goo blog サービス終了のお知らせ 

Tokyo日記

社会学者のよしなしごと

杉浦由美子著『腐女子化する世界』と『オタク女子研究』

2006-12-22 00:20:41 | æœ¬ã‚’読んだ
基本的には、あんまり本を読んで、とくにネット上に批判がましいことは書きたくはないんだけれども、杉浦由美子さんの『腐女子化する世界』と『オタク女子研究』に関しては、あまりにちょっと…なのではないかと、久しぶりに…という気分になった。

まず『腐女子化する世界』(ラクレ新書)を読み始めて、「あれ? またやっちゃったのかなぁ?」と思った。やっちゃったというのは、もっている本を二度買いすること。最近ボケに拍車がかかっているうえに、買った本にカバーを書けて貰うことが多いので、同じ本を二度買ってしまうことがないわけではない。それをまたやっちゃったんじゃないか?って思うくらい、読んだことのあった気がする本だったわけです。

しばらく読み進めて、『腐女子化する世界』が『オタク女子研究』というその前に出された杉浦さんの本とほとんど内容が同じだったからだということに気がつきました。いや、同じようなテーマの本だから、そんなに違うことは書けないのかもしれないけれど、新書やこんな薄い本で、批判の対象にしている『最後のY談』の中村うさぎ他の引用箇所までが同じっていうのは、ちょっとどうかと。結局、『腐女子化する世界』は、『オタク女子研究』に「腐女子化は格差社会を生き抜く知恵」という最終章をちょこっと付け加えただけの本、というような感想をもちました。

テーマが同じなので、ある程度の重複は仕方ないのかもしれないけれど、ここまで重なっていると、さすがにちょっと「お金返してくれないかなぁ…」という気分。同じテーマでも違う切り口で書くとか、やり方はいろいろあるはずな訳で、ほぼ半年のうちに同じような重複する内容で本を出すのは度胸があるなぁと…。

まぁそれはさておき。やっぱり内容に賛同できないのが、違和感としては大きかったです。中村うさぎと森奈津子がやおいを、自分が入らない幻想であることから、自己否定感が強い妄想、「女であることが嫌いなんでしょうか?」(森)「…わたしもそうなんだよね」(中村)と語ることに対して、一貫してそれを否定する。

女の子は同性愛的妄想が好き。男ばかりではなく、『コミック百合姫』が発売されているから女性同性愛も好き(ネット上で彼女の知識がかなり間違っているという詳細な批判を読みましたが、ここのコミック名他、訂正された模様)。だから自己否定なんて関係ない。男を対象にするのは、異性愛者の女は男が好きだから「健全」な反応。

って、ボーイズラブが年間100億市場とも、120億市場ともいわれているのに、『コミック百合姫』って何部売れてるんでしょうか? 私見では、どうももう危ない気がしますが…。この非対称性に目をつぶることは(しかも「女の子は同性愛的妄想が好き」っていうことの説得的根拠は何にもない…)、わたしにはやっぱりできないように思います。異性愛者の女は男が好きだとしても、なぜそれが同性愛的妄想でなければならないのか、については、かなりの理由付けが必要であるし、可能であると思います(また別に書きます)。

しかも「『リバーシブル』(男役と女役が入れ替わること)は腐女子界では一番嫌われます。『二元論で語れないものは嫌いだわ!』ってすごいファシストなのですね、腐女子のみなさん」という件には、やや脱力しました。わたしはこれはこれでジェンダーの問題を考える際に重要な問題を提起していると常日頃から思っていたのですが、「ファシストなのですね、腐女子のみなさん」で説明終わりです。なんだか…、あまりにこの手の現象に愛がないなぁっていうか、「腐女子」が「売れる」テーマであることは間違いないんでしょうけれど、それをきちんと解明したいという気力や誠実性、愛情がまったく感じられないことに、ちょっと疑念をもってしまいました。

「なぜ、社会でバリバリ働く女性たちがボーイズラブを読むのか? それは単純にいってストレスが多いからだと思われます」。ボーイズラブは「気軽」な娯楽だというのは間違いないとしても、ではなぜ、ボーイズラブなんだろうか? やはり社会学者としては、そこを解き明かして欲しい。ちょっと肩透かしを食らった気持ちです。そこまで要求するのは要求しすぎなんでしょうか?

全編を通して、腐女子はそんな特殊な人じゃないし。モテモテの腐女子も多いし。っていうことを恐ろしいほどに力説する杉浦さんに、わたしはむしろ興味をもちました。腐女子はある意味、社会に適応して、現実に恋愛をしたり結婚をしたりしているひとたちである、という現象自体が、やはり中島梓もいうように、面白い現象であり、理解可能な現象(つまりは腐女子の世界が、ある意味でのジェンダー秩序へのプロテストであり、また既存のジェンダー秩序への適応を促すものである)という気がするのです。

日記ではこれ以上書きませんけど。でも『オタク女子研究』、「予想外に40代・50代の男性たちにも好評だった」と後書きで書かれる杉浦さんに、「そうだろうなぁ…」と納得。予想外というよりも、やはり40代・50代の男性たちの幻想に合わせた視点で腐女子をポップに語った本であって、腐女子の世界に寄り添って書かれているようには思えなかったからである。一言でいえば、腐女子への愛があんまりない腐女子本だなぁと、残念に思いました。