『レキシントンの幽霊』
『レキシントンの幽霊』は、村上春樹氏の短編小説集です。
そういえば彼の短編を読むのは久しぶり(糸井重里氏との共著『夢で会いましょう』くらい)だな、と思って調べると、なんと、長編より短編の方が多いくらいでビックリ。──ああ、よかった。これからも村上作品がこんなにも読めるのか!
不思議な話が 8 作品収録されています。短編というと、オチに向かって一直線に進んでいく作品が多いですが、本作品集では、はっきりとした終わり方をしていない作品が多いです。
それに、小説向きではないというか、なんでもない話があったりします。
しかし、なんでもない話のはずなのに読ませる、読み終わった後になかなか気持ちの切り替えができない、そんな魔力を持った作品集でした。
オチのない話
短編で、しかもオチのない話を作るのは本当に大変だろうな、と想像します。
森博嗣さんが「小説家というのは話の最後に『完』と書ける人のこと」という発言をよくされています。話を書き始めるのは誰でもできるけど、終わらせることができるのは小説家だけだ、と。
そうならば、オチさえ思いつけば、ひとまず終わらせることができる。しかし、「オチのない話」に「完」を書くのは、かなり難しそう。
『レキシントンの幽霊』に収録されている 8 作品は、どれも「あと一章は続けられる」話ばかりです。かといって未完の作品には見えない。そのさじ加減が絶妙ですね。
オチを書かない、読者に想像させるところに凄みを感じさせる。失敗すると中途半端になるのですが、さすがに村上作品だけあって、どの作品も深い余韻を味わえます。
トニー滝谷
「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった。」(p.113)
──という、「吾輩は猫である」のような書き出しで始まる、『トニー滝谷』が凄い。
30 ページくらいの作品ですが、トニー滝谷という人物の半生が語られている──だけではなく、彼の父親の半生まで振り返っています。
二人とも孤独を愛し、結婚し、そして悲しい別れを体験する。彼らを外から見ると華々しい生活をしているのに、彼らの内面から見ると決して幸せそうには見えない。
「幸せってなんだろう──?」とお決まりのセリフをつぶやきたくなる作品です。「真の孤独とは?」とか。
市川準監督、イッセー尾形・宮沢りえ主演で映画になったそうです。これは見てみたいです。
tony takitani official web site
- トニー滝谷 プレミアム・エディション
- 坂本龍一 イッセー尾形 宮沢りえ
- ジェネオン エンタテインメント 2005-09-22
- 楽天ブックス: トニー滝谷 プレミアム・エディション
- Yahoo! ショッピング: トニー滝谷 プレミアム・エディション
by G-Tools , 2007/08/01