「もっと話上手になれたらいいのに」と思っている人は多いのではないでしょうか。
普通のビジネスパーソンは、アナウンサーのような卓越した話術を身に付ける必要はありません。しかし、話上手になることができれば、交渉が得意になり、営業も人事評価も転職活動も有利に進められるようになります。仕事におけるメリットは計り知れません。
私たちの会社でも、特に顧客と直接対話する機会が多いディレクターやデザイナーには、業務知識だけではなく、顧客との話し方についてもなるべくフィードバックしています。会話のクオリティは、サービスの品質や満足度に深く関わると思うからです。
最近は、会話ではなく、メールやチャットで済む機会も増えています。一方で、話上手な人はテキスト・コミュニケーションも大抵上手な印象があります。話術の中には、コミュニケーションに共通する普遍的ななにかが含まれているのでしょう。
こんな記事を書いてはいますが、実は私自身は話が上手なタイプではありません。しかしもしかしたら、話のプロではない私が感じていることの方が、一般のビジネスパーソンには身近に響くかもしれません。
というわけで私なりに考えた、一般のビジネスパーソンにおける、話が上手な人と下手な人の違いというのをまとめてみました。
「起承転結」という言葉があるので誤解するかもしれませんが、ビジネスコミュニケーションは「結」から始めるのが鉄則です。
結論を言わないまま経緯や理由から話してしまうと、聴き手は「結局何がいいたいんだろう」と頭の中であれこれ考えながら話を聞くことになります。落とし所が分からない話は集中しにくく、長く複雑になるほど理解が難しくなります。
ビジネスはエンタメではないので、結論を引っ張る必要はほとんどの場合ありません。「結論からいえば」といってまず結論を話し、「なぜならば」と理由を説明する。これを基本フォーマットにするだけで、格段に話が分かりやすくなるはずです。
ちなみに、結論がまとまっていないときは、素直に「結論が出てないのですが」といって話し始めるでいいと思います。オチが分からないまま話を聞くより、「結論が出ていない」というオチが分かったうえで話を聞く方が、遥かに分かりやすいはずです。
難しい言葉を使っているわけでもないのに話がうまく伝わっていない時は、前提の共有ができてないことを疑いましょう。
例えば「ユーザー体験に配慮しましょう」という話は特に難しくはありませんが、「何故そんな当たり前の話をするのだろう」と思われる可能性もあります。前提の説明がなく、これだけでは文脈が理解できないからです。
この話を理解するには、ユーザー体験に配慮することは実は難しい、企業はユーザーより自社の都合で優先しがち、製品を高機能にしていくだけではなく、ユーザー体験との親和性を高めていかなければ使われない、配慮するというのはしっかり調査して把握することだ、といった前提の理解が必要です。
案外、知識豊富な人に限ってこれに陥ります。自分が知っていることは相手も分かってると思い、どんどん話を進めていってしまうのです。しかし、どんなに知識豊富でも、話の前提をきちんと説明しなければ、ただの話が分かりにくい人になってしまいます。
これがさらに悪化したのが、相手が理解してるかどうかを顧みずに専門用語を連発する人です。ここまでいくと、相手の立場で物事を考える、というビジネスの基本から叩き直さないといけないかもしれません。
「○○ですか?」という質問には「はい or いいえ」で、「これはAとBのどちらですか?」という質問には「A or B」で答えるべきです。
しかしビジネスの現場では、長々と説明した挙句に質問への回答はしない、というやりとりをよく見かけます。話している本人は回答しているつもりなのに、答え方が明確でなくて伝わっていないこともあります。
丁寧に説明したつもりなのに、「結局答えは何ですか?」と再び質問されたら、相手の理解力ではなく、自らの話し方をまず疑うべきでしょう。
またしばしば、質問に答えずに質問し返すことを繰り返す人もいます。自分の主張をせず、波風を立てず、コミュニケーションを取っている体裁を取るテクニックなのかもしれませんが、当然ながらこのようなやり取りは、ビジネスにおける理想的なコミュニケーションとは言えません。
質問されたら、はっきりと分かりやすく回答をする。できるだけ最初に回答を伝える。コミュニケーションの基本としてこれは徹底したいものです。
会話にも情報構造があります。しかし話が下手な人はこの情報構造を無視して、各論を列挙するような話し方をしてしまいます。そうすると、どういう全体像の中でその話がどう位置づけられるかが分からず、理解度が下がります。
各論の列挙とは、例えば「直近の1カ月でまずやることを教えてください」と問われたときに、「まず、ヒアリングをやって、ワークショップをやって、ユーザーテスト、ログ解析、競合分析を行います」といったような答え方をすることです。
全体から体系立てるというのは、「まずやるのは調査です」と大きな結論を話したうえで、「プロジェクトは、納品までに大きく、戦略、設計、制作の3つのフェーズに分かれます。まず実施するのが戦略フェーズです。戦略フェーズはさらに調査と戦略立案に分かれます。まずやるのがその調査です。調査の中では、ヒアリング、ワークショップ、ユーザーテスト、ログ解析、競合分析を行っていきます」といった話し方をすることです。
これは一つの例ですが、特に専門的な話、抽象度の高い話、複雑な話は、全体概要から徐々にブレイクダウンして小さな各論の話をした方が分かりやすい、というのは多くの状況で当てはまるのではないでしょうか。
概念のような、抽象的な話を理解するのは基本的に難しいものです。しかし抽象的な話が必要な時もあります。そういう時は、身近な例などを交えてできるだけ具体的にイメージできるように話したいものです。
例えば、CTAのことを知らない人に、「CTAとは、コール・トゥー・アクションの略です。ユーザーの行動を喚起するために設置されるボタンなどのことです」という説明で終わらせてしまう人は、話が下手な人といっていいでしょう。
話が上手な人は、上記の説明に続いて、「例えば、通販サイトで『資料請求はこちら』とか『無料サンプルプレゼント』といった、行動を促すようなボタンを見たことはありませんか?あれがCTAです」といった、相手がイメージできる具体的な説明をするでしょう。
さらに親切な人なら、「問い合わせをしたくてサイトに訪問したのに『どこに問い合わせボタンがあるか分からない』となって、立ち去ったことはありませんか?CTAを置けば、こういうお客さんを逃がすようなことを避けられるんです」と説明するかもしれません。
抽象的な話はなるべくしない。もしするときは、相手が想像できる身近な物事に例えて具体化する。これを徹底すれば、抽象的な話も分かりやすく伝えられるはずです。
主語を省略しても会話が成立するのが日本語の特徴です。英語と同じように毎回主語が入ると、日本語では逆にくどい会話/文章になってしまいます。しかし主語を省略しても成り立つこの特徴が、話の難易度を上げることもあります。
ビジネスシーンでは、スピードやリズムといった話の快適性よりも情報の正確性が求められます。会話中に「それは誰が?」と聞き返されることが多い人は、主語を省略しすぎなのかもしれません。その場合、多少くどくなっても、これまでに以上に「主語をはっきり話す」ということを意識してみるといいでしょう。
時々、会話を再現しながら話す人がいます。例えば、「A部長が『いますぐやれ』と言ったんだけど、B課長が『そんなこと言われてもすぐはできませんよ』と言ったら『すぐやれることを考えるのがあなたの仕事だろう』と言って、結局『これはおれの担当じゃない』と言いながらも渋々言われた通りに…」といった話し方です。
この話し方は、情報量が少ない割に話が長くなりやすく、さらに主語を省略してしまうと、どの人物の話なのか分かりにくくなります。これなら「A部長が指示したことにB課長は一旦反対したが、渋々従った」という伝え方でいいはずです。この方が話は短く、分かりやすくなります。
ちなみに、落語や漫才では会話を再現するような話し方をしますが、話術の達人だから成り立っています。ビジネスでは会話を再現する必然性はほとんどないはずで、素人は安易に真似をしない方がいいでしょう。
新社会人向けの研修でまず教えなければいけないのは、「事実と解釈を分ける」じゃないかと私は思っています。というのもビジネスの現場では、この基本ができていない人がたくさんいて、そんな人同士の会話によって、多くの誤解や無駄が生じているからです。
例えば、「プレゼンのお客さんの反応はどうだった?」という上司に対して「悪くない反応でした」と部下が回答するケース。
「悪くない反応でした」というのは何が事実で何が解釈か、分かりにくい答え方です。上司が部下を信頼していればそれで成立することもありますが、事実関係を求められている時にこの回答では不十分です。
こういう時は例えば、「プレゼンに対して『とてもよく出来ている』と評価をいただきました(事実)。ただ、少しだけ予算オーバーともいっていました(事実)。そのため社内で検討して今週中に返事をするとのことです(事実)。私としては、悪くない反応だったと思います(解釈)」というように、事実と解釈を明確に分けて話すべきです。
なお、事実と解釈をごちゃ混ぜにしないというのは、話だけでなく、情報を受け取る時、あるいは人間関係を円滑にする上でも大事な考えです。
例えば、「上司と1週間話をしていない」は事実でしょうが、これに「上司は私を嫌っているに違いない」という解釈を加え、それを事実として思い込むと、上司との関係が悪い方向に向かいます。それは解釈なので、もしかしたら上司が忙しいだけかもしれないのに、上司が私を嫌っていると決めつけてしまうわけです。
事実と解釈を明確に分けて扱うのは、仕事に限らず、円滑な社会生活を送る上での基本です。私たちは常に、「これは事実か?それとも解釈か?」と自問自答しながら、情報の受け取り方や話し方を考えていく必要があるのです。
事実と解釈を明確に分けることを前提としながら、その上で自分の意見や主張ははっきりと述べたいものです。
先ほどの報告の例でも、「プレゼンに対して『とてもよく出来ている』と評価をいただきました。ただ、少しだけ予算オーバーともいっていました。」という事実報告だけでは、上司が一番知りたい「受注できそうか?」ということが分かりません。
意見の衝突を恐れる人の中には、事実だけ報告して自分の意見は言わない、というコミュニケーションをする人もいますが、こういうことをしていると、仕事における主体性をどんどん失っていきます。仕事の中で何かを聞かれるときは、事実とセットにしたその人の解釈・意見・主張・感想が求められていることがほとんどです。
話上手な人は、自分の主観をきちんと話します。感情を乗せることも恐れません。「私は好きですよ」「これは本当に面白いです!」「私はちょっと面倒くさいと思っちゃいました…」などと、表情豊かに話します。無表情になりがちな私などは、こういう人を見ると羨ましくなったりします。
聞き手としては、主観的な印象や話し手の感情もセットになっていた方が、判断基準が生まれて話が分かりやすく思えるはずです。
事実と解釈をごちゃ混ぜにするのは良くありませんが、一方で自分の意見や感想を述べることは恐れず、積極的に話の中に盛り込んでいきたいところです。
話したいことが盛り沢山な人は、一つの話が終わってないのに、「そういえば…」「そうそう、それでこれは…」と、聴き手の理解が追い付いていないのにどんどん話を展開させていき、元々の話がよく分からなくなる、ということをやってしまいがちです。実は私も時々やってしまいます…。
複数のテーマが一つの話に混在すると、結論が分からなくなったり、話の主題を見失ったりしがちです。映画や漫画などの娯楽では、一つの話に複数のテーマを盛り込むことは珍しくありませんが、ビジネスでは1トーク=1テーマの基本法則を守り、一つのテーマが完結するまでは、次のテーマを話し始めるのは控えたいものです。
ちなみに、一度に2つ以上の質問するのもこれと同じです。回答者は2つ目以降の質問を忘れて、結局は同じ質問をもう一度することになりがちです。「質問は3つあります」と最初に数を言った後、1ずつ質問していくのがいいでしょう。
役職が高い人などはしばしば、自分だけが長々と話してしまい、他の人が話す時間を奪ってしまうことがあります。
自分は気持ちよく話しているのかもしれませんが、会話を省力化する努力をせず、まとまりのない話を延々と聞かされるのは、聴き手としては苦痛です。さらに、他人が口を挟む隙間もなくずっと話し続ける人もいますが、こういう人が会議に一人いるだけで、会議の生産性が一気に落ちてしまいます。
会話には、適切な会話量が存在します。2人であれば、5:5のバランスが一番美しいでしょう。もしそこに、教える/教わるの関係があれば、6:4や7:3くらいに偏ってもいいかもしれません。しかし8:2や9:1だと、バランスを欠いた会話と言わざるを得ません。
参加者の人数とそれぞれの立場・役割、その会話の目的などから、自分に与えられた会話量をおおよそ感じ取り、それに合わせて話す量や時間を調整したいものです。
もはや話術ではありませんが、私自身の経験でも、事前準備をした方が確実にスムーズに話ができます。初めてのテーマで30分以上話すときは、事前に時間割を作ったりもします。それでも時間オーバーになることは多いのですが、いきなり話すよりマシです。
「話すのが苦手」という人の中には、事前練習をしていない人も多いように思います。ビジネスにおいて、ぶっつけ本番で話さないといけない、などというルールはありません。自信がないなら、メモを書きながら脳内シミュレーションをしたり、社内の人を集めて予行練習をしたりなど、事前準備をしっかりすべきです。
実は登壇やプレゼンに慣れている人でも、事前練習をするという話を聞いたことがあります。話が苦手な人ならなおさら、入念に練習をした方がいいのではないでしょうか。
私は、「話し方が上達しない人はいない」と思っています。最初はたどたどしい話し方をしている新入社員も、人前で話す経験を何度も積めば、必ず話すことに慣れます。冒頭でも触れたように、話術の達人になる必要はありません。人並みでいいのです。
実は私も社会人になった頃は、下を向いて、資料に書かれたことをただ読むことしかできませんでした。人並みの受け答えができるまでに3年はかかりましたが、結局それも経験量だけの問題だったように思います。
話が苦手といって話す機会を避けている限り、ずっと苦手なままです。話が苦手という自覚があるなら、人前で話をする機会をどんどん作って、苦手意識をさっさと捨ててしまった方がいいと思います。なぜならこの問題は、才能でも何でもなく、経験量だけで解決できるからです。
ただ、経験を積むこと以外にもう一つ、できるだけフィードバックをもらう機会は作った方がいいでしょう。知識豊富な人や役職の高いベテランが話下手になってしまうケースも紹介しましたが、他人からのフィードバックがないと、自分の話し方が正しいと思い込んで習慣化し、下手な話し方をずっと続けてしまいかねません。
フィードバックしてくれる人が身近にいない時は、自分の話を録音して聞くといいでしょう。私も自分の声を聞くのは苦痛なのですが、これをすれば「余計な言葉が多い」「語尾がハッキリしないことが多い」など、自分の話し方の問題点を客観的に捉えることができるようになります。
先ほども書きましたが、話し方というのは、経験量だけでほぼ解決できます。他者からのフィードバックや自己観察を加えると、さらに磨かれることでしょう。しかしながら、経験しなければ、実践しなければ、一向に上達しないものでもあります。
話が苦手と思う人は、こういった記事を読むのもいいですが、その上で、どんどん人前で話すことを実践していくようにしましょう。
ウェブ制作といえば、「納期」や「納品物の品質」に意識を向けがちですが、私たちはその先にある「顧客の成功」をお客さまと共に考えた上で、ウェブ制作を行っています。そのために「戦略フェーズ」と呼ばれるお客さまのビジネスを理解し、共に議論する期間を必ず設けています。
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