、「佐野元春 1990-1999 ...」収録の6枚については、公式サイトに書かれているようにアルバム単体での販売計画もあり、今年の春に発売予定となっていました。しかし、まだ何もアナウンスのない状況です。「佐野元春 1990-1999 ...」の売れ行きが芳しくないとすれば、これも合点の行く話です。延期されているのか、すでに中止が決まっているのか分かりませんけれど、日が経つごとに、単体販売されない可能性が高まっているように感じます。ひょっとしたら、今回のような形で「佐野元春 1990-1999 ...」の6枚のアルバムを入手できるのは、これが最後かもしれないとも思います。次はCDではなく、「高音質仕様でのネット配信」が待ってますから。
佐野元春オリジナル・アルバム・リマスタード 1990-1999 - Moto's Web Server
< http://www.moto.co.jp/remaster/90s/
>
MOTOHARU SANO 1990-1999 ORIGINAL ALBUM REMASTERED - Sony Music Shop
< http://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&cd=DQCL000001642
>
【えむ】 [email protected]
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