情報発信すると新しいことにつながってワクワクする。からあげさんがブログを書き続ける理由【エンジニアのブログ探訪】

エンジニアのブログ探訪第7回 からあげさん

はてなブログで技術に関するブログを書いている方に、“ブログを書き続けること”について教えてもらう企画「エンジニアのブログ探訪」。第7回は、日常生活からハードウェアの話題まで幅広くブログを書くからあげさん(id:karaage)に登場いただきました。

からあげさんのブログのカテゴリを見ると、Raspberry Pi(イギリスのラズベリーパイ財団が学校教育用に開発した小型コンピュータ。通称ラズパイ)やJetson Nano(NVIDIAが提供する小型コンピュータ)などの電子工作、カメラ・写真、本・漫画、人工知能、珍スポット、グルメなど、多種多様な内容が書かれていることが分かります。また、ブログをきっかけとした書籍の出版やイベント登壇など、活動の幅が広がっていることも伺えます。

2006年12月から続くブログで、からあげさんはどのようにブログと向き合ってきたのか、何が継続のモチベーションとなっているのかについて伺いました。

※取材はメールインタビューで実施しました

──ブログを始めたきっかけについて教えてください。

私がインターネットで文章を書き始めたのは、20年以上前の、まだブログという言葉が生まれる前のインターネット黎明期だったと記憶しています。

当時、自分は学生だったのですが、その時はインターネットで何か情報を公開するということ自体が、かなり難しいことでした。具体的にはHTMLのタグを打って、FTPでファイルを1つずつアップロードしたりしていました。多分、今のはてなブログのシステムに慣れている人には、到底耐えられない手間だと思います。私も今はもう無理ですね(笑)。

ただ、あの頃はネットで自分が作ったものを公開するということが、とにかく楽しく刺激的でした。なので、きっかけがあってブログ(当時はホームページ)を始めたというより、ネットで遊ぶことに夢中になっていたら、いつの間にか始めたという方が近いと思います。あの頃にホームページを始めた人は、同じような人が多かったのではないかなと思っています。

──ブログにはどのようなことを書いていますか?

エンジニアのブログというと、はてなブログでは、仕事でコードをガリガリ書いている人が多いと思うのですが、私は仕事を始めるずっと前からブログを書いています。会社もIT系ではなく製造業で、コードを書くこともほとんどなく、コードを書くのはほぼ趣味です。なので、他のエンジニアさんのブログとはかなり毛色が違うかもしれません。

ブログのカテゴリーも「電子工作」「カメラ・写真」「本・漫画」「人工知能」「プログラミング」「日記」など多数のジャンルが雑多に並んでいます。無秩序に見えますが、自分の中では「オリジナリティある楽しいモノづくりをする」という点ではかろうじて一貫しているつもりです。技術的には、Raspberry Pi、Jetson Nano等のマイコンや電子回路などのハードウェア情報が多めなのが、珍しい点かもしれませんね。

からあげさんのブログ「karaage. [からあげ]」

参考にしている……というか尊敬しているブログは、ブログ友達であるろんすたさんの「変デジ研究所」です。ろんすたさんは、エンジニアではないのですけど、ブログに取り組む姿勢に大いに影響と刺激を受けています。

あとは、モノづくり系のメディアでは「デイリーポータルZ」(DPZ)ですね。特に、斎藤公輔(NEKOPLA)さんの記事は技術的にもエンターテイメント的にもレベルが高く、しっかり記事を書かれているので、読むたびに「自分はもっと丁寧に記事を書かないとだめだな」と一人で反省しています(笑)。

昔は、密かにDPZをライバル視していて敵意をむき出しにしていたのですが、あるイベントでなんとDPZのライターさんたちから挨拶していただいて、自分の小ささを恥じました。今ではすっかりただのファンになっています(笑)。

──ブログを書き続けてきた中で苦労したことはありますか?

私は20年以上ネットで文章を書き続けているのですが、実は書くことがなくて困ったという経験は、ほとんどないです。この点に関しては、ひょっとしたら自分は才能があるのかもしれません。20年近くかかって気づきました。

なので、自分の体験からアドバイスできず申し訳ないのですが、基本は「自分が困ったことを書くこと」が大切だと思います。自分が困っているということは、たいてい他の誰かも困っているはずです。すなわち、そこに需要があるはず、と私は考えています。

──「ブログを書き続けたいが続かない」という人へのアドバイスがあれば教えてください。

とにかく書くハードルを下げることですね。

特に、なまじ自分の得意分野だと、中途半端にプライドができてしまうため、低いレベルのものを見せるのが恥ずかしい。「ばかにされるのが嫌だ」という気持ちが強くなりがちです。ただ、700年以上前に書かれた「徒然草」という有名なエッセイで作者の兼好法師は、

「下手くそなうちは、人に見られたら恥だ。人知れず猛特訓して上達してから芸を披露するのが格好良い」などと、よく勘違いしがちだ。こんな事を言う人が芸を身につけた例しは何一つとしてない。

「徒然草」(吉田兼好著・吾妻利秋訳)より引用

と書いています。例えば私自身、ソフトウェアはそれほど得意じゃないのですが、下手なときから(今でも下手ですが)、ためらわずコードをネットに公開していました。

その結果、「PyCon mini Shizuoka 2020」というプログラミング言語Pythonのカンファレンスで、初回のキーノートスピーカーとして登壇させていただくことができました。正直、私より良いコードを書ける人はたくさんいると思います。その中で、私がこのような機会をいただけたのは、日頃からブログを中心とした情報発信をしていた結果だと思っています。

──ブログを書いていて良かったことは何ですか?

一つはやはりブログを通じて友人ができたことですね。「大人になると、新しい友人はできなくなる」とよく言われますし、実際に仕事だと、どうしても利害関係が影響してしまうので、純粋な友人はなかなかできないと思います。

でもネットを通じてなら、年齢や立場関係なく仲良くなれるんですよね。その中でもブログの果たす役割は大きいと思います。長年ブログをやっている人だとブログにその人の人生が詰まっているようなものなので、ブログの読者としてつながっている人は、初めて会っても、お互いずっと前からの知り合いだったような感覚で接することができるんです。これは長い間ブログをやっている人なら分かり合えるのではないかと思います。

ネットでのつながりをきっかけに、いろいろな可能性が広がったのも良い変化の一つです。具体的には、ブログを読んでくださったGoogleの社員の方から連絡をもらい、Google本社で200人以上が参加する勉強会に登壇させていただきました。「Jetson Nano超入門」「人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室」といった書籍を出版できたのも、ブログから生まれたつながりがきっかけです。これらは、ブログを書いていなければ、絶対自分には起こらなかったことです。

Jetson Nano超入門人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室(日経BP)
Jetson Nano超入門(ソーテック社)/人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室(日経BP)

──ブログを書くために工夫していることがあれば教えてください。

一つは、自分のペースを守ることです。今は週に3本のペースでブログを書くようにしています。あらかじめ、前の週にはブログを書いておいて、次週の月曜・水曜・金曜の朝7時30分に公開されるように予約投稿しています。

私は、ブログは書く人によって、それぞれ最適なペースが違うと思っています。自分なりの最適なペースを見つけるのが重要だと思います。私が今のペースに落ち着いたのは、ここ数年のことです。試行錯誤しながら自分のペースをつかむのが良いと思います。

もう一つは、ブログを書いた後、ブログが公開されるまでに日をおいて最低1回は見直すようにしていることです。これは文章のミスを減らしたり、クオリティを上げたりすることはもちろん、不要な炎上を避けるためでもあります。

一時の感情に任せて一気に書き上げた文章は、書いた直後は満足しても、後で見ると「なんじゃこりゃ?」ってものであることはよくあります。客観的な視点で自分の文章をみる一番手軽な方法は、日をおいて自分の文章を読むことです。

──執筆時の様子について教えてください。

ブログを書くことが多いのは、自分の部屋です。

特に私の場合、技術的な内容の記事を書くのに、多くの機材と作業スペースが必要となるので、L字机に必要な機材を置いています。

狭い机に我慢できなくなってL字机を購入して超快適になったので使い方など紹介 - karaage. [からあげ]

f:id:hatenablog:20210719113928j:plain

最近は、PC環境はiMac・MacBook Air・サブディスプレイ。サブディスプレイの下にはSeeed StudioのODYSSEYというミニPCがあって、OSはUbuntu(Linux)を入れています。

左側に見えるのは、ラズパイやJetson Nanoといったマイコン、myCobotという格安の小型6軸ロボットアーム、3Dプリンタ、はんだごてといった感じです。このあたりの機材はそのときどきに応じて入れ替わります。写真には写っていませんが、いすはGTRACINGのゲーミングチェアです。

電子工作に必要な機材の収納は、写真左の壁側に見える有孔ボードを活用して、収納を増やしています。その他は、無印良品のユニットシェルフやポリプロピレンのケースを活用した収納システムを構築しています。部屋に関しては、Webメディア「fabcross」さんでも取り上げられていたりしますので、よろしければそちらも合わせて参考にしてみてください。

IKEA長久手で買ったお部屋をグレードアップする「有孔ボード(ペグボード)」と「卓上ライト」他 - karaage. [からあげ]
収納システムにより生まれ変わった荒れ放題だった部屋の3年後 - karaage. [からあげ]
ラズパイ棚から工具のカラーコーデまで!みんなの「#家ラボ」はまるで秘密基地だった | fabcross

文章を書くだけなら、場所はそれほどこだわりがなくて、ノートPCさえあればどこでも書けます。時間は、家族が寝静まった夜に書くときが多いので、大体夜中の1時とか2時とかですね(今も夜中の1時半に書いてます)。

──これまでブログを続けられたのはなぜでしょうか?

ブログを書く楽しさとして、最近はブログでの情報発信が新しいことにつながるようになってきたので、それがポジティブなフィードバックになっていることを実感しています。

大きなイベントでの登壇、書籍執筆……次はどんなことが起こるのだろうと、ワクワクしています。今回の「エンジニアのブログ探訪」への記事投稿も、もちろんそのうちの1つです。

ブログなどを通じた情報発信に関しては、全くの偶然なのですが、つい先日KDP(Kindle Direct Publishing)で「ゼロから始める情報発信」という書籍を個人出版しています。

「ネットでの情報発信で、自分の人生の可能性が少し広がるといいな」と漠然とした思いを持っている人に向けて書いた本です。私の20年以上の経験が詰まった書籍で、今回の記事では書ききれなかったこともたくさん書いてあります。記事に共感いただけた方に読んでいただけるとうれしく思います。

最後にですが、ブログは後から読み返すと、思いがけない過去の自分の姿と向き合うことができるものです。たまに10年以上前に書いたブログ記事を読み返すと、自分でもこっ恥ずかしかったりしますが、同時に懐かしい気持ち、今の自分には書けないなという気持ちが沸き起こってきます。こういう体験は、長年ブログを書いていたからこそできる経験です。

ブログを書くというのは、人のためという気持ちもあるのですが、私の場合は、結局自分のために書いているのだろうなと思っています。

お話を伺った人:id:karaage

papix

愛知県のモノづくり系企業で働くエンジニア。趣味はカメラと電子工作。インターネットで20年近く情報発信を継続中。「ラズパイマガジン」「日経Linux」など多数の商業誌・Webメディアへ記事を寄稿。2019年、Google Japan本社でのTensorFlow User Group Tokyo主催の勉強会で登壇。2020年、Python関係で著名なカンファレンスPyConの地方版となる「PyCan mini Shizuoka」にキーノートスピーカーとして登壇。個人としてモノづくりを楽しむメイカーとしても「Ogaki Mini Maker Faire」をはじめとした複数のメイカー系イベントに出展。著書に『Jetson Nano 超入門』(共著、ソーテック社)、『人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室』(日経BP)がある。好きな食べ物は、からあげ。

Twitter:@karaage0703
ブログ:karaage. [からあげ]

◆ エンジニアのブログ探訪