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“3D”の衝撃再び。リマスター「アバター」で新映像を体感せよ
2022年9月30日 10:00
「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の12月16日日米同時公開に先駆け、オリジナルの「アバター」が劇場で再公開されている。一度は、「アベンジャーズ/エンドゲーム」(2019)に歴代興行収入第1位の座を奪われはしたが、2021年に中国で再上映が行なわれ、再び全世界No.1に返り咲いた作品だ。
だが今回は単なる再公開ではなく、本編に新たな改変が加えられている。
まずオリジナルが2K/SDRだったの対し、4K/HDRにアップスケーリングされたことで、細部のディティールが鮮明になった。それは、物語の主要な舞台である衛星パンドラの微細な生態系や、RDA社(資源開発公社)の至る所に置かれたホログラムディスプレイの中身まで、鮮明に奥行きが見られることからも感じられるだろう。
加えて、4K/HDR化だけでなく、音響も9.1chに拡張されたほか、一部シーンには高フレームレート技術(HFR)を導入することで3D映像のクオリティアップも図られている。
なおオリジナル版は162分だったが、2010年に171分の「アバター<特別編>」が劇場公開され、さらに178分間の「エクステンデッド・エディション版」がBlu-rayで発売されている。4本目のバージョンとなる「ジェームズ・キャメロン3Dリマスター」は上映時間166分となっており、特別編にありがちな蛇足感はない。また新規映像も挿し込むなど、次作「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」への繋がりを自然に感じさせている。
9月23日より2週間限定公開中の「アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター」は、「IMAX 3D字幕」、「IMAX 3D吹替」、「ドルビーシネマ 3D字幕」、「ドルビーシネマ 3D吹替」、「4D(3D字幕)」、「4D(3D吹替)」、「通常版(3D字幕)」、「通常版(3D吹替)」と、全8タイプで上映が行なわれている。
おそらくAV Watchの読者であれば、すでに「アバター」は、2009年の公開時やBDなどで鑑賞済みである場合が多いだろう。リマスターとはいえ、再び同じ作品を、しかも3Dで観ることに抵抗を感じる方もいるかもしれない。
しかし結論から言えば、「アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター」を劇場で鑑賞する価値は十分にある。
それは、アバター本編そのものが改変されたことに加え、オリジナルが上映された2009年と現在とでは、劇場の3Dシステムも大きく異なるからだ。最新の3Dシステムとリマスタリングされた「アバター」の組み合わせは、当時3Dで鑑賞したユーザーにも、再び新たな映像体験をもたらすはずだ。
ここでは、オリジナル版公開時の3D劇場環境を振り返りながら、最新のIMAX、そしてドルビーシネマの3Dシステムを解説する。システムの違いが見えれば、最新システムで「アバター」を鑑賞する事の重要性が伝わるのではないだろうか。
オリジナル版公開時の3D劇場環境
そもそもオリジナル版の公開は、13年前の2009年まで遡る。当時はデジタルプロジェクター自体の普及が進んでおらず、全世界でも数えるほどだった。
だが、この「アバター」に合わせてDLP Cinemaプロジェクターを導入した劇場も非常に多く、公開時には世界で約6,000スクリーン(その内、3D上映設備も導入したのは3,671スクリーン)にも達している。つまり「アバター」は、3Dの普及だけでなく、劇場自体のデジタル化も一気に加速させたのだ。
3Dブームの牽引役「RealD」、ホイール使用の「MasterImage」
2009年の公開時、世界で最も普及していた3D上映システムは「RealD」で、そもそも3Dブームに火を付けたのが米RealD社だった。
システムは、1台の劇場用DLPプロジェクターを用い、そのレンズ前に“Zスクリーン”という円偏光モジュレーターを置いて、映像のLR(左右)分離を行なうというもの。
Zスクリーンの構造は、高速スイッチングが可能な液晶板を、直線偏光板と1/4波長板によって挟んだもので、通過した光を右回り円偏光と、左回り円偏光に切り替える。
スイッチング周波数は144Hzとし、24fpsのフレームを3回ずつLR交互に映写するトリプルフラッシュ式にしたことで、フリッカーはほとんど知覚できないレベルとなった。観客は円偏光メガネで鑑賞するため、光効率は15%ほどになる。
RealDと同様に円偏光メガネを採用したのが、韓国のマスターイメージ社とKDC情報通信社が2006年に開発した「MasterImage」だ。基本的なスペックはRealDと同じだが、Zスクリーンの代わりにプロジェクターのレンズ前に、機械的に毎分4,320回転する円偏光フィルター・ホイールを採用した。
そして「アバター」公開に合わせ、2009年から拠点を米国に移し全世界へ売り込んでいく。日本国内でも、スクリーン数では「イオンシネマ」に次いで業界第二位を誇る「TOHOシネマズ」を中心として、一気に普及していった(その後、RealDのZスクリーンと同様の液晶円偏光モジュレーターを用いる商品に主力を移し、頻繁にメンテナンスを必要とする機械系を排除していく)。
液晶シャッター式メガネの「XPAND」、LRの色ズレを使った「Dolby 3D」
円偏光メガネ方式の最大のライバルとなったのが「XPAND」だ。これは、赤外線エミッターから放射する144Hzの同期パルスにシンクロさせた、電子回路と電池内蔵の液晶シャッター式メガネを使用するシステムだった。
偏光フィルター方式に不可欠だった“シルバースクリーン”が不要で、通常のホワイトスクリーンがそのまま利用できるのが長所だった。一方で、メガネ自体が重いという欠点も抱えていた(メガネの重量に関しては、早い頻度でバージョンアップが繰り返され、偏光メガネとさほど変わらないまで軽量化が進められている)。
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ここまで紹介した、偏光メガネも液晶シャッター式メガネも、基本的な技術はかなり以前から存在していた。
だが、まったく新しく登場したのが、“LRで光の波長に違いを与える”という波長多重型というアイデアだった。もちろん、赤青メガネに代表されるアナグリフ方式は古くからあったが、独ダイムラーの研究所で自動車のVR設計用に開発された新技術は、20nmというわずかな色ズレを利用するものだった。この程度の色の違いは、脳が修正してしまうためほとんど認識されないが、電子的にカラーコレクションも施し、LRの色がズレる分だけ予め映像に補正を加えている。
ドルビーラボラトリーズはこのアイデアを採用して、プロジェクターのランプハウスと光学エンジンの間にフィルター・ホイールを設置し、機械的に回転させて144Hzのトリプルフラッシュで映写する「Dolby 3D」方式を開発した。
メガネには50層を超える干渉膜がコーティングしてあり、光源をRの高/低、Gの高/低、Bの高/低の6波長域に分割し、交互にLRに振り分けることで立体視を実現させる。国内では「T・ジョイ」が導入した他、ホワイトスクリーンが使用できることから、映画配給会社の試写室に広く用いられた。
画面の明るさを改善させた「IMAX 3D」
だがこういったシステムで鑑賞した観客の多くが、画面の暗さを指摘していた。DCI(Digital Cinema Initiatives)が推奨するスクリーン輝度は14フートランバートだが、実際の3Dスクリーンの多くは3~4フートランバートしかなかったのだ。
そこでIMAX社は、2008年にIMAXデジタルシアター・システムと、これを用いる「IMAX 3D」を発表。国内でも2009年に導入した。
IMAX 3Dでは、2Kの劇場用DLPプロジェクター2台が、LRの映像をそれぞれ専門に受け持ち、常に同時発光している。そのため、LRを切り替えて発光するシングル・プロジェクター式3Dシステムと比較して倍以上画面が明るくなる。
さらに、常時スクリーンをカメラでモニターし、それをサーバーにフィードバックして、画質、左右のプロジェクターの明るさの違いや同期ズレ、位置ズレなどをリアルタイムで補正する「イメージ・エンハンサー」というシステムも導入。メガネのフィルターは、円偏光よりもクロストークが少ないという理由で、直線偏光が採用された。
一方、観客が常に頭の角度を固定させ続けないと、LRの融像が生じないという欠点もあった。そこでIMAX社は、座席のヘッドレストを工夫することで、この問題に対処した。
「IMAXレーザー」と「ドルビーシネマ」
ただ、このIMAXデジタルシアター・システムに、不満を訴える観客は少なくなかった。70mm・15パーフォレーションフィルムをジャイアントスクリーンに投影する、かつてのIMAXとは比較にならなかったためで、アメリカでは“Liemax”(偽IMAXの意味)と揶揄する声もあったほどだ。
こうしたことを受けIMAX社は、バルコ社と共に2015年に「IMAXレーザー」を完成させる。これは、4K解像度の劇場用DLPプロジェクター1台を用いるもので、HFRにも対応しており、3DメガネはRealDと同様に円偏光メガネを採用している。さらにサウンドも、IMAXイマーシブ・サウンドシステムへと改良。以前の6chから、独立した12のチャンネルにサブ・バスを加えた12.1chへと拡張することで、フィルム時代よりもサウンド面で迫力を増すことに成功した。
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さらに、4Kの劇場用DLPプロジェクターを2台で同時発光させる「IMAXレーザー/GTテクノロジー」も開発。これによって70mmフィルム時代に匹敵する、ジャイアントスクリーンでの上映も可能にした。
3Dメガネは「Dolby 3D」と同様の波長多重型が採用され、頭の角度やクロストークの問題もない。現在、国内に導入されているのは、「109シネマズ大阪エキスポシティ」と「グランドシネマサンシャイン池袋」の2館のみである。
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このIMAXレーザー/GTテクノロジーのライバルとなるのが、ドルビーラボラトリーズが2015年に発表した「ドルビーシネマ(Dolby Cinema)」だ。映像のDolby Visionに音響のDolby Atmosを組み合わせた劇場向けシステムで、壁や座席の色や材質まで同社が設計している。
3Dメガネは「Dolby 3D」と同様の波長多重型だが、プロジェクター側からはホイール型フィルターを排除。代わりにRGBと、最初から20nmずつずれたR'G'B'という6原色のレーザーを光源とすることで、立体視を実現させている。スクリーン輝度は、観客が3Dメガネをかけた状態で、14フートランバート以上を達成している。なお、同システムは最大120HzのHFRにも対応している。
最新3Dは明るい&疲れない。「アバター」はデカいスクリーンで
IMAXレーザー/GTテクノロジーとドルビーシネマの3Dに共通するのが、画面の暗さが苦にならなくなったことで、長時間の鑑賞でも目が疲れないことだ。
何よりも、オリジナル版の初見と圧倒的に印象が異なるのが、“巨大感の描写”だ。
20世紀スタジオの宣伝文には「『浮き出る』よりも『奥行き』のある3Dで“そこにいるかのような”を究極の映像世界へと誘う」と書かれているが、これは3D専門家にとっては当然のこと。
立体映像が画面から飛び出してこられるのは、スクリーンの4つの角と両眼を結んだ、2つのピラミッドが交わっている空間部分に限られる。被写体の距離を観客に近く設定すれば、そのサイズは小さく感じられてしまう。従って矢の先端や、銃弾、火花、爆発の破片など、小さいものしか間近まで飛んでこられない。つまり3D映像というのは、単に“奥行き”だけではなく、“被写体の大きさ”がリアルサイズとして感じられてしまうのだ。
逆に被写体をスクリーンの奥に設定すれば、空間は広く、物体は大きく感じられる。キャメロン監督は、RDA社の巨大重機や傭兵部隊の圧倒的な威圧感、衛星パンドラの雄大な風景に、この効果をうまく活用している。
巨大感は、スクリーンのサイズが大きくなるほど顕著になるため、前述したIMAXレーザー/GTテクノロジーやドルビーシネマでは、より効果的になるわけだ。
「アバター」をDVDやBlu-rayでしか鑑賞していない若い人たちはもちろん、既にオリジナルを鑑賞済みの本誌読者のような方も、ぜひこの機会に、巨大スクリーンでしか味わえない体験をしてもらいたい。
なお、「アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター」の本編終了後には、「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の特報を観ることができる。
とりわけドルビーシネマでは、HDR+HFRの効果を実感できるだろう。特にHFRによる水の描写のリアリティは、本物にしか見えない衝撃的な体験をもたらす。キャメロン監督がこの上映システムの普及まで、続編制作の開始を待ち続けた理由が理解できるはずだ。