スクラムマスターの世界に飛び込んだリアルな心境

こんにちは、サイボウズでGaroonモバイル開発チームのスクラムマスターをしている東條です。

私はスクラムマスターになってまだ半年も経っていません。駆け出しの身として、スクラムマスターとしての役割は何なのかを日々模索しています。

本記事は、サイボウズのスクラムマスター職能で開催しているリレーブログ企画の一本です。

リレーブログ企画:スクラムマスターって何をするの?チームを健全に保つ多様なリーダーシップの実際

対象読者:スクラムマスターが近くにいるけどありがたみを感じたことがない人

学習成果 (Learning Outcome):記事の内容に関連する悩みについて、近くのスクラムマスターに相談できるようになる

リレーブログ企画の学習成果を得るためには、スクラムマスターに親近感を持ってもらうことが大切です。

本記事は、読者の皆さんに「スクラムマスターに親近感を持てるようになった」と言っていただくことを目指した内容になっています。

それでは本題に入ります。 これまでスクラムマスターのありがたみを感じていなかった私が、スクラムマスターの世界に飛び込んで何を感じているのか、リアルな心境をお伝えします。

スクラムチームの紹介

他の人に私のスクラムチームについて紹介することがあります。その時によく、一つのスクラムチームの中での人数の多さに驚かれることがあります。組織の事情によってチームの状態やその中での取り組みも様々だと思います。この後の話がイメージしやすいように、少し私のチームについてご紹介します。

私のチームでは、Garoonという製品のモバイルアプリをAndroid/iOSのプラットフォームで提供しています。 チームの構造を図にまとめました。

スクラムチームのメンバー構成を示した図
Garoonモバイル開発チームの構造

執筆時点で、スクラムチームのメンバーは約20人在籍しています。人数が多い理由はさまざまです。大きな要因の一つは、なるべくチーム内で開発を完結させるために、多様なスキル構成になるようにメンバーを集めたことです。

人数が多いことによる特徴として、スクラムイベントとは別に、職能内で閉じたミーティングが開催されています。

スクラムマスターになる前

私がスクラムマスターになる前、私は同チームのメンバーとしてプログラマーをしていました。その当時は、プログラマーとしての仕事をきちんとこなしている自覚がありました。同様に、他のメンバーも職能としての自身の仕事を十分にこなす能力があります。

しかし、責任の所在がはっきりしないタスクに直面したときには、メンバー同士でお互いの様子を伺ってばかりいて開発の進みが遅いときがあります。

私の中では「こんなチグハグな状態で、チームとして組織に貢献できているのか?」というモヤモヤがありました。

スクラムマスターになったきっかけ

マネージャーとの1on1で「今のチームでスクラムマスターの活動をするのはどうか?」と提案してもらう機会がありました。提案してもらった理由は、普段の1on1でチームメンバー同士の連携について相談する機会が多かったからだと思います。

そしてさらに同時期に、レトロスペクティブの場で他のメンバーから「スクラムマスターがいるチームで仕事がしてみたい」という声があがりました。

2つのタイミングが重なり、その場の勢いでスクラムマスターになると宣言しました。

スクラムマスターになった後

スクラムマスターになることを宣言したは良いものの、スクラムマスターとして明確にやりたいことがあったわけではありませんでした。 自分は何をすれば良いのか、自分には何ができるのか、何もわからない状態からスタートを切りました。

アジャイルコーチの存在

幸いなことに、チームには一部のスクラムイベントに参加しているアジャイルコーチがいました。さっそくコーチに指導を仰ぎマンツーマンでの学習が始まりました。

学習はファシリテーションスキルの習得から始まり、システム思考やバリューストリームマッピングなど、必要なスキルを体系的に学びました*1。

特にコーチからの教えで印象的だったのは "大局的に流れを見る" という考え方です。

価値のアイディアが生まれてからユーザーに届けるまでのすべての工程は繋がっている。部分最適をしても、全体が見えていなければ価値の流れは変わらない。

開発者視点の意訳:自分の目の前の仕事のスループットを上げたとしても、別の工程にボトルネックがあれば、価値がユーザーに届くまでのリードタイムは変わらない。

この考え方を知ることで、プログラマーとしてチームに感じていたモヤモヤの実態が理解できました。

スクラムマスターの活動

スクラムマスターになってから、チームに関する様々な活動を行ってきました。これまでの活動の軸となっていた2つのテーマについてご紹介します。

チームの中の動きを知る

スクラムマスターになってすぐに、初歩的な課題に直面しました。私自身がチーム全体の動きについて理解していなかったのです。リサーチ活動、デザイン検討、実装、試験といった各工程で、メンバーがどのように動いているのかを把握していませんでした。

チームと正しく向き合うためには、メンバーの動きを理解する必要があります。そこで、私は各職能内で閉じて行われていたミーティングに参加することにしました。

継続的にミーティングに参加することで、徐々にメンバーの動きや考えを理解できるようになりました。メンバーとのコミュニケーションが増えたことで、何か働きかけたいと思ったときに相談しやすい関係性を築くこともできました。

今では幅を広げて、職能間の関係性の構築を意識しています。職能間の連携チャンスを見つけると、積極的に「何かできないか?」と問いかけるようにしています。地道なアシストを続けた結果、メンバーからは「職能間の繋がりが増えた」というポジティブなフィードバックをもらえるようになりました。この活動はメンバー間の相互理解にも役立っています。

プロセス改善のサポート

幸いなことに、チームにはプロセスの改善に意欲的なメンバーが多く、プロダクトオーナーも品質向上の改善には寛容な姿勢を見せてくれています。メンバーが主体となって集まり改善活動をする機会も少なくありませんでした。

改善意欲の高い課題が一番のボトルネックとは限りませんが、関心のある課題に取り組むことはチームの士気をあげる上で必要不可欠です。

スクラムマスターの立場として、メンバーが安心して改善を進められるようなサポートを心がけました。

問題を根っこまで深ぼる

問題のテーマが大きすぎたり抽象的な場合、根本治療にならない解決策が生まれたり、共通認識を持つことが難しくなります。

そうならないためにも、問題の根本原因を探り、解決すべき課題の共通認識を持つことが重要です。正しい改善ができるように、メンバーと一緒に次の取り組みを行いました。

  • システム思考で、要素の因果関係を洗い出し問題の本質を探る
  • バリューストリームマッピングで、一連のプロセスを可視化しボトルネックの共通認識を作る
他チームとの連携

開発工程の中には、他のチームと連携しながら進めていく場面があります。モバイルはクライアントアプリなので、機能開発時にはAPI開発チームとの連携が必要な場合があります。また、リリース前には脆弱性検証チームとの連携が必要です。

チーム間のやりとりは時間がかかるためボトルネックになりやすく、コミュニケーションのハードルもぐっと上がります。

スクラムマスターとして、チーム外の関係者に協力を仰ぎ、連携強化のためのミーティングを設定しました。私はファシリテーターとなり、チーム間でディスカッションができるように場のコントロールを行いました。

スクラムマスターになって気づいたこと

スクラムマスターとしてチームに向き合っていく中で、これまでのプログラマー脳とは違うモノの考え方をするようになりました。スクラムマスターになってから気づいた新しい発見をご紹介します。

チームを生き物として捉える

これはコーチからの教えの一つでもあり、実際に生き物だと体感する機会がありました。

スクラムマスターに成り立ての頃、プログラマーと兼務で活動していました。兼務しながら関わっていると、他のプログラマーとのコミュニケーションが難しかったり、スクラムマスター業に時間を取れなくなっていました。 自分の強みを活かせるプログラマーとしての居場所に執着はありましたが、思い切ってスクラムマスター専任になることを決めました。

すると、チームは私が抜けた穴を埋めるように形を変えていき、すぐに開発は問題なく回りだしました。チームがまるで生き物のように、状況に対応するために変化したのを目の当たりにしました。

メンバーの入れ替えやスキルの習得などでチームの状態は常に変化します。スクラムマスターはチームのそのときの状態に応じて、適切な処方箋が何かを見極めることが重要であると気づきました。

チームとしてどいういう能力を持っているのかを考えると、職能という肩書は単なるラベルでしかありません。 一人一人のメンバーが、職能の壁に囚われずにチームの状態について考えることが大切です。それがチームとして自己組織化した状態なのだと思います。

スクラムマスターに必要なもの

私はスクラムマスターになってから、社内のスクラムマスターのコミュニティにも顔を出すようになりました。 そこでの先輩スクラムマスターを見ていると、皆さんパッションがあり、それぞれのやり方でチームに情熱を注いでいます。 ただそれ以上に、それぞれのチームの中のメンバーが積極的に取り組んでいる姿を垣間見ることができました。

私のスクラムマスターとしての活動を思い返すと、取り組みが成功するときもあれば失敗するときもありました。上手くいかないときには、不安になり投げ出したいと思うこともあります。それでもこれまでなんとかやってこれたのは、頼れるチームメンバーとコーチのサポートがあったからです。

チームを良くするにはスクラムマスター1人では力不足です。スクラムマスターには、一緒になって試行錯誤できるチームメンバーと、チームをサポートしてくれる組織が必要です。2つが成り立ってこそ、スクラムマスターは安心してチャレンジし続けることができます。

サイボウズには自律性のあるメンバーが多く、スクラムマスターが集うコミュニティもあります。そういう意味では、スクラムマスターとして活動する上では大変恵まれた環境だと思います。

「スクラムマスターって何をするの?」に対する私なりの答え

リレーブログ企画には「スクラムマスターって何をするの?」というお題があります。そのアンサーをそれぞれのスクラムマスターがそれぞれの感性で書いています。僭越ながら、私の今の考えをまとめてみました。

スクラムマスターの役割は

サーバントリーダーとしてチームが正しく走り続けられるように、メンバーと対話し、ときに背中を押し、ときに先頭に立って旗を振る。そのような振る舞いをチームの状態に応じて続けていくこと。

頭では分かっていても実行するのは難しいです。周囲に支えてもらいながら、何度も粘り強くチャレンジしていきたいと思っています。

以上になります。 この記事を通じて、少しでもスクラムマスターに親近感を持てたと思っていただけると幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

*1:リンク先の書籍やサイトは学習の際に参考にさせていただいたものです。挙げたもの以外にも様々な学習教材を元に、コーチに指導していただきました。