こんにちは、G-genの開原です。当記事では Google Cloud が提供する Looker と Looker Studio(旧称データポータル)という2つのデータ可視化サービスの特徴についてご紹介した上で、選定のポイントを解説します。
Looker と Looker Studio
Looker とは?
Looker は Google Cloud が提供する次世代型の「データプラットフォーム製品」です。
「データプラットフォーム製品!?BIツールじゃないの?」と思う人もいることでしょう。 Looker は一般的には BI ツールのカテゴリーに分類されますが、単純な BI ツールではありません。 LookML という独自のモデリング言語を記述することでデータの一貫性やガバナンスを担保することができる製品です。
組織の全員が LookML でモデリングされた値や計算式を利用してデータ分析や可視化をするようになるため、全員が同じ分析結果を得ることができるようになります。
また Looker は、チャットツールや E メール、セールスフォース オートメーション製品との連携により、データ分析と業務をシームレス(繋ぎ目なし)に連携させる機能を多数備えています。
このように、Looker において BI(可視化)部分はあくまで機能の一部分に過ぎないと言えます。
- 参考 : Lookerの概要
Looker Studio とは?
Looker Studio とは、Google Cloud が提供する完全クラウドベースのダッシュボードツールであり、基本的に無料で利用することができます。 Looker と名称が似ていますが、Looker Studio と Looker は別の製品です。
Looker Studio は、かつて「データポータル」もしくは「Data Studio」と呼ばれていましたが、2022年10月の Google Cloud Next '22 で Looker Studio への改称が発表され、Looker ブランドに統一されました。
Looker Studio は、Google アナリティクスや Google Sheets(Google スプレッドシート)等、様々なデータソースへの接続が可能であり、SQL 等の専門知識がなくても直感的にダッシュボード作成が可能です。無料とは思えない高機能なグラフや表を使ってダッシュボードを作成することができます。
Google アカウントさえあれば、基本的に無料ですぐに利用することが可能ですので、簡単に使い始められる点が特徴です。
- 参考 : Looker Studio へようこそ
Looker Studio には有償アップグレード版の Looker Studio Pro も存在しています。当記事では詳細には取り扱いませんので、以下の記事もご参照ください。
データ分析における課題
Looker と Looker Studio の特徴について説明する前に、データ分析における一般的な課題について取り上げたいと思います。
自組織のデータ活用には、どのような課題があるでしょうか。まずはそこに着目し、これからご紹介する Looker と Looker Studio の特徴がどのように課題にアプローチできるかに着目して、製品を選定することになります。
- データが集約されておらず各システムのデータベースに分散している
- データは集まっているが、それを可視化するツールがない
- データベースへの問い合わせるためのクエリ(SQL)を書くスキルのある人がいない
- データ集計の計算式が人によって異なり、分析結果にずれが生じている
- 同じようなレポートが複数作られていて、どれが正しいか分からない
- BI ツールを各部署で個別に導入・管理しており、全体最適ができていない
Looker の特徴
データのアップロード不要
Looker は独自のデータベースを持ちません。データウェアハウス等のデータソースに直接、都度アクセスして、自動生成された SQL でデータを取得するため、リアルタイムに最新のデータを取得することが可能です。
ただし、これには処理速度の早いデータベースを利用することが前提です。Google Cloud(旧称 GCP)の BigQuery や Amazon Web Services (AWS)の Redshift、Snowflake などが想定されます。
LookML によるデータの一元管理
LookML という独自のデータモデリング言語によって指標(Measure)を集中管理するため、ユーザごとのデータのずれがなくなり、データの一貫性を担保することが可能です。
なお指標とは、ここでは「店舗別日次売上」「DAU(Daily Active User)」など、ビジネス判断のために用いられる数字を意味しています。このように管理された指標の管理レイヤを指してセマンティックレイヤと呼ぶこともあります。
もしも複数のレポートで使われている指標の集計方法に変更があったとしても、各レポートに手を加える必要はなく、LookML にのみ手を加えれば良いので、メンテナンスコストが低くなります。
また LookML は Git によるバージョン管理ができるため、いつ、だれが、何のために、何を変更したのかが明確になります。
豊富な業務連携
既存の SaaS や E メールなどと連携した業務フローを作り上げることが可能です。
例えば LookML で定義された指標に対して分析官がデータ探索を行い、その結果を E メールや Slack にシームレスに(Looker の画面を離れることなく)連携してビジネス部門に依頼をすることなどが可能です。
また iframe で自社ポータルサイトへ Looker のダッシュボードを配置することなどが可能なほか、 API 連携による柔軟な追加開発も可能です。
Looker Studio の特徴
無料で魅力的なダッシュボード
原則的に全機能が無料で利用可能です。ただし閲覧や権限管理のために Google アカウントが必要なため、利用者が50名を超えるなど、場合によっては有償の Google Workspace や Cloud Identity 契約が必要になります。
Looker Studio では、無料とは思えないほど高機能でリッチなビジュアルを実現できます。
簡単・すぐに始められる手軽さ
Web ブラウザ上の簡単な操作で表やグラフを追加可能です。SQL やプログラミング等の専門知識は不要です。
最初は慣れが必要なものの、ある程度習熟すれば、エンジニアではないビジネスユーザーでも自在にダッシュボードを作ったり、データベースの中身を探索できるようになります。
また、Looker と同じく、Looker Studio でもデータのアップロードは行いません。Looker Studio は、データベースに対して常に最新の情報を取得しますので、データを転送する前準備が必要ありません。
多様なデータソース
手元にある csv(カンマ区切りファイル)や Google Sheets(Google スプレッドシート)をデータソースとしてそのまま利用することができます。それ以外にも多くのデータコネクタがあり、BigQuery、Redshift、Snowflake、MySQL などに対応しています。これによりデータ取得のイニシャルコストを大幅に削減可能です。
Looker Studio がどのデータソースに対応しているかは公式のコネクターギャラリーをご参照ください。以下にごく一部のみを挙げます。
- BigQuery
- Amazon Redshift
- Azure Synapse
- Snowflake
- MySQL
- PostgreSQL
- Microsoft SQL Server
- Google Analytics
- Google Ads
- Google Sheets
なお前述のとおり、Looker の特徴にも記載した「データのアップロード不要」という特徴は Looker Studio でも同様です。Looker Studio では、常にデータソース上の最新のデータが参照されます。
機能比較と選定基準
機能比較
以下は、それぞれの主要機能や特徴の比較表です。
項目 | Looker | Looker Studio |
---|---|---|
製品の目的 | データドリブンな業務の実現 データ活用基盤の構築 |
現状分析、可視化 |
利用規模 | 組織全体からの関係者まで (パートナー、お客様) |
小規模(特定の少人数) |
モデリング | インスタンス全体を一元管理 | ダッシュボード毎に定義 |
データソース | データベース | 500以上のデータソース (CSV、 Google Sheets、 Google Analytics 等) |
データ ディクショナリ |
LookMLで定義可能 | なし |
権限設定・ セキュリティ |
ユーザー・グループ単位で アクセス制限可能 |
なし |
バージョン管理 | Git によるバージョン管理 | レポートの版管理が可能 |
データ連携 | SaaS への埋め込み ifame 埋め込み Rest API 等 |
iframe 埋め込み URL 埋め込み |
アラート | 任意条件でメールや Slack に通知 | なし |
スケジューリング | メール、ウェブフック、 Amazon S3、 SFTP サーバ等へ定期配信 |
メールへの定期配信 |
利用料金 | 有償 | 無償 |
選定基準
ここまでにご紹介した特徴や機能を踏まえて、製品選定する際の評価例をまとめました。
選定基準 | Looker | Looker Studio |
---|---|---|
データ活用基盤を構築したい | ◎ | ◯ |
すぐに手軽にデータ分析を始めたい | ◎ | |
組織全体でデータ分析をしたい | ◎ | ◯ |
組織外にも共有したい | ◎ | ◯ |
既存のワークフローを活用したい | ◎ | |
メンテナンスを効率化したい | ◎ | |
安価に利用したい | ◎ |
Looker Studio は原則無料で操作が簡単ですので、小規模な BI 導入やこれからデータ分析を始める組織に向いています。
一方で Looker は LookML の学習コストやライセンス料金の点で導入のハードルは高いながらも、中〜大規模利用に最適です。企業全体でのデータ分析基盤の構築や、新たなデータ文化を作っていきたい等の明確なビジョンを持っている組織には大変魅力的となります。
追加情報
Looker Studio Pro
2022年10月の Google Cloud Next '22 で Looker Studio Pro という、Looker Studio の上位エディションが発表されました。
Looker Studio Pro は Looker Studio の有償版であり、IAM と統合された権限管理や技術サポート窓口での対応が追加されています。よりエンタープライズ向け機能が強化された製品が、Looker Studio Pro であると言えます。
詳細は以下の記事を参照してください。
Looker Modeler
Looker の最大の特徴は、LookML でのデータモデリングによって実現されるセマンティックレイヤ (指標の集中管理) でした。
2023年3月に、Looker からこのセマンティックモデルだけを抜き出した Looker Modeler が発表されました。ただし2024年10月現在でも、まだ利用可能になっていません。
Looker Modeler は「BI 機能がない Looker」と考えられます。LookML を用いた指標の管理だけを Looker Modeler で行い、その指標を使った可視化は Looker Studio など別の製品で実現する、といったことが可能になります。なお、このように画面を伴わない BI 管理ツールをヘッドレス BI と呼称します。
ハンズオンセミナー
当社ではLooker Studio、BigQuery、Compute Engine(仮想サーバー)などの操作を体験できる Google Cloud ハンズオンセミナーを毎月実施していますので、ご興味のある方はぜひご参加ください。
開原 大佑(記事一覧)
クラウドソリューション部
2022年5月にG-gen にジョイン。
前職までは関東を中心として、全国の医療機関へのシステム導入、運用保守を担当。現在は、Looker案件を中心に担当。Google Cloud スキルアップに向けて勉強中。