11月2日、東京電力は福島第一原発2号機の核燃料や原子炉内の構造物が溶けて固まった塊、いわゆるデブリをごく微量、格納容器外に取り出した。小石状の形状で大きさは5㎜程度、重さは0.7gだという。福島第一原発事故から13年、ようやく廃炉の本丸であるデブリに到達したことになる。が、まったく喜べる話ではない。むしろ拙速さすら感じられる。


(この記事2024年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 492号からの転載です)

デブリ採取にトラブル多発
厳しい作業環境と計画の拙速さ

今回のデブリの微量採取には紆余曲折があった。採取用装置製造に着手したのは2017年。21年には装置を使ったデブリ微量採取に着手する計画だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、英国で行われていた取り出し装置(ロボットアーム型)の開発が遅れた。ようやく装置の開発が完了し、23年10月、装置を格納容器の内部に入れるための開口部(X-6ペネトレーション)のふたを開けたところ、ケーブルが溶けて固まっていた。溶けたケーブルを除去したが、開発した採取装置は精度が悪く、24年8月22日に別の装置(釣り竿型)を使ってデブリ取り出しに着手予定だった。ところが、採取装置の配置順を間違えたため、並べなおして9月10日にデブリ採取に着手し、14日にはデブリに接触したが、17日、装置のカメラ映像が映らなくなるトラブルが発生した。
10月18日にカメラ交換を完了して28日に採取作業に再び着手、11月2日にようやくデブリを格納容器外に取り出せたのだ。作業環境の厳しさと計画の拙速さを感じさせる経緯だ。

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採取は880t中のたった0.7g
作業員の被ばく線量も高い

政府や東京電力は、デブリ採取は、本格的な取り出し工法の検討など、今後の廃炉を進める上で欠かせないという。だが、今回採取できるのは合わせて880tと推定されるデブリのうち計画上は数g、実際はさらに少なく0.7gでしかなかった。これを分析しても、全体のデブリの性状を代表するものとはとても言えない。もしこれで全体の取り出し方法の検討が行えるのなら、サンプル採取などしなくてもできる話だ。一方、今回の採取計画では、作業員の被曝線量の目標値が最大12mSvと、わずか数gの取り出しにもかかわらず、高い目標値が設定されていた。実際に採取できたデブリの線量は低かったが、将来のデブリ取り出しで直面する困難性を示唆している。

国と東京電力の計画では、福島第一原発の廃炉完了は事故から30~40年後、つまり2051年までとされている。だが、廃炉後の跡地の姿はまったく描けていない。廃炉作業の進捗に伴って、デブリや、汚染された建屋の解体など、大量の放射性廃棄物が発生する。原子力学会の廃棄物発生量推計値によれば、通常の原発廃炉で発生する600倍以上もの低レベル放射性廃棄物が発生する。通常の原発廃炉で発生する放射性廃棄物の置き場にも苦労している中、600基分以上の廃棄物の処分場所が存在するのか。
また、8兆円と見積もられている廃炉費用は、デブリ取り出しまでの費用で、膨大に出てくる放射性廃棄物の処分費用を含めると、これを大きく上回ることは確実だ。51年に廃止措置を完了させるのであれば、廃棄物処分費の積み立ても考えなければならない。だが、東京電力にそのような体力は残されているのか。
そこまでやっても、福島第一原発の敷地は強く汚染されている。サイトが実際に開放できるようになるには長い時間を要することになるだろう。
廃止措置がどこまで可能なのか、そしてそれは51年までに実現可能なものなのか、資金はそれまでに準備できるのか。廃棄物はどこに処分するのか。事故から13年、福島への責任貫徹と言うなら、そろそろ真剣に検討するべき時だ。
(松久保 肇)

松久保 肇(まつくぼ・はじめ)

1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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