最近、「ストレスとどう付き合うべきか」ということをよく考えるようになり、メンタルヘルス、マインドフルネス、ストレスマネジメント、認知行動療法、ウェルビーイングなどの書籍を読み漁っています。
こうしたインプットを踏まえた上で、「仕事のストレスを軽減させる8つの思考」というのを私なりに考えてみました。元々は社内向けに作ったものですが、ストレスマネジメントは多くの働く人に共通する課題だと思いますので、皆さんにも共有します。
起こってしまったことについて、悪い、嫌だ、頭にくる、がっかりだ、大変だ、失敗だ、期待外れだ、といった負の感情を抱くことは、巻き戻せない時間を相手に、心をすり減らすだけです。結果論でしかないことに囚われず、起こった事実をありのまま受け入れ、余計な負の感情に飲み込まれずに、今やるべきことに集中しましょう。
ストレスが多い考え方:「納期間際に考えられない仕様変更だ。これは大変だぞ。そもそもなんで今頃こんな変更が入るんだ。意思疎通がうまく行ってないんじゃないのか。納得いかない仕様変更でイライラするな。」
ストレスが少ない考え方:「納期間際になっての仕様変更だ。ひとまず優先順位を付けよう。納期に間に合わないものはそう伝え、スケジュールを調整しよう。進め方にも問題がありそうなので、それは終わってから話そう。」
認識していることが事実なのか推測なのか、明確に意識しましょう。推測であるなら、「~に違いない」と決めつけず、「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない」と判断にゆとりを持ちましょう。推測・憶測・解釈にすぎないことを一方的に決めつけて、事実でないことにまで無駄にストレスを感じるのは極力避けましょう。
ストレスが多い考え方:「先輩と3日も話をしていない。この前の私の失敗に怒ってるに違いない。嫌われてしまった。先輩と顔を合わせるのが辛い。会社に行くのも億劫だ。」
ストレスが少ない考え方:「先輩と3日も話をしていない。この前の私の失敗に怒ってるのかもしれないが、これは推測だ。忙しいだけかもしれない。今度話す機会があった時に確認し、まだ怒ってるようだったら改めて謝っておこう。」
大抵のことは、ある一定の確率で運が良いことと運が悪いことが起こり、最終的には平均に回帰します。サイコロを2~3回しか振らなければ極端な平均値になりますが、数多く振れば3.5に近付くのと同じです。たまたま起こった事を悪く捉えていると、一定の確率で起こる不運がすべてストレスになります。悪いことが起こっても反射的に捉えず、一呼吸おいて冷静に判断してみましょう。
ストレスが多い考え方:「デザインを提案したが、やり直しになってしまった。優秀なデザイナーならきっとこんなことにならないはずだ。やっぱり私には才能がないのだろう。この案件は私には荷が重い。」
ストレスが少ない考え方:「デザインを提案したが、やり直しになってしまった。今回はたまたま相性が悪かったのかもしれない。気を取り直して新しい案を考えよう。それでも決まらなかったら、ディレクターと一緒に対策を練ろう。」
問題意識を持つことは大切ですが、自分がコントロールできないこと、例えば他人の行動や考え方、市場の潮流、社会情勢、天変地異などに対して、怒りや憎しみ、悲しみなどの負の感情を乗せ過ぎないようにしましょう。事実をそのまま受け入れ、なるべく感情的にならず、自分が今、何をどう行動するかだけを考えるようにしましょう。
ストレスが多い考え方:「クライアントの担当者とはここまでスムーズに仕事をしてきたのに、新しく配属された役員が色々と言ってくる。直接会えない役員のせいで仕事が増えた。あの役員さえ来なければもっと楽に仕事ができたのに。」
ストレスが少ない考え方:「クライアントの新しい役員からの追加要求が来た。クライアントの人事の問題だから仕方ない。企業相手の仕事には時々あることだ。できること、できないことに分けて、現実的な対応をしよう。」
成功 or 失敗といった極端な捉え方をすると、あらゆることが息苦しくなります。7割できていることを「マイナス30点の失敗」と捉えると、人生は失敗だらけになります。完璧主義はストレスの元です。仕事で「完全に○○」なことは滅多にありません。理想と違う、計画と違う、言った通りじゃない、と不完全を悪く考えず、許容していきましょう。
ストレスが多い考え方①:「最初に立てたスケジュールと変わってしまった。なぜいつもスケジュール通りに進まないのか。自分はスケジュール通りやりたいのに、必ず邪魔が入りスケジュールが変わってしまう。それがすごく不満だ。」
ストレスが少ない考え方①:「最初に立てたスケジュールと変わってしまった。スケジュール通りに固執せず、適宜調整して、柔軟に進めていこう。問題があればメンバーに相談すればいいだろう。スケジュールの立て方に問題がないかは、改めて皆で話し合ってみよう」
ストレスが多い考え方②:「ソースコードを先輩にレビューしてもらったら、フィードバックが予想以上に来た。先輩はこのくらいで十分と言ってたが、こんなレベルの低いフィードバックをもらっているようではエンジニア失格だ。」
ストレスが少ない考え方②:「ソースコードを先輩にレビューしてもらったら、フィードバックが予想以上に来た。先輩はこのくらいで十分と言ってた。もう少し頑張りたいところだが、先輩の言葉通り、ひとまず今はよしとしよう。」
リスクに備えるのは大切ですが、未来の不安を先取りしすぎないよう注意しましょう。人生も仕事もリスクゼロではないため、不安は無限に生み出せますが、それをやると人生が不安だらけになります。まだ起こってないこと、その時にならないと分からないことは、「なんとかなる」と考えて、不安が頭を占める時間をできるだけ減らしましょう。
ストレスが多い考え方:「来週の社長提案は今から気が重い。もしもOKをもらえなかったら今までの仕事が全部やり直しだ。そしたら徹夜しないと間に合わなくなる。そんなことになったら嫌だな。ああ憂鬱だ。」
ストレスが少ない考え方:「来週の社長提案は、OKをもらえない可能性もあるが、提案してみないと結果は分からないことで、今から悩んでも仕方がない。今はできることをやろう。後のことは起こってから考えよう。」
「~しないといけない」「~すべき」という極端な考え方は、必要以上のプレッシャーを生み、自分を追い詰めます。これを他人に向けると、他人のあらゆる行動や考え方にストレスを感じるようになります。道筋が一つしかないことはありません。凝り固まったルールに囚われず、その条件を満たさずとも他に方法はあるはずと、柔軟に考えましょう。
ストレスが多い考え方①:「UIデザイナーならソースコードくらい書けるべきだし、データベースも理解できてないといけない。それができてないUIデザイナーに良いデザインは作れない。自分はダメなタイプだ。こんな仕事をしてる場合じゃない。なんとかしないと。」
ストレスが少ない考え方①:「UIデザイナーなら自分でソースコードくらい書けるべき、データベースも理解すべき、って言われてるけど、本当にそうなのかな。確かにそういう人もいるけど、そうじゃなくても活躍しているUIデザイナーだっている。あんまり決めつけず、まず目の前の仕事に集中しよう。」
ストレスが多い考え方②:「上司なら部下の行動を把握してて当然なのに、あの上司は私の行動に気付いてくれない。上司として失格じゃないか。あんな上司とは一緒に仕事をしたくない。これ以上あの人と関わるのは時間の無駄だ。」
ストレスが少ない考え方②:「上司なら部下の行動を把握してて当然というが、上司も超能力者じゃないし、すべての行動を把握することは不可能だろう。上司ともなれば、ある程度本人に任せることも大事かもしれない。どうしても上司に知ってほしいことなら、自分から上司に報告すればいいだろう。」
嫌なことを先延ばししていると、それが解決するまでの間、ずっと不安な気持ちが続いてしまいます。今のストレスを先延ばしにしたことで、結果的にストレスの総量を増やしてしまいかねません。避けることができずどうしても向き合うべきことなら、さっさと対処してしまい、不安を感じる時間をできるだけ減らすようにしましょう。
ストレスが多い考え方:「今デザインを見せると、また色々言われてしまうかもしれない。今のデザインのままでいいのかとても不安だが、ひとまず相談は後回しにして、あと一日、一人で作り切ってしまおう。」
ストレスが少ない考え方:「今デザインを見せると、また色々言われてしまうかもしれないが、どうせならさっさと見せよう。不安を抱えたままの方が非効率だし、今日一日の精神衛生的にもよくない。思い切って今相談する方が得策だ。」
ベストセラー『予想通りに不合理』で有名な心理学者/行動経済学者であるダン・アリエリー氏は、幸せには以下の2種類があると述べています。(※1)
幸福タイプ1は、睡眠欲、食欲、性欲などの根源的な欲求や快楽が満たされる幸せです。お酒を飲む、温泉に入る、音楽やゲームに興じる、など。安い買い物をした、宝くじに当たったなどの、合理的に考えたときに得だと感じる幸せも含まれます。幸福タイプ2と比べるとラクに手に入りますが、幸福感は長続きしません。
幸福タイプ2は、他者と関係を構築したり、困難なことを達成したりする幸せです。マラソンを走り抜く、高い山を登る、事業を興す、本を書きあげる、子供を育てる、など。複雑で難しく、労力や苦痛を伴い、大半の時間は辛そうにも見えますが、やり遂げると、満足感、達成感、自信、自己肯定感、人生をコントロールしている実感を得られます。一度得た幸福感は長続きし、一生続くこともあります。
言うまでもなく、人生やキャリアは幸福タイプ2を中心に設計されるべきでしょう。しかしながら、幸福タイプ2には困難や苦痛が付き物です。そのため、困難や苦痛をうまく懐柔するためのストレスマネジメントが必要になってきます。
ストレスの発生構造は以下のようになっています。(※2)
このうち、①ストレスの原因であるストレッサーを減らすこと、②個人差要因を鍛えてストレスを小さくすること、がストレスマネジメントの基本的な考え方です。
①のストレッサーを減らすのは、もっとも根源的な対処法です。職場環境が強力なストレッサーであるならば、その職場を去るのがもっとも効果的な対処になります。しかしながら、ストレッサーをこのように片っ端から排除していくのは現実的ではありません。ストレスをなくす代わりに、通常の社会生活が送れなくなっては、意味がありません。
そこで考えたいのが、体質・習慣・心といった、②の個人差要因を鍛えることです。このうち、遺伝的特性を含む体質を変えるのはなかなか難しいかもしれませんが、習慣であれば今日から始められることも多いです。
健康習慣の研究者・森本兼曩氏は、数万人の調査データをもとに、心身ともに健康に保つ「8つの健康習慣」のチェックリストを定義しています。
チェックが7~8なら良好、5~6なら中庸、4以下なら不良と言われています。これを参考に、今すぐできる習慣を取り入れてみるといいでしょう。
また、習慣の中にリラクセーションを取り込むのも効果的です。呼吸法、漸進的筋弛緩法、自律訓練法、ヨガ、アロマテラピーなど、やり方は様々あります。YouTubeなどにたくさん動画がアップされていますので、自分に合ったものを生活習慣に取り入れていくといいでしょう。
そして習慣とともに、比較的すぐに始められることが、心を整えることです。この記事の主題である「仕事のストレスを減らす8つの考え方」も、その一つです。
心というと、精神論や根性論のようなもので、医学的根拠がないと思われる人もいるかもしれません。しかし、気持ちの持ちようがストレスの量を変え、身体や精神への負担を和らげることは、医学的に証明されていることです。
以下は、そのメカニズムを理解するための、中枢神経系と生体機能調整系の関りを示した図です。(※2)
大脳で考えたことや受けた刺激が、間脳にある視床下部を通じて、生体機能調整系といわれる自律神経系・内分泌系・免疫系に影響を与えます。これらが働き、私たちの身体は何もしなくても健全な状態になるように自動調整されます。(ホメオスタシスの維持)
しかし、ストレス量が限界を超えると、この生体機能調整系のバランスが崩れ、ホメオスタシスの維持が難しくなり、それが身体・精神・行動の異常に繋がります。
例えば、風邪で38度の熱が出たとき、気持ちの持ちようで熱が36度に下がったりはしませんが、ストレスとそれに起因する不調に関しては、大脳からの指令が大きな影響を与えているため、気持ちの持ちようで作用が変わってくるわけです。
このように理解すれば、ここで紹介したストレスを軽減する8つの思考は、単なる精神論や心構えではなく、ストレス耐性を強め、健全な心と体を作り、幸せタイプ2を軸とした幸福度の高い人生やキャリアの根幹になるということが分かるでしょう。
なお、ここでご紹介した8つの思考は、うつ病治療や認知行動療法で40年以上参考にされているデビッド・D・バーンズの「認知の歪みの定義」を参考にしています。(※3)
このように医療専門家や心理学者の書籍を参考に、私自身の経験を交えて編集したんものですが、私自身はこの領域の専門家ではないので、あくまで自己啓発の範疇で参考にしてください。メンタルヘルスの重篤な問題を抱えている方は、この記事を参考にするのではなく、すみやかに専門家に相談しましょう。
参考書籍
※1 「幸せ」をつかむ戦略(2020)富永朋信、ダン・アリエリー
※2 ストレスに負けない生活(2007)熊野宏昭(図は本書を参考に編集)
※3 いやな気分よ、さようなら コンパクト版(2013)デビッド・D・バーンズ
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