これが新型アルトの実力! 日本車の進化の主役はアルトだった!!

これが新型アルトの実力! 日本車の進化の主役はアルトだった!!

 7年ぶりにフルモデルチェンジを行い、歴代9代目モデルとなった新型アルト。2021年12月22日から発売を始めたが、その実際の走りや使い勝手のほうはどのように進化しているのだろうか。

 ベーシックな軽セダンだからこそ、ユーザーの目はより厳しくなってくるのだが、細部のチェックについては並ぶ者がいない自動車評論家、渡辺陽一郎氏にさっそくこの新型アルトに試乗してチェックしてもらった!

文/渡辺陽一郎写真/西尾タクト

【画像ギャラリー】これぞ日本のベーシックカー! 新型アルトの実力を裏付けるポイントを写真でチェック!!(39枚)画像ギャラリー

■質感を向上させてきた新型アルトの進化は大きい!

 1979年に初代モデルを発売したアルトは、スズキの中心的な車種になる。2021年12月10日にフルモデルチェンジを行って9代目に進化した。

 新型アルトの外観は、従来型に比べると印象が変わった。従来型は直線的なデザインで、シンプルなツール感覚を表現したが、新型はボリューム感を増している。

新型アルトのエクステリア。世代を超えて親しみやすく、愛着のわくデザインを採用しているのだという
新型アルトのエクステリア。世代を超えて親しみやすく、愛着のわくデザインを採用しているのだという

 テールランプの位置も、先代型は軽商用車のようにリアバンパーに装着されたが、新型では高い位置に戻された。開発者は「先代型はデザイン面で実用的な機能を中心に表現したが、賛否両論があり、新型では質感を高めている」と述べた。

 新型のボディを横方向から見ると、ボンネットとルーフパネルの寸法的な比率、フロントピラー(柱)の角度などがバランスよくデザインされている。

■前方視界のよさにもこだわりを見せる

 見栄えがいいだけではない。先代型に比べると、フロントピラーとフロントウィンドウの角度を立てて、手前に引き寄せた。そのためにピラーが前方視界を遮りにくく、斜め前側も見やすい。

 ちなみにピラーを寝かせると、前面衝突時のエネルギーをボディ全体で吸収しやすいが、角度を立てると困難になる。開発者は「新型アルトでは、衝突安全性能の確保でも苦労した」と語る。

 サイドウィンドウの下端は、先代型に比べて35mm下がり、側方視界も向上した。運転席のサイドウィンドウを開いて後ろを振り返ると、後輪が視野に入る。駐車場の白線と並行に駐車する時も便利だ。

サイドウィンドウの下端が下がったことで側方視界も向上させた新型アルト。あくまでユーザーニーズに寄り添っている<br>
サイドウィンドウの下端が下がったことで側方視界も向上させた新型アルト。あくまでユーザーニーズに寄り添っている
こちらは先代型アルト。サイドウィンドウ下端の形状がかなり新型よりも上がっていたことがわかる
こちらは先代型アルト。サイドウィンドウ下端の形状がかなり新型よりも上がっていたことがわかる

 先代型ではリアサイドウィンドウの下端を後ろに向けて大きく持ち上げたが、新型ではこの度合いも少なく抑え、斜め後ろも見やすくなった。

 良好な視界とカッコよさの両立は、工業デザインの本質を突いている。視界は安全に直結するから、外観がカッコよくても、後方視界が悪ければクルマのデザインとしては失格だ。アルトはカッコよさと視界を両立させており、優秀な工業デザインといえる。

■使い勝手のよさを増したインパネ、居住空間の余裕もあり!

 インパネも新型になって質感を高めた。助手席の前側に装着された助手席エアバッグのカバーは、緩やかに膨らんで、硬い樹脂製なのにソフトパッドのように見える。メーターやスイッチ類の視認性や操作性もいい。

先代よりも質感を高めてきた新型アルトのインテリア。立体的な造形を採用することで平板な印象だった先代型よりも華やかになっている
先代よりも質感を高めてきた新型アルトのインテリア。立体的な造形を採用することで平板な印象だった先代型よりも華やかになっている

 カップホルダーは、先代型では前席中央の床に装着されたが、新型ではインパネの両端にあるから手が届きやすい。前席中央の床面にはトレイが備わり、バッグなどを置きやすい。

 全高は先代型よりも50mm高い1525mmになり、室内高も45mm増えた。頭上の空間に余裕がある。身長170cmの大人4名が乗車した場合、前席の頭上空間は握りコブシひとつ半、後席も握りコブシひとつ弱を確保する。

 後席の膝先空間は握りコブシふたつ半で、先代型と同様にゆったりしている。軽自動車のプラットフォームは空間効率が優れているので、アルトの後席も、前後方向の足元空間についてはヴェゼルやレヴォーグと同等になる。

 前席は座り心地が向上した。ファブリックのシート生地はデニム風に仕上げられ、柔軟で伸縮性も優れているから体にフィットする。背もたれは腰を包む形状で、体重が加わる部分は適度に硬く仕上げたから、着座姿勢が安定する。長距離を移動する時も疲れにくい。

 ただし、後席は改善を要する。座面の奥ゆき寸法がかなり短く、深く座ると骨格が腰に当たる。そのために違和感が伴う。アルトは2名乗車が中心の軽自動車だが、前述のとおり後席は充分に広いから、座り心地に不満が伴うのはもったいない。

 特に今後は、軽自動車も2030年度燃費基準への対応を迫られ、マイルドハイブリッド以上に燃費を低減させねばならない。軽自動車の価格は、環境性能を向上させるために、20万円を上限として値上げされる可能性が高い。

■上級車種からのダウンサイザーをどう迎えるか?

 そうなるとスペーシアのユーザーがワゴンRへ、ワゴンRからはアルトへの乗り替えも生じる。新型アルトは内外装を上質に仕上げて頭上空間も拡大したから、ワゴンRなどの上級車種からの移行にも対応しやすい。この需要動向を考慮すると、アルトの後席はもう少し上質に見直すべきだ。

新型アルトは後席の居住空間も筆者の握りこぶし1個弱を確保するほどの余裕があることがわかる
新型アルトは後席の居住空間も筆者の握りこぶし1個弱を確保するほどの余裕があることがわかる

 エンジンは従来のエネチャージ(電装品に供給する発電を効率よく行う機能)に加えて、新たにマイルドハイブリッドも採用した。マイルドハイブリッドは、モーター機能付き発電機が、減速時の発電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動の支援を行う。アイドリングストップ後の再始動はベルトで駆動するから、スターターの金属音が発生しない。

 試乗車は最上級のハイブリッドXであった。エンジンが少し高回転指向だから、時速30kmまでの発進加速はやや物足りない。それでも車両重量が710kgと軽く、軽自動車のノーマルエンジン車としては余裕を感じる。

 登坂路でアクセルペダルを深く踏むと、エンジンノイズが耳障りだが、平坦路では気にならない。充分な動力性能を備えているので、今のところアルトワークスのようなターボエンジン搭載車は計画されていないようだ。

 走行安定性も満足できる。コスト低減のためにスタビライザー(ボディの傾き方を制御する足回りのパーツ)が省かれ、ボディの傾き方は小さくないが、唐突な挙動変化が生じないから運転しやすい。

■全般的に優れた乗り心地と走行性能

 先代型に比べるとボディ剛性が高まり、足回りに使われるショックアブソーバーやスプリングを少し硬く設定したことも、走行安定性の向上に役立っている。スタビライザーを装着してセッティングを見直せば、走りはさらに上質になる。

 走行安定性が向上したので、ステアリングのギヤ比は見直していいだろう。最小回転半径が4.4mと小さいこともあり、Uターンの時にはステアリング操作が忙しい。右側から左側までフルに回転させるロック・トゥ・ロックは、4.1回転に達する。走行安定性の低いクルマにクイックなギヤ比を与えると、不安定になりやすいが、今のアルトなら3.5回転まで詰めても問題はない。そのほうが自然な操舵感覚になる。

 足回りを硬めに設定すると乗り心地の悪化が懸念されるが、低価格の軽自動車としては意外に快適だ。時速40km以下では路上の細かなデコボコを伝えるが、それ以上の速度になると気にならず、大きな段差を乗り越えた時の突き上げ感も小さい。

試乗車のHYBRID Xを試す筆者。この価格帯の軽自動車としては望外の乗り心地のよさに思わず顔がほころんでいるのがおわかりだろう
試乗車のHYBRID Xを試す筆者。この価格帯の軽自動車としては望外の乗り心地のよさに思わず顔がほころんでいるのがおわかりだろう

 背景にはタイヤと指定空気圧の変化がある。先代型は13インチタイヤを中心に装着して、指定空気圧は、転がり抵抗を抑えるために280kPaと極端に高かった。新型アルトは、ワゴンRスマイルに装着される14インチタイヤを流用しており、指定空気圧も240kPaに抑えたから乗り心地が向上した。

 以上のように新型アルトは、優れた商品に仕上がった。価格設定にも注目したい。最も安いAは94万3800円だ。このグレードにも、後退時ブレーキサポートを含めた衝突被害軽減ブレーキ、サイド&カーテンエアバッグなどが標準装着され、WLTCモード燃費は25.2km/Lになる。

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