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戦略投資とファイナンス

仮説指向計画法(DDP)が必要な理由

第4回

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 前回は、ファイナンスの知識は大いに役立つけれども注意点も多いこと、そして根本的にはビジネスプランが重要であることをご紹介しました。戦略投資のビジネスプランがデタラメであれば、精緻なリスク分析を行ったりNPV等を計算したりしても意味がありません。問題を根本から解決するためには、ビジネスプランを練り上げる方法論が必要になります。今回は、不確実な事業に適したビジネスプランニング手法「仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)」をご紹介します。

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ファイナンスの知識は“練られた計画”にのみ役立つ

 前回は、ファイナンスの知識が大いに役立つことをご紹介しました。しかし、ファイナンスの知識が役立つのは、ロジックや仮説(前提条件)と行動計画が適切に練られたビジネスプランの場合です。ロジックと仮説や行動計画がデタラメなビジネスプランのNPVを計算したり、精緻なリスク分析を行ったりしても、数字の遊びに過ぎません。ファイナンスの知識は、マーケットの豊富なデータや、証券化やプロジェクトファイナンスのような厳しい関門をくぐりぬけた精緻なキャッシュフロー計画を対象にして、大いに発展した分野だからです。

 ファイナンスの知識を活用してビジネスプランを改善することもある程度可能ですが、それは大変な回り道です。たとえれば、体重計は「体重の管理」に役立ちますが、実際どうすれば体重を調整できるのかを「体重計」は教えてくれません。ファイナンスの知識は、便利な体重計のようなものです。ファイナンスやリスク分析は、ビジネスプランの評価に大いに役立ち、得られる価値のうち株主への配分を増やす方法を教えてくれます。しかし、どうすれば事業そのものを成長させることができるのかを教えてはくれません。

 なぜなら、ファイナンスやリスク分析は、もともとビジネスプランニングを目的としていないからです。だからこそ、何をどう考えればよいのか、というビジネスプランニングの方法論が必要です。そこで、今回はビジネスプランニングの方法論について、正面から取り組んでみましょう。

仮説指向計画法(Discovery-Driven Planning)とは

 「Discovery-Driven Planning」は、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のイアン・マクミランとコロンビア・ビジネススクール教授のリタ・マグラスが考案した計画立案と実行に関する手法です。計画は、計画通りに進まないものだ、という考え方が根底にあり、実行時に仮説(前提)の検証と、必要に応じた計画の修正を求めることが特徴です。

 Discovery-Driven Planningの「Discovery」とは、日本語でいうと、「発見よりも、気づきや学習」という意味です。計画立案時には、知らないことばかりです。だから、いつ、どうやって学習し、その成果を事業に生かしていくかを、あらかじめ計画することがビジネスプランには必要である、という考え方です。

 「Discovery-Driven」とは、「気づきや学習に基づいて事業を推進しよう」という意味になります。まさに、不確実性の高い戦略投資に適した計画法と言えます。

 ちなみに私は、1998年にDiscovery-Driven Planningを初めて学び、どうしてもマクミラン教授に直接指導を受けたいと思いました。アメリカ留学を機に、マクミラン教授の研究センターに、タダでもよいから働かせてほしいと押しかけていったところ、本当に有難いことにOKをいただきました。実際半年は無給でしたが、その後採用してもらい、合計2年間研究センターの1セクションで働き、マクミラン教授に直接指導を受けました。この2年間は、実に得難い経験となりました。その経験をもとに、私が社長をしているインテグラートでは、Discovery-Driven Planningの実践用ソフトウエアツールを開発・販売しています。今でもマクミラン教授とマグラス教授には、大変貴重な助言をいただいています。

 さて、Discovery-Driven Planningには、2つの柱があります。「逆損益計算法」と「マイルストン計画法」の2つですが、まずは「逆損益計算法」から、ご紹介しましょう。

次のページ
Discovery-Driven Planningの柱の一つ:<br /> 逆損益計算法

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この記事の著者

小川 康(オガワ ヤスシ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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