11月15日、動画サイト「ニコニコ動画(ニコ動)」を運営するドワンゴが、同社の商標権などを侵害されているとして、同じく動画サイトやブログサイトなどを運営する米FC2を相手取り、東京地方裁判所に提訴した。これに先立ち、FC2も今年7月、ドワンゴに対して同様の提訴をしており、ドワンゴは徹底抗戦の構えだ。

 両社の争いが泥沼化しつつあるかに見える訴訟合戦。が、事はそう単純ではない。ドワンゴが提訴した背景には「国境を超えた権利侵害にどう対峙するか」という川上量生会長の問題意識がある。

 まず、争点を整理しよう。争いは、ドワンゴとFC2、それぞれのブログサービスが「ブロマガ」という呼称を使っており、それぞれ別の目的で商標登録されているために生じた。

削除されない「違法アニメ」

 ドワンゴはブログとメールマガジンが一体となったサービス「ブロマガ」をニコ動内で提供。記事ごと、あるいは月ごとの課金が可能で、サービス名のブロマガは「電子出版物の提供」などを対象に、2013年9月に商標登録されている。

ニコニコ動画の「ブロマガ」紹介ページ。記事ごと、月ごとに課金できるほか、ブログ記事をメールマガジンや電子書籍形式で配信できる
ニコニコ動画の「ブロマガ」紹介ページ。記事ごと、月ごとに課金できるほか、ブログ記事をメールマガジンや電子書籍形式で配信できる

 一方、FC2は、ブログサービス「FC2ブログ」において、記事ごと、月ごとに課金ができる機能「ブロマガ」を提供。「インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与」などを対象に、2013年10月に商標登録されている。

FC2の「ブロマガ」紹介ページ。「ブロマガとは、雑誌の『袋とじ』のようにブログ記事に価格を設定し、料金をお支払いいただいた訪問者だけが閲覧できる機能」とある
FC2の「ブロマガ」紹介ページ。「ブロマガとは、雑誌の『袋とじ』のようにブログ記事に価格を設定し、料金をお支払いいただいた訪問者だけが閲覧できる機能」とある

 先に動いたのはFC2だ。今年7月、FC2は自社の商標権を侵害しているとして、ドワンゴに対してブロマガの記載を中止し、不当利得を返還するよう求める訴えを東京地裁に起こした。

 ドワンゴは、「商標権を取得して正当に使用しており、当社の行為はFC2の商標権を侵害するものではない。徹底的に争う」として、今回の訴訟に踏み切ったという経緯がある。

 だが背景を探ると、両社のあいだには数年前から“火種”が燻っていた。ブログではなく、動画配信サービスの違法コンテンツで。

 FC2には、ユーチューブのようにユーザーが自由に動画を投稿できる「FC2動画」というサービスがあり、テレビ局やアニメ製作会社などの権利を侵害する動画が散見される。ドワンゴは、そうした一部の動画について、権利者から委託される形で、FC2に削除申請を行っていたという。ドワンゴの川上会長はこう話す。

FC2への訴訟に踏み切ったドワンゴの川上量生会長
FC2への訴訟に踏み切ったドワンゴの川上量生会長

 「アニメの会社は、海外にいくつもある動画サービスを相手にいちいち削除申請をする余裕はないところが多かった。ニコ動で公式配信しているアニメ作品について、権利者から『依頼を受けた』という書類を付けて、ドワンゴが代理でFC2に削除申請してきたけれど、なんだかんだ言い訳をつけて、とにかく違法動画を削除してくれない。拒否です」

 ドワンゴとは関連しないが、FC2は他にも問題を抱えていた。

 2014年9月、京都府警などの合同捜査本部は、FC2と関係のある大阪市のネットサービス会社「ホームページシステム」など数カ所を家宅捜索した。容疑は公然わいせつほう助と風営法違反。FC2のライブ配信サービス「FC2ライブ」で無修正の性行為などを配信する違法行為が常態化していた。

 実質的にFC2ライブなどを管理していたホームページシステムはそれを知りながらほう助していたとして、合同捜査本部は2015年4月、同社社長と、同社の元社長を逮捕した。さらに2015年12月、アニメ動画を違法に配信したとして、著作権法違反の容疑で追送検している。

流れるコメントの特許侵害でも提訴

 それでもFC2における違法な状況は続いた。ホームページシステムは国内における営業組織と見られ、FC2の運営会社やサーバーは米ロサンゼルスにあるからだ。逮捕されたホームページシステムの元社長は、FC2創業者の弟。兄の創業者は米国に住んでいるとされる。

FC2動画にはアニメ映画などがフルで投稿されている
FC2動画にはアニメ映画などがフルで投稿されている

 捜査機関も手を焼くFC2。「国境を超えたネット上では、どんな違法行為でも現状は取り締まれない。本来は国として真剣に考える必要があるテーマだ。単に著作権だけの問題ではない」。川上会長は、そう思い至り、著作権以外でも問題提起ができないか、検討を始めた。

 そこで浮上したのが、「特許権」の侵害だった。

 ニコ動は、動画を視聴するユーザーが投稿したコメントが画面上を流れていくのが特徴。2006年末にニコ動の試験サービスを始めたドワンゴはその仕組みを同年に特許として出願、2011年に登録された。

 ところが2007年末にサービスが開始されたFC2にも、ニコ動と同様、画面上を流れるコメント機能が付いた。外部の動画サイトの動画にコメントだけをつけられる「ひまわり動画」も同様に画面上をコメントが流れる仕組み。ドワンゴはこれを特許侵害と主張。FC2の運営実態が明らかになっていなかったことから静観していたが、前述の川上会長の問題意識から、今年、特許権侵害訴訟の準備に取りかかった。

 FC2から、ブロマガという商標権侵害でドワンゴが提訴されたのは、そんな矢先のことだった。

FC2「ひまわり動画」の画面。外部の動画サイトから動画データだけを引っ張り、画面に流れるコメントを投稿することができる
FC2「ひまわり動画」の画面。外部の動画サイトから動画データだけを引っ張り、画面に流れるコメントを投稿することができる

 「どういう事情なのかはわかりませんが、タイミングとしてはFC2側から先に、言いがかりに近いような訴訟をされることになりました」

 そう話す川上会長は、入念な準備を経て、今回の行動に移した。ドワンゴはブロマガを巡る商標権侵害について反訴すると同時に、特許権侵害でもFC2を提訴している。特許権に関しては、大阪市のホームページシステムも共同被告とした。ドワンゴはその理由を「FC2が提供するサービスの企画から開発、管理までワンストップで提供する会社であり、FC2本体は海外企業に偽装するためのダミー会社であると認識している」とする。

ネットに国境の壁、議論は必要

 特に特許権侵害の訴訟は、川上会長にとって問題提起の色合いが強い。

 「簡単に国境を越えるインターネットサービス。日本人向けサービスでも海外にサーバーをおけば日本の特許が無効になるという判決なら、日本の特許ってなんなんだとなる。逆の判決でも、権利は認められても、止めさせる実効性はない。どういう結果になっても、問題提起になると思うんですね」

 川上会長の読み筋は、後者。「結局、ネットに国境の壁を作るしかない。海外での脱法行為は、最終的にはサイトブロッキングをして、国として遮断しないとどうしようもないんじゃないですか。という議論をやるべきだと思っています」。

 既に中国は、違法かどうかにかかわらず、海外のネットサービスを国家で遮断している。川上会長は、自由であるはずのインターネットに壁を作ることを決して良しとしてはいない。それでも議論は必要なのではないか。ドワンゴによる提訴には、そんな問いかけが込められている。

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