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「パノラマ島綺譚」丸尾末広（エンターブレイン）



コミックビームという漫画月刊誌に連載されていた丸尾末広による江戸川乱歩原作の「パノラマ島綺譚」が単行本となった。とにかく江戸川乱歩の作品中でも脳内麻薬炸裂、五感が超敏感になり研ぎ澄まされた、パラレルワールドの住人によるそら怖ろしくも美しい物語、最早いっちゃってるとも表現し難い崇高なる作品がこの「パノラマ島綺譚」なのである。

それに四つに組んだのが乱歩に負けじ劣らじ漫画界の鬼才・丸尾末広。ただ、ボク自身は丸尾末広については、その存在は以前よりその特異な表現に惹かれるものがあったものの、今まで積極的にはその世界には触れずにいたのであります。

今回、多大彼にな影響を与えたとされている江戸川乱歩に取り組んだということもあり、連載中から欠かさず読んでいました。毎回、丸尾漫画の世界には惹きつけられ久々に漫画を読んでドキドキ感覚を味わうということをさせていただいておりました。それは丸尾が確実に乱歩的感覚を我がモノとしていること、読んでるこちらも主人公・人見広介の、特に目の描写に彼の誇大する妄想に対してやむにやまれず異常な行動を起こしてしまうその心理の動きがよく現れており、そのうまさに唸りっぱなしなのでありました。

乱歩の世界がここまでぴったりとはまる作家もそうはいません。むしろ、作品に描かれている変態性、残虐性は、丸尾氏が漫画というビジュアルで訴えかけるぶん乱歩以上にリアルに迫ってきます。というのも意外と乱歩は書いている内容は凄いのですが、描写はマイルドになっているからです。

この丸尾版「パノラマ島綺譚」、そのインパクトはメガトン級で、その要因は原作に忠実にその主人公・菰田の心理や幻想の王国パノラマ島を丁寧に描いたことにあるのだと思います。乱歩的な世界のステレオ・タイプ的なオドロオドロしさのみが強調され前面に出るのではなく、物語性が重視しています。（主人公の菰田の心理描写が素晴らしい！）

空前絶後の空間パノラマ島の描写においても丁寧に、そしてさりげなくパノラマ島の住民にサロメを演じさせたり、澁澤龍彦が愛したゴシック彫像物を配置させたり、殺害され水面に浮かぶ千代子はラファエル前派の芸術に見られる構図をとっているなど知的な遊びを多く盛り込んでおります。（その他にもいろいろあります）

あるいは菰田家の頭も禿げ上がった中年の使用人が、パノラマ島の主人が偽者だろうと本物だろうとどうでもいいと若い女性と快楽の海に溺れている様などを描くことによって、生々しい人間の剥き出しの欲望が見事に演出されていたりします。

紛れもない傑作！乱歩的世界が好きな方は一読をオススメします。



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