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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政よりも需要安定の見通し

2011年10月17日 | 経済
 日曜日から日経紙面のリニューアルがされて、今日は最初の経済教室だ。「試練の財政・金融政策」と題し、日本経済の最大の課題に、正面からの挑戦である。書き手は、エース級の池尾和人先生とあれば、これは見逃せない。

 池尾先生のご主張は、やや意地悪にまとめてしまえば、「増税が実施されれば、見通しがクリアになって、設備投資や消費が出てくる」ということらしい。むろん、前提条件を置く形で慎重に述べられてはいるが、まさか、その前提条件に、今の日本経済が当てはまらないのに言っているわけではあるまいね。

 池尾先生は、企業が投資をするのに、自信(コンフィデンス)が重要だとおっしゃる。これには、筆者も同意するよ。しかし、そのコンフィデンスだが、増税がなされるとなると、強気になって設備投資を始めるものなのかね。どこの会社の経営者に聞いてもらっても構わないが、増税が予定されていて、売上げに懸念があるときは、慎重になるものだ。

 筆者は、企業が投資するには、「これ以上は景気が悪くなるまい」という底打ち感が必要だと考えている。底打ちして、やや上向いてくると、ライバル企業との競走上、投資しないのがリスクになるので、にわかに投資が出てくるようにもなる。それなのに、財政が緊縮や増税で底を抜くようなことをしたら、投資は見合わせになるだろう。

 その点で、池尾先生は、2010年度の財政運営をどう評価されているのかね。国民経済計算年報は、まだ出ていないにしても、概数は計算できる。2010年度決算の数字から推計すると、日本の財政当局は、14兆円の緊縮財政を敢行し、デフレを背景とした秋の円高に驚いて、11月末の補正予算で4兆円戻すという顛末だった。

 2010年度は、年度後半に入ると消費が停滞し、設備投資も鈍化して、震災前の10-12月四半期からマイナス成長に突っ込んだ。こうなった原因に、財政は無罪かね。デフレ下で、GDPの2%近くの財政需要を抜いても影響ナシなのか。もしや、日銀が資産買取に消極的だったからこうなったとでも。円高犯人説でも構わないが、需要を抜いてデフレを放置すれば、日米の実質金利差が開いて、円高にもなろうというものだ。 

 2010年度を振り返ると、エコカー補助金やエコポイントといった、リーマンショックへの経済対策が次々に打ち切られ、財政再建の将来展望が見え始めていた。税の自然増収も大きく、これで秋の補正予算は賄われた。池尾説に従えば、家計や企業は、自信を得て、支出を増やしていたはずではないか。もっとも、財政当局による「大規模な緊縮財政をしています」というアピールが足りなかったのかもしれない。

 してみると、財政当局が国民に分からないように緊縮財政をしていたことが景気失速の原因ということになる。そう、池尾先生にも分かるように、緊縮財政をしているということを天下白日に公言して実施していたら、景気は良くなっていたことになる。これは、とても残念なことである。

 日本のバブル崩壊後の経済対策を巡っては、財政出動や金融緩和のタイミングが遅く、規模も不足しているという批判があるが、これは大雑把に過ぎる。長期に続くデフレは、せっかくの対策で、ようやく回復してきたものを、1997年のハシモトデフレで潰したり、小泉・安倍政権下で、回復の芽を摘むような早々の緊縮財政をしたりしたことによる。財政赤字の不安に負けて、早すぎる出口政策で失敗するのは、今も生きる教訓だろう。

 筆者とて、日本の財政赤字には懸念を持っている。財政出動で成長率を持ち上げようするのは、財政に負荷がかかり過ぎる。その一方で、財政が真っ先に逃げだしては、企業や家計がリスクを負えるはずもない。需要の底を作って、抜かないことが重要である。また、景気回復後に財政再建が図られるよう、無闇な法人減税をしないなど、回復後の計画を立てておくことも必要だ。

 池尾先生は、「景気回復という短期的課題を解決してから財政再建などの中長期的な課題に取り組むべきだという二分法は正しくない」とする。これが景気回復前でも増税せよというのであれば、現在、欧米で考えられている、短期に経済対策・中期に財政再建という戦略以上にタカ派的である。先行きの見通しを持つことが重要であることは、論をまたないが、それは、財政再建の見通しではなく、需要安定の見通しであろう。

(今日の日経)
 蓄電池性能が大幅に向上。ハイアール1月本格参入。ユーロ防衛に瀬戸際の公約。衆院比例削減の公約を民主先送り示唆。エコノ・経常収支が影の主役・古川英治。九電社長続投に不快感。核心・誰がユーロを救うのか。情報戦を連合体で・ラムズフェルド。米のイラン制裁は中銀締め出しも。川崎火力の増設前倒し。経済教室・将来展望示し不安払拭を・池尾和人。電力自由化1・八田達夫。高校中退の実態は深刻。

※新技術はうれしいね。経済運営がまともなら、日本は凄い国になるのだがなあ。※ガラパゴスの壁を破れるか。※瀬戸際でしのいで来てはいるが。※公明との関係が改善されてきている。郵政はどうかな。※今週のエコノは非常に良いセンスだ。財政指標が国債残高のGDP比率でばかり語られるのは、当局の情報操作によるもの。他にもっと重要な指標はあるということだ。

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