『レキシントンの幽霊』 強く余韻を残す 8 つの不思議な話

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『レキシントンの幽霊』

『レキシントンの幽霊』は、村上春樹氏の短編小説集です。

そういえば彼の短編を読むのは久しぶり(糸井重里氏との共著『夢で会いましょう』くらい)だな、と思って調べると、なんと、長編より短編の方が多いくらいでビックリ。──ああ、よかった。これからも村上作品がこんなにも読めるのか!

村上春樹 – Wikipedia

不思議な話が 8 作品収録されています。短編というと、オチに向かって一直線に進んでいく作品が多いですが、本作品集では、はっきりとした終わり方をしていない作品が多いです。

それに、小説向きではないというか、なんでもない話があったりします。

しかし、なんでもない話のはずなのに読ませる、読み終わった後になかなか気持ちの切り替えができない、そんな魔力を持った作品集でした。

オチのない話

短編で、しかもオチのない話を作るのは本当に大変だろうな、と想像します。

森博嗣さんが「小説家というのは話の最後に『完』と書ける人のこと」という発言をよくされています。話を書き始めるのは誰でもできるけど、終わらせることができるのは小説家だけだ、と。

そうならば、オチさえ思いつけば、ひとまず終わらせることができる。しかし、「オチのない話」に「完」を書くのは、かなり難しそう。

『レキシントンの幽霊』に収録されている 8 作品は、どれも「あと一章は続けられる」話ばかりです。かといって未完の作品には見えない。そのさじ加減が絶妙ですね。

オチを書かない、読者に想像させるところに凄みを感じさせる。失敗すると中途半端になるのですが、さすがに村上作品だけあって、どの作品も深い余韻を味わえます。

トニー滝谷

「トニー滝谷の本当の名前は、本当にトニー滝谷だった。」(p.113)

──という、「吾輩は猫である」のような書き出しで始まる、『トニー滝谷』が凄い。

30 ページくらいの作品ですが、トニー滝谷という人物の半生が語られている──だけではなく、彼の父親の半生まで振り返っています。

二人とも孤独を愛し、結婚し、そして悲しい別れを体験する。彼らを外から見ると華々しい生活をしているのに、彼らの内面から見ると決して幸せそうには見えない。

「幸せってなんだろう──?」とお決まりのセリフをつぶやきたくなる作品です。「真の孤独とは?」とか。

市川準監督、イッセー尾形・宮沢りえ主演で映画になったそうです。これは見てみたいです。

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