パナソニックの強みはどこか。
技術担当役員の代表取締役副社長の古池進氏は、「総合力」という言葉で表現する。
「松下電器産業の時代から、パナソニックは、川上から川下までの垂直統合の仕組みをうまく生かしてきた伝統がある。優れたデバイス、特色のあるデバイス、キラッと光るデバイスを使ったセット(=商品)が勝ち残り、それがまた、デバイスを強く育てる。一方で、パナソニックは、コモディティ化したときに強いとか、モジュラー化された技術について強いと言われるが、これが成功しているかというと、案外成功していない。優れた技術と優れたセットが組み合わさっていないような、総合力を発揮していない商品は失敗することが多い」
技術の観点から、パナソニックが、総合力を発揮した最たる例が、UniPhierである。
従来は商品ごとの個別最適で展開していたプラットフォームを、商品共通プラットフォームとして再構築し、個別の強みを生かしながら、全体最適へと進化させた。
UniPhierの実用化には、約10年の歳月がかかっている。そのコンセプトは、従来の延長線上の技術ではなく、将来を考え、逆算された形で設定されたものであった。
従来の技術進化にとらわれず、デジタル家電の共通プラットフォームという高い目標を掲げ、その一里塚に向かって、一気に突き進む。これも、全体最適に衆知を集めた事例だ。
「パナソニックの技術者は、個々の技術に対するこだわりがある。だが、大儀をはっきりと理解した時点で、一致団結するという伝統的な力がある。社名がひとつになったことで、パナソニックの名のもとに、それが促進される環境ができあがる」
UniPhierは、大坪文雄社長が掲げる「衆知を集めた全員経営」が、実践させた例ともいえる。
「衆知(多くの人たちの知恵)を集めた全員経営という言葉は、一歩間違えば、リアリティがなく、号令だけで終わってしまう危険性をはらんだ言葉ともいえる。だが、これは、パナソニックにはピッタリくる言葉。大坪社長に衆知を集められる確信がなければ、掲げられない言葉ともいえる。だからこそ、この言葉を発信できる。その想いは私も同じ。技術者たちの衆知を集められる風土があるからこそ、総合力を発揮した技術を、モノにつなげることができる」
全世界に広がるパナソニックのグループ社員は30万人にのぼる。様々な人種、国籍、職種、考え方を持つ人たちが集まる。それだけの巨艦でありながらも、「衆知を集めることに自信がある」とパナソニックの経営幹部が語る背景には、創業者である松下幸之助氏が掲げた創業理念の存在がある。
古池副社長は、「衆知を集め、全体最適で動けるというのは、もともと価値共有ができる社員が多いこと」と前置きし、次のように語る。
「パナソニックの社員は、パナソニックが好きで入ってきた人が多い。パナソニックがなぜ好きか。それは、創業者の経営理念が好きだということ。技術、営業、工場で働く人も創業者の理念が好きであり、その考え方に違和感を持たずに入社している。なかには、親の代から、創業者の理念が好きだという社員もいる。この価値共有があるからこそ、パソナニックは、衆知を集めることができる。パナソニックの総合力の源泉、モノづくりの源泉はそこにある」
裏を返せば、経営理念を中心とした価値共有が維持できるのであれば、パナソニックの経営体質は健全な状態を維持できるともいえる。
大坪社長が社名を変更しても経営理念を変えないこと、衆知を集めた全員経営を打ち出す意味はここにある。
「むしろ、パナソニックへの社名変更は、価値を共有している意義を全社員が再認識する、時を得たメッセージといえる」――。古池副社長はそう語る。
次ページ「アプリケーションを強く意識した技術開発」に続く
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