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COLUMNART

art NIKKEI おしゃべり美術展 スペシャル編
歌舞伎俳優 中村隼人さんとTRIO展を話そう!

美術展の作品をワイワイ、楽しくおしゃべりする「おしゃべり美術展」。今回は歌舞伎俳優の中村隼人さんを「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(【東京】2024年5月21日(火)~8月25日(日)東京国立近代美術、【大阪】2024年9月14日(土)〜12月8日(日)大阪中之島美術館)にお招きしたスペシャル編です。東京国立近代美術館の横山由季子研究員に加わっていただきおしゃべりしていきます。ファシリテーターはアートライターの菊池麻衣子さんです。

「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」展示風景(東京国立近代美術館、2024年5月21日~8月25日) ※本ページの展示風景はすべて同会場にて撮影

TRIO パリ・東京・大阪 モダンアートコレクション

【東京】2024年5月21日(火)~8月25日(日) 東京国立近代美術館

【大阪】2024年9月14日(土)~12月8日(日) 大阪中之島美術館 4階展示室

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菊池麻衣子
中村隼人さんは、山種美術館や根津美術館などを訪れ、日本美術を鑑賞することが多いそうですね。

中村隼人
はい。仕事柄、日本美術はしっくりくる感じがあってよく見に行きます。こちら東京国立近代美術館は久しぶりかもしれないですね。今日は新鮮です!

順番に見ながら歩いていくと…

中村隼人
二代目中村錦之助の長男。2002 年初舞台。スーパー歌舞伎をはじめ、古典の名作にも数々挑戦し、近年目覚ましい成長を感じさせる立役の一人。映像ではNHK時代劇では主演を務め、2025年NHK大河ドラマにも出演予定

トリオ<都市の遊歩者>展示風景

横山由季子
このトリオ<都市の遊歩者>は、都市の路地裏のような場所にポツンといる人を描いたところが共通しています。特に左側の2点は、サイズや構図、人物のシルエットがそっくりなんですよ。パリのモーリス・ユトリロが描いた《モンマルトルの通り》と東京の松本竣介が描いた《並木道》です。竣介の絵の中に見える道は東京のお茶の水の本郷通りで、この通りの左側にはニコライ堂があります。雰囲気はすっかり変わってしまいましたが、地形は変わらないので、場所を特定することができます。

菊池
竣介の絵は、全体的にグリーンな色合いですね。

横山由季子
東京国立近代美術館 研究員。大学ではフランス近代美術を研究。専門は近現代美術

トリオ<都市の遊歩者>展示風景

横山
そうですね。彼の絵の多くはグリーンがかっていて寂寥感が漂っています。この絵は制作年が1943年なので戦争の真只中ですね。

隼人
それで心の暗さが出ているのかもしれないですね。
一番右のカフェの絵を見ても、賑(にぎ)わっているだろう場所に人がポツンとしかいないと何か寂しげな感じがします。

横山
佐伯祐三が《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》で描いたのは、お客さんのほとんどいないカフェのテラスです。よく見ると、手前のテーブルの上に赤ワインのグラスが置いてあるので、本当はもう1人いるのだけど、今はいないのだなと分かります。

佐伯祐三《レストラン(オテル・デュ・マルシェ)》1927年、大阪中之島美術館(トリオ<都市の遊歩者>より)

隼人
トイレに行っているのかな(笑)。

菊池
続いてのトリオは<都市のグラフィティ>がテーマですね。路上のアートといったところでしょうか。

トリオ<都市のグラフィティ>展示風景

横山
そうですね。真ん中の作品《ガス灯と広告》は、パリの路上に貼られているポスターがグラフィカルに描かれています。作家は、先程のカフェを描いたのと同じ、佐伯祐三です。こちらは1920年代に描かれたのですが、左側の作品《無題》は1980年代にアメリカのジャン=ミシェル・バスキアによって描かれたものです。バスキアはもともとストリートでグラフィティ・アート(注1)を描いていた作家なので時代は全然違うのですが、並べてみたら面白いのではないかと考えました。

(注1)スプレーやフェルトペンなどを用いて壁などに描かれた絵や文字のこと

菊池
アートヒストリーの文脈だけにとらわれると隣り合うことがない作品です。

隼人
確かに、今回のように「似たもの同士」という趣旨がないとなさそうですね。

それにしてもこのバスキアの作品好きだな〜!

(キャプションをよく見ながら)アクリルや油彩などいろいろな素材を使っているのですね。キャンバスに描かれている1つ1つの絵は雰囲気が違って、一見ガチャガチャしているように見えるのに、ものすごく一体感があるところが素晴らしい。今まで何度かバスキアは見たことがあったと思いますが、好きだという感情を抱いたのは今回が初めてです。

菊池
着物姿で一緒に立たれているところも、しっくりしていてステキです。相性が良いのですね。

隼人
なんでも鑑定団みたいかな?(笑)

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横山
こちらは<現実と非現実のあわい>というテーマのトリオです。シュルレアリスムという20世紀前半に起こったすごく大きなムーブメントがありまして、それを代表するルネ・マグリットの作品が真ん中にある《レディ・メイドの花束》です。

トリオ<現実と非現実のあわい>展示風景

隼人
どういうムーブメントだったのですか?

横山
夢とか無意識とか人間の理性ではとらえ切れない部分を追求した、芸術家や文学者たちによる運動です。
マグリットの絵も、男性の背面に、イタリア・ルネサンスの画家ボッティチェリが描いた花の女神フローラが浮いているという現実にはありえない状況を描いています。

向かって左側の作品を描いたのは、ルーマニア出身でパリで活躍していたヴィクトル・ブローネルですが、腕が6本あって体が2つくっついている白い怪物のような生き物をいろいろな作品に登場させています。作家自身の分身とも言われています。

左:ヴィクトル・ブローネル《ペレル通り2番地2の出会い》1946年、パリ市立近代美術館(トリオ<現実と非現実のあわい>より)

隼人
(同じ絵の中の)あの黒い女性は?

横山
実はこの作品は、アンリ・ルソーというフランスの画家による作品《蛇使いの女》へのオマージュとして描かれたものです。黒い女性と蛇とピンクの鳥、そして周りの風景も、もともとルソーが描いたモティーフで、その中にブローネルが白い怪物を入れ込んだという構図です。

ルソーの絵は現在、フランスのオルセー美術館が所蔵しています。
https://www.musee-orsay.fr/fr/oeuvres/la-charmeuse-de-serpents-9090

隼人
(ルソーの作品をスマホで見て)すごい!ブローネルは女性の目も(目立つように)つけちゃったのですね。画面右下に書いてある文字も何が書いてあるのか気になります。

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横山
続いてのトリオのテーマは<人物とコンポジション>です。こちらは小倉遊亀(おぐらゆき)という女性の日本画家による作品です。《浴女 その一》と《浴女 その二》があって、これは、その二の方です。

右:小倉遊亀《浴女 その二》1939年、東京国立近代美術館(トリオ<人物とコンポジション>より)

隼人
すごく雰囲気が伝わってきますね。僕らの楽屋もこんな感じですよ。

横山&菊池
そうなんですね!

隼人
こんなに広くないですけど、みんな着物を着ています。
(着物がかけられた衣桁=いこう=を指差しながら)こういうのもあります。

菊池
えーっ、よく「誰が袖図屏風」(注2)に出てくる着物掛け!まだ普通に使われているのですね。

(注2)衣桁や屏風に掛けられた衣装を描いた絵図で江戸初期に数多く描かれた。

隼人
今でも置いてあるところはありますよ。
とにかく、女形さんの大部屋がこんな感じですね。鏡がばーっと並んでいて。役者さん同士で賑やかにやっていますよ(笑)。

菊池
役者さん達は全員男性でも、女形の方はお部屋が分かれているのですね。

隼人
分かれていますよ。
女形さんはみなさん本当に女性になり切って、この絵の中の女性のような座り方をしていらっしゃいます。昔はこの絵のように、キセルを吸っていたのかもしれませんね。
涼しげで良い絵ですね。

横山&菊池
そんな風に見ていただけると、絵の臨場感が伝わりますね。

おしゃべりを終えて
短い時間でしたが、たくさんの作品を1点ずつ丁寧に見ながら、中村さんならではの感性で気になる作品にさっと着目してコメントする瞬発力が印象的でした。特に、小倉遊亀《浴女 その二》の前では、中村さんのお話を聞いているうちに、本当に目の前で女性たちが身づくろいをしているような臨場感がわいてきました。着物姿の隼人さんは、そのまますーっと絵の中に入っていっても違和感のない風情のあるたたずまいで微笑んでいました。

菊池麻衣子
アートライター/展覧会キュレーター。著書に『アート×ビジネスの交差点』。美術評論家連盟(AICA)会員。東京大学文学部卒。英国ウォーリック大学にてアートマネジメントの修士号を取得。アーティストと鑑賞者が交流するクリエイティブな場としての「パトロンプロジェクト」主宰

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