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【3M, ユニリーバ, Googleから学ぶ】大企業のジレンマ打破!イノベーションを起こす組織づくりの秘訣
更新 2024年11月18日
「どの会社にも新しいことを生み出すカルチャーが求められている」
AIの登場により、ビジネス環境は産業革命に匹敵する変化を遂げている。昨日まで有効だった製品やサービス、技術が、今日の市場では通用しないという状況が現実のものとなっている。
そのような中、各企業は新しい環境を捉え、それを踏まえての新しいニーズに応えようと必死にもがいている。
しかし、そこに立ちはだかるのが『既存のカルチャー』。
昨今立ち上げたスタートアップであれば、最新の状況を踏まえたカルチャーを一から立ち上げれば良いとも言えるが、歴史ある大企業、成功してきた企業だからこそ、長年培われてきたカルチャーが根を張り、図体も大きく、変革が難しい。
日本の老舗企業とまで行かずとも、例えば、テクノロジー企業であるマイクロソフト社は、90年代、2000年代に覇者となった後、モバイル革命に乗り遅れ、停滞。現在のナデラCEOの改革による復活を待つこととなった。
では、大企業のカルチャーはどのようにすれば変えることができるのだろうか?
1. グローバルで成果を出し続ける大企業の事例紹介
まずは、グローバルで成果を出し続ける大企業の事例を参考に、目指す姿を探ってみよう。
事例1:3M – 15%ルールを活用
100年以上の歴史を持ち、従業員8~9万人、グローバル売上高が約350億ドル、世界的な化学・電気素材メーカーである3Mは、毎年数千の新たな特許を取得し続けている。
Googleも真似したと言われる新規アイディア創出のための代表的な仕掛けが、1948年より運用し続けている「15%ルール」。社員は15%の時間を通常業務とは異なるサイドプロジェクトに時間を費やすことができる。単に時間の設定だけでなく、ここでの成果は正式な年次評価の対象となり、また、昇進やボーナスなどの要件としても定義されている。
新しいことを生み出し続けられるよう、カルチャーという漠然としたものにとどめることなく、個人や組織に定着するような制度(人事制度、メンター制度、予算制度など)や仕組み(社内ネットワーキング、勉強会や展示会、KPIなど)を作り上げ、時代や人員の入れ替わりがあっても廃れることのない確固たるものとしている。
事例2:ユニリーバ – 時代に合わせた柔軟な変革を推進
ユニリーバも、売上高524億ユーロ、世界に約15万人の従業員をかかえる歴史あるグローバル企業。これまでに4万を超す特許技術を生み出している。
消費財業界は、競争やニーズの変化がとりわけ激しく、その市場環境から必然的に変化に敏感なカルチャーが形成されてきたとも言えるが、その歴史を紐解くと、買収に買収を重ね巨大化してきた経緯があり、常に新しい血が入ってきたことが企業文化を作りあげる大きな要素であったと想像される。
また、製品軸、リージョン軸などで、時代や市場にあわせて柔軟に組織再編を行っていることも社内のコラボレーションや新陳代謝を促してきた要素であろう。
次々と新しい企業を吸収し、それを1つの会社として成り立たせ成功し続けるには、カルチャーの統合がとりわけ重要となる。管理職の育成プログラムや内部向けのブランディング活動を徹底してきたことも、ユニリーバのカルチャー強化に貢献していると思われる。
会社全体として「イノベーション」を第1のキーメッセージとしているわけではないものの、例えば以下のようなことから最先端で成果を出していくイメージが社内で共有されていると思われる。
- イノベーション組織「Unilever Foundry」の設立(2014)
- CEOポール・ポールマンによる「Connect 4 Growth Programme」の発表・推進(2016年)
- CEOポール・ポールマン時代の2010年、当時として新しいサステナブル経営の推進を発表
- 会社ウェブサイトのニュース記事にはイノベーション関連のトピックが多数並ぶ
- R&D部門のページでイノベーションを強調
- R&Dからマーケティングまで各部門のリーダーたちが常に革新や創造、実験文化、勇気、などのメッセージを発信
その結果として、例えばMITの調査では、ユニリーバ社員による自社カルチャーのイメージとして、「Agility」や「Innovation」が高い評価で挙がっている。
事例3:Google – オープンかつ楽しいカルチャー
Googleは変革カルチャーのお手本であった。しかし、AI登場に伴う業界の変化の中で、自身の収益の主軸であった検索サービスをどう変えていくのか、まさに変革を問われている。
また、世界で18万人(2024年時点)を抱え、大企業ならではの限界があったり、ここ2年ほどはリストラを決行しなければならないなどの時期にもある。時間を積み重ねる中で、カルチャーや制度にどのような変化があったのか見ておきたい。
Googleのイノベーションカルチャーとしてよく紹介されるのが下記3つ。
◆活発・オープンなコミュニケーション
前提として、Google社員にはそもそもコミュニケーション能力の高さが求められており、採用時点で厳しいふるいにかけられる他、仕事の進め方やその結果としての評価にもコミュニケーション力が必須である。
週次のスタンドアップミーティング、マネジャーとチームメンバーとの1on1ミーティング、などの他、仕事に関係するトピックからそうでないものまで社員の興味に応じたコミュニケーショングループ内で情報が交換されていたりする。
Googleは、全従業員が自分の意見を共有することを奨励している。昨今はフォーラムなどの方式に変わったようであるが、かつては、リーダーが最新情報を共有し全社員で活発なQ&Aを行う「TGIF」(Thank God It’s Friday)会議を実施していた。
◆イノベーションを奨励
Googleには不確実性や失敗を許し、リスクをとることを推奨するカルチャーがあるとされる。その象徴的エピソードは、ラリー・ペイジがプロジェクトに失敗した管理統括者に対し、リスクを恐れて何もしない会社よりも、やってみて失敗することのほうが素晴らしいとコメントした、というもの。
また、勤務時間の 20% を自ら選択したプロジェクトに費やすことが認める「20%時間」ポリシーは2004年のIPOの際に発表され有名になった(現在は許可制などの制約あり)。
その他、「10x思考」(10%でなく10倍の成果を目指すために何を達成するか考えるというもの)を推進することにより、常識にとらわれずどうしたら飛躍すればよいかを考える癖をつけさせるなどしている。
◆仕事のワクワク感、楽しさ、心理的安全を追及
ご存知の通り、Googleplex(本社)の遊び心ある内装、無料のランチ/ディナー、ジム、プール、キッチン、仮眠施設、などは全て楽しく仕事してイノベーションを生み出すための仕掛けである。
また、社員が安心して働き、帰属意識を高めるよう、心理的安全性を高めるためのカルチャー(相手への理解、意見の受入れなど)を促進している。
最新状況はどのようなものだろうか。
例えば、前述の通り、TGIFについては、会社の巨大化に伴い、この会議のデメリット(社員の意見に対して経営陣が何も行動を起こしていないと捉えられたり、企業内部の情報が外部に流出するなど)を考慮し、2019年に大幅に縮小されることとなった。
また、20%時間ポリシーにより、大きな収益につながるサービスが生まれていたのはごく初期のみ、と言った評価もある。
オフィス環境については、オフィスで働くことを絶賛する古参の社員がいたり、実際に人に接して仕事をしたいという若い社員がいる一方、パンデミックを経てリモートワークにすっかり慣れ、リモートワークのほうが生産性があがる、なぜリモートではイノベーションを起こせないのか、と主張する社員もいる状況のようだ。
また、口コミや元従業員の情報なので部分的な見方ではあるかもしれないが、以下のようなことが言われている。
- 初期のGoogleには突出したスキルを持つオタクの技術者や起業家精神を持つメンバーが集まっていたが、昨今は高い給与を求めるオーソドックスなエリートの集まりとなってしまった
- 組織が大きくなるにつれ、中間管理職や内部のコントロールが強くなった
- ミッションやユーザーを最重要視せず、上司の言うことを優先
- 社員はプロジェクトの遂行よりも、週3日勤務や高い報酬・評価ばかり求めるようになった
- 過去の成功に基づき、今のやり方が完璧・唯一の方法である、これがGoogle Wayだということに固執し、より良い方法を考えないようになった
- 変革のスピードに対する認識が甘くなった
日本のどこかの企業の内部から聞こえてくるような声である。
しかしなお、Googleは成長し続けていることは事実(2023年、過去最高額3,056億3千米ドル)であり、以前と比べて革新的に見えなくなったとしても、これだけの大規模で世界各オフィスでイノベーションカルチャーを維持・継続できていることは賞賛に値する。
事例からの学び1: やっていることはそう特別ではない
グローバル大手3社の事例を見てどう感じられただろうか。
やっていること自体はそこまで奇抜でないかもしれない。Googleのオフィス環境や労働環境は初期の頃には珍しく、ここまでやる企業があるのか、と驚きをもって語られたが、いまや、日系企業も遊び心あふれるオフィスを作ったり、「1on1」という用語がすっかり広まったりと、Google風取り組みに着手している企業も多い。
しかし、日本の企業の皆さまと話してみると、いろいろやっているがカルチャーはなかなか変わらない、そういった取り組みに社員がしらけている、といった声が聞こえてくる。
環境の変化に対応できる組織を実現する、もしくは、そのような会社に変わるには何がポイントとなるのだろうか。
事例からの学び2: 継続の仕組みとコミュニケーションが肝
変革カルチャーを内在させている企業のポイントとして言えるのは、①カルチャーを定着させるための仕組み、②カルチャーを浸透させるためのコミュニケーションの徹底・継続、である。
① 仕組み
カルチャーを定着させるための仕組みとは例えば下記のようなものである。
◆組織:
- 変革カルチャーを推進する専門チームを設置し、プログラムを推進し、PDCAサイクルをまわしていく
- 会社の組織デザインへの反映(新しいテクノロジーを取り入れることをミッションとした組織やタスクフォースの設置、プロジェクトチーム制の採用、市場動向やユーザーの動きを身近に感じることのできる組織構造、部門間のコミュニケーションがしやすい組織構造、等)
- 業務部門ごとのゴール設定にイノベーションに関連する項目を盛り込む
- 部門サイロ化や官僚的なオペレーションを防ぐため、一定頻度での組織改編
◆人事:
- 人材採用基準として変革カルチャーへの適性を重視
- 新しい視点やこれまでの人材と異なるバックグラウンドを持つ人材を積極的に採用
- 社員の評価項目やフィードバック項目、社内の表彰制度に、新しいことにチャレンジする姿勢や成果に関する項目を入れる
- 研修プログラム(入社時研修、昇進時の研修、管理職向け研修、など)に変革マインドセットを強化する内容を組み込む
- 人材の新陳代謝を促すことのできる評価・待遇ルール
◆業務ルール:
- 一定のコントロールや判断基準を入れつつも、新しいことへのチャレンジ・失敗・軌道修正を許容する投資ルールや業務ルール
- 会議や報告のための時間を最小限にするための効率化や、変革を阻害する既存ルールを廃止、自由に考える時間を創出
- 相互作用によるアイディア創出を促すブレインストーミングやハッカソン等の活用
- 会議の際は、提案を促し、「Yes and」 ルールを適用
ピンポイントでこれらの中のどれか1つをやる、ということでなく、実直にあらゆる視点で着実にやっていくことが必要である。
② コミュニケーション
2番目、「カルチャーを浸透させるためのコミュニケーションの徹底・継続」とはどのようなものであろうか?
これは、インターナルブランディングとも呼ばれる(日本ではインナーブランディングと呼ぶ人もいる)施策の数々である。
- 経営トップより変革カルチャーを促すメッセージを定期的な全社会議の場で発信
- 社内イントラや社内報などで、変革カルチャーに関するトピックやキーワードを繰り返し繰り返し継続的に発信
- 社員の目につく場所(社内グッズやオフィスの壁など)にスローガンやキーワードを掲載
- 概念的なスローガンやキーワードについてより詳しく説明するガイドラインを作成。また、変革がなぜ重要なのかも説明
- 採用ページでも変革カルチャーを強調
特に、スローガンやキーワードだけでは伝わりにくいのであれば丁寧に説明する必要がある。
例えば、エヌビディアは行動指針「NVIDIA’s Core Values」の一番最初に「Dream big, start small. Take risks, learn fast」を掲げ、以下を発信している。
We make things that delight customers and raise industry standards.
We encourage employees to innovate, guided by first principles, not consensus.
We know our path to discovery will be paved with mistakes. We anticipate and avoid the ones we can.
We accept, learn from, and share the ones that occur.
This allows us to invent things the world doesn’t even know it needs, and by doing so, invent the future.
私たちはお客様に喜んでいただけるものを作り、業界の基準を高めます。
私たちは合意形成に基づくのでなく、第一原理思考に基づいて革新していきます。
私たちは発見への道には間違いがつきものであることを知っています。私たちはできる限り予測し、避けます。私たちは、起こった出来事を受け入れ、そこから学び、共有します。
これにより、私たちは世界が必要としているとさえ思っていないものを発明することができ、そうすることで未来を創り出すことができます。
企業が目指したい姿や従業員になってほしい姿を、ある意味宗教のように繰り返し繰り返し伝えていくことで、時間の経過や社員の入れ替わりに関係なく、カルチャーが確立されていくことになる。
事例からの学び 3. 変わるためには経営者のコミットメントが必須
では、これから上記のような変革カルチャーづくりに取り組もうとしている企業が注意すべき点としてはどのようなことがあるだろう?
いままでに強固なカルチャーが築き上げられており、しかも、これまではある程度成功してきていて今後も安泰のように見えるとき、カルチャーを変えるのは非常に難しい。
例えば、社内の取り組みの優先度や予算配分、決定プロセスを変えたりすれば、社内の反発や軋轢を生み出すことが容易に想像できる。
だからこそ、人事部が「我々が使命感を持ってプロジェクトに取り組みます」、といくらがんばってもそれだけではうまく行かず、経営者のコミットメントが必要となる。
また、言葉だけが上滑りしても社員には響かないので、リーダーが自身の行動を変えてそれを社員に見せていく必要がある。
さらに、カルチャーの変革には時間がかかるので、経営者が自分の代のみでその試みが終わることのないよう、仕組み化しておくことと、後継者の選定や後継者への引き継ぎにこの点も盛り込むことが肝となろう。つまり、そのトップが自分がいなくなる将来にわたり変革する心意気をもっている必要がある。
まとめ: なぜデザイン会社が重要な存在になるのか?
さてここまでお読みになり、デザインコンサルティング会社であるbtraxがなぜカルチャー変革のテーマをブログ記事として取り上げているのかと疑問に思った方もいるかもしれない。
企業のカルチャーや社員の帰属意識を高めるための取り組みとして、シリコンバレーの有名企業とデザイン会社の組み合わせの事例は枚挙にいとまがない。
- Salesforce × Landor:社員向けのビデオやWebコンテンツ作成、マルチメディアキャンペーン
- Netflix × Gretel:ブランドアイデンティティと内部コミュニケーション戦略実現のためのビジュアルやフレームワークの作成
- Apple × Frog Design:従業員ハンドブック、ニュースレター、デジタルプラットフォームのデザイン
- Linkedin × Gensler:社員の帰属意識を高めるイベント、スペースの設計
この背景には、視覚的なメッセージが、言葉や文章よりも端的かつ効果的に伝わること、また、空間や物理的なモノが人々の気持ちを大きく変える力を持っていることもあるだろう。
btraxは、ビジネス文脈を理解するデザイン会社として、また、シリコンバレーの最新状況を肌身をもって知るアドバイザーとして、多数の大手日系企業をサポートしてきている。コロナ禍のあけた今、弊社SFオフィスにはカルチャー変革の材料を得るために訪問される企業も多く、また、ワークショップ開催の問い合わせも多数受けている。
それらは、デザイン会社ならではの発想法やユニークさ、ユーザーの理解を求められてのものである。
我々は、会社の変革のきっかけとしての「ぶっとんだ発想」、また、それを定着させるための「手段」を提供できる。
もし、自分の企業を真に変革させる覚悟をもった経営者の方がいらっしゃれば、ぜひ我々がサポートし、会社が目指す方向を膝を突き合わせてディスカッションするところからプロジェクトをスタートさせていただきたい。
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