黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

今どきの「未修者コース」に入学する人の心理

2012-06-19 22:26:02 | æ³•æ›¹é¤Šæˆé–¢ä¿‚(H25.1まで)
 本当は「法務士」構想のことを書く予定だったのですが,結構書くのが難しい話である上に,論理的なつながりの問題でこちらを先に書いた方がよいだろうと判断しましたので,法務士の話は次回に飛ばします。
 さて,以前の記事で引用した早稲田大学法科大学院の政策評価書(http://www.jlf.or.jp/work/dai3sha/waseda_report2011.pdf)には,以下のような記述がありました。

「前記の相談窓口・メーリングリスト対応の他,大学の保健センターと連携して,保健センターの「学生相談室(心理・精神衛生・法律相談等)」や「診療室」「保健管理室」への紹介等,協力しての学生対応も行っている。
 精神面の相談先として,心理専門相談員及び精神科医を擁する大学の保健センターがある。診療所には精神科の医師も含め常時,医師が駐在している。
 法科大学院学生の保健センター利用率は,他に比較して高い。」

「当該法科大学院では,1年未修で純粋未修者の成績不振学生が,法学部出身未修者との相対評価による進級や成績不振退学への不安ないし将来への不安から,精神的な失調をきたすケースが散見された。当該法科大学院は,2011 年度から,1年未修者には,緩和した GPA基準と一定数の科目・単位履修とを併用する制度を導入することにより,「他の学生との比較」によるのではなく,むしろ「将来法曹となるための一定の水準」に達しているかという点を重視する進級要件としており,これにより,学生が不合理な競争ストレスから解放されるとみている。」

 駒澤の認証評価書にも似たような話が出て来ましたが,今回はこの問題について少し話を掘り下げてみようと思っています。

1 入学前(未修者コースを選択したとき)の心理
 これまでの黒猫は,旧試験時代の合格者であることから,少なくとも司法試験を目指す人であれば,(いわゆる記念受験組などの例外はあるにせよ)法律のプロを目指して真剣に勉強しようとする人が集まるだろうという固定観念を持っていました。しかし,最近の法科大学院生(特に未修者)の実態を調べているうちに,もはやこのような固定観念は捨てなければならないと感じるようになりました。
 まず,偶然読んでいた『産業カウンセリング』2012年6月号の記事(31頁)。
「今日,資格を取っただけでは食べていけない時代に入り,弁護士も公認会計士も,サラリーマンなみになっている。その中で,法律ができる,会計学に長けている,といっただけでは「差別化」できない。かつて,いろいろな資格試験の予備校の人から話を聞いたが,昔なら,会社員や事務職の人が自分のキャリアをつけるために,簿記や会計などの勉強にきていた。人が遊んでいるときに,しっかり勉強するという点で,真面目で向学心のある人だったから,教師も熱心に教えていた。しかし,昨今の受講者は,ただ資格を取るため,大学にいけないから専門学校で,という人が多くなり,それだけに問題を抱えている人が多く,教師もそれらの相談に乗らなければやっていけなくなった。そう言う点で何か援助してほしいという話があった。」
 一般の大学等でも,問題を抱えている学生のカウンセリングが問題になっていることがわかりますが,こうした傾向は法科大学院生(特に未修者コース)にも当てはまるのではないかと思えてくるのです。
 法科大学院の未修者コースは,適性試験と学部成績などの書類選考,小論文試験などの審査を経て合格者が発表されますが,適性試験は単なるパズル問題,小論文も法律学の知識は問わないという前提であるため,法学部卒業予定だけど勉強は全然出来てない,就職も出来そうにないといった学生が,一時現実から逃げ込むためのモラトリアムの場として大学院入学を希望する場合,法科大学院の未修者コースはとても都合がよいところです。
 学部時代の成績は評価の対象になりますが,法科大学院の方も入学者が急減し経営危機に陥っているので,とても贅沢は言っていられません。補助金削減を免れるため概ね2倍以上の倍率は確保すると思いますが,それすら確保できないところもあります。
 こうして,例えばこんな学生(Aさん)が法科大学院の未修者コースに入る可能性があるわけです。

「Aさんは,早稲田大学法学部の4年生だが,法学部在学中に勉強はあまりせず遊びに熱中していた。就職活動も嫌だなあと思っていたところ,大学側が熱心に法科大学院の説明をしているのを聞いて興味を持った。
 法学部生の大半は,企業や公務員などへの就職を目指すか,司法試験を目指す者でも成績優秀な者は予備試験を目指すか,既修者入学を目指しているようであり,未修者コースには成績の悪い人が集まる傾向にあったが,既修者認定試験に合格する自信の無かったAさんは,適性試験と小論文だけで入れる未修者コースに注目し,入学試験に合格して入学を決めた。
 なお,学費の一部は貸与制の奨学金を受けた,残りは親に頼み込んで教育ローンを組んでもらった。有名な私学である早稲田大学の法科大学院であり,卒業できれば当然弁護士になり,奨学金や教育ローンなどは容易に返済できるだろうと考えていた。」

2 入学後の絶望
 しかし,法科大学院の未修者コースは,そもそも制度設計にかなりの無理があり,法律の勉強をしていない未修者は,本来入学後1年間で既修者コースに追いつく必要がありますが,そのような離れ業ができるのはごく限られた天才だけです。3年間かけて既修者に追いつけばよいと考えるとしても,既修者だって熱心に勉強していますから,追いつくのは容易なことではありません。
 まして,法学部でも授業に付いて行けず学力には自信のないAさんが,法科大学院の授業に付いて行けるはずもありませんでした。周囲にも同様に,授業に付いて行けないとみられる学生が相当数います。
 Aさんは,文部科学省のHPを観て,法学未修者の修了実績や司法試験の合格実績を調べて見ましたが,Aさんの目に入ったのは驚くべき数字でした。
          2年次への進級率  標準年限修了率
  平成16年度  94.7%     76.3%
  平成17年度  92.9%     74.3%
  平成18年度  89.5%     71.1%
  平成19年度  87.5%     68.2%
  平成20年度  84.8%     64.9%
  平成21年度  79.0%     56.6%
  平成22年度  75.8%
  平成23年度  76.3%

 なんと,全国の法科大学院を平均しても,未修者が2年次に進級できるのは約4分の3,標準年限で修了できるのは60%に満たないという数字が公表されていたのです。しかも,未修者コース卒業者における司法試験の合格率も低迷しており,平成22年度卒業者の合格率は16.2%でしかありません。学生の間では,「未修者コースの入学者は7~8割が中途退学か三振」などという縁起でもない噂が流れていましたが,統計上も概ねそのとおりという結論にしかなりません。自分達が入学した年度の標準年限修了率や司法試験合格率がさらに下がることを考慮すると,無事司法試験に合格できるのは全体の1割にも届かないかもしれません。
 しかも,仮に運良く法科大学院を卒業し司法試験に合格したとしても,司法修習は貸与制になってしまいましたから,さらに借金が膨らみます。奨学金の返済も,司法修習が始まった頃に返済が始まるので,最高裁から貸与されたお金で返済するしか在りません。司法修習を経ても,就職先が見つからず弁護士登録すらできない人も増えており,教育ローンや奨学金,司法修習貸与金などを返済できる見込みはなさそうです。
 Aさんは自分の将来に絶望し,いっそのこと自主退学して就職先を探すことも考えましたが,今退学すると奨学金などの借金だけが残ってしまうので親に申し訳ないと思い,なかなか退学にも踏み切れませんでした。
 Aさんは,心労のあまり次第に体調を害し,大学の保健センターで診察を受けたところ,軽度の自律神経失調症と診断され,薬物治療を受けることになりました。
 2年次には何とか進学できましたが,その後体調が悪化し休学。精神不調のためろくに働くことも出来ず,復学できる見込みもないということで,ついに自主退学を決意しました。しかし,奨学金やオリコの教育ローンを返済できる当てもなく,貸金業者の執拗な取り立てに遭ってさらに体調を害し,ついに弁護士に相談の上,自己破産を申請し生活保護を受給することになりました。
 最悪と言って良い結末でしたが,似たような境遇に陥った学友は意外に多く,「法科大学院って,入学者の7~8割がうつ病で生活保護をもらえるところだったんだな」と笑えない冗談を交わしたこともありました。また,友人の中には借金苦のあまり自殺してしまった人もいるので,自分は生きていただけましと言えるかも知れません。

 たぶん,実際の法科大学院でも,特に未修者ではこんな人が相当増えているのでしょう。明治学院大学は早々に学生新規募集の停止を決めましたが,あそこは未修者コースが中心だったので,入学者の質を見てこれは無理と判断できたのかもしれません。
 いずれにせよ,いくら不人気で財政難だからといって,法曹になれそうな資質もない人を安易に未修者コースへ入学させ,授業に付いて行けない入学者を進退窮まる状況に陥れ,精神疾患で薬漬けにし学費その他で借金漬けにして追い出すというのは,もはや人として許されない悪行と言えるでしょう。

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Unknown (名無し)
2012-06-20 11:28:11
精神的にもきついんですね。司法修習生の半数は借金があり平均債務は350~400万円と聞きます。さらに司法修習の貸与で債務が増える。今では新人弁護士の年収は500万円以下が4~5割になりました。年数・費用を考えるとコストパフォーマンス最悪ですよね。さらに精神的にも追い詰められるなんて・・・。司法試験に受かるかどうかもわからないし、ロー進学は博打ですね。
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Unknown (Unknown)
2012-06-24 02:15:12
大手四大事務所の弁護士はラクして儲けているのだから寄付すべきでしょう。
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Unknown (Unknown)
2012-06-24 12:35:57
楽しているとは思いませんし、だから寄付すべきとは思いませんが、激増を推進すべきと言っている以上、道義的に寄付すべきでしょうね。
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