ドコモ、イー・モバイルに続いて、auやSoftBankも今秋より高速通信LTEのサービス提供を開始すると発表した。iPhone5がLTEに対応するほか、auは冬モデルとしてLTE対応Androidスマートフォンも大量投入する構えだ。そこで気になるのが、繋がりやすさや速度。まだサービス開始前なので想定になるが、キャリアによってどのように違うかを簡単にまとめた。
電波の繋がりやすさは何で決まるか
各キャリアの状況説明や比較の前に、電波の繋がりやすさや速さは何で決まるのかを少しだけ解説する。
繋がりやすさを決める2つの要素
電波の繋がりやすさは、大きく2つの要素で決まる。ひとつは電波の周波数、もうひとつはキャリアの通信基地局の整備状況だ。
※実際には、端末側の感度や回線の混雑具合なども影響するが、要点を簡単に説明するため、ここでは割愛する。
プラチナバンドは繋がりやすい
まず電波の周波数について。一般的に、周波数が低い電波ほど繋がりやすい。これは建物などの障害物を迂回しやすい性質があるためだ。
携帯電話で使われる周波数の低い帯域(700-900MHz)は、その繋がりやすさから「プラチナバンド」と言われている。3月にキャリア4社間で争奪戦が行われた際は大きなニュースになった(ソフトバンクが獲得)ため、記憶している方も多いだろう。
一方で、高い周波数は障害物を迂回しにくいので、建物の中や影になる部分では繋がりにくい性質がある。
基地局の整備も重要な要素
キャリアが全国各地で整備している通信基地局も繋がりやすさには重要な要素だ。基地局が発する電波が届いてはじめて携帯電話は「繋がる」ので、しっかりと基地局が配置されていることが必要になる。
通信速度は何で決まるか
通信速度を決める2つの要素
通信速度は、大きく2つの要素で決まる。ひとつはLTEや3G通信などの通信規格、もうひとつは回線の混雑具合だ。
LTEは電波の帯域幅で通信速度が異なる
現在日本で使われている通信規格は、キャリアによっていくつかあるが、ここでは大きく分けて「3G」と「LTE」で話を進めていく。
3Gは現在で主流の通信規格。これに対して、キャリアが続々とサービスを開始するLTEは次世代の通信規格で、3Gと比較すると通信速度が大幅に速くなる。
参考:LTEとは
現状、LTEでは使う電波周波数の帯域(バンド)幅によって速度が異なる。
これは例えるなら、道路の幅が広いほうが速度を出せるのと同じようなもので、電波では使える帯域幅が広いほど速度が速くなる。
回線が混むと遅くなる
回線が混雑すると、通信速度は遅くなる。
これは、先の道路の例で言うと、走っている車が多くなると渋滞が発生し、走行速度が遅くなるのと同じだ。
駅やイベント会場など、人の多いところで通信速度が遅くなるという経験がある人も多いだろう。
限られた通信回線を多くの人が利用することで通信速度が遅くなってしまう。
このため、同じ基地局を利用するユーザーが少なければ、通信速度が速くなると言っていいだろう。
以上の前提を踏まえ、各キャリアの状況を見ていこう。
各キャリアの状況
NTTドコモ
ドコモは、他のキャリアに先駆け、2010年末よりLTEサービス(Xi)を始めている。
速度は一部エリアを除いて下り最大37.5Mbpsとなっている。
基地局整備
ドコモは、なるべく回線が混雑しないように配慮して基地局を整備しており、混雑したとしても全く繋がらないという状況は避けようとする傾向がある。
しかし、その入念な計画のせいか、これまでの整備スピードは遅々としており、ユーザー拡大についていけずに通信障害が発生するという事態も発生した。
その反省をもとに、整備スピードは改善傾向にあるようだ。
Xiは既に政令指定都市の人口カバー率100%を達成しており、都市部を中心に2012年度末までに全国人口カバー率70%を目標としている。
LTEの周波数
ドコモのLTEが現在利用している周波数は2GHz帯で、障害物にやや弱い。
都市部の屋外では基地局の多さである程度カバーしているものの、屋内などではXiが使えないという思いをしている人もいるだろう。
2012年末からはmovaが終了し空きとなっているプラチナバンド800MHz帯でXiを提供(下り37.5Mbps)することから、屋内での繋がりやすさは今後改善しそうだ。
また、東名阪エリアを除いて1.5GHz帯で広帯域を利用した下り最大112.5Mbpsのサービスも順次開始される。東名阪エリアでも2014年度以降に対応予定だ。
ドコモまとめ
ドコモは大幅に先行してLTEをスタートさせた割にはサービスエリアが狭いと言えるが、エリア内の屋外ならLTEにも比較的繋がりやすい。
屋内でも来年以降は繋がりやすくなる(ただし2012年夏モデルまでの端末はプラチナバンドLTEに対応しない模様)と期待される。
速度は、既にLTEユーザーが多いだけに、そこそこといったところ。しかし、東名阪エリア以外は2013年、東名阪エリアも2014年以降は理論値でさらに3倍速くなるため、将来的にも期待できそうだ。
au(KDDI)
auは、2012年9月21日よりLTEサービスを始める予定だ。速度は下り最大75Mbpsとなっている。
基地局整備
auは主要4キャリアの中でLTEに対する取り組みは最後発だったが、急ピッチで基地局整備を進めており、単純な広さでは早々に先行するドコモを追い抜く見通しとなっている。
LTEの周波数
auのLTEが利用する周波数は幅広く、2GHz帯、1.5GHz帯、800MHzとなっている。
特にプラチナバンドの800MHz帯でのLTE対応はドコモに対して先行しており、1.5GHz帯と合わせて実人口カバー率も2013年3月時点で96%を目指すとしていることから、繋がりやすさという点では大きな強みになりそうだ。
この800MHzと1.5GHz帯は当面Android(と今後出てくるWindowsPhone)端末が利用する。対応端末は2012年冬モデルとして多数の種類が投入される予定だ。
一方、今年の春から急遽対応が決まった2GHz帯はiPhone5専用のLTE帯域として利用される。
auまとめ(iPhoneの場合)
iPhoneが利用する2GHz帯は、周波数的に屋内で繋がりにくいと思われることや、まだ整備が進んでおらず、しばらくは都市部に限られた対応になると思われる点が気になるが、エリアの問題はいずれ解消されるだろう。
iPhone5のLTE専用帯となることから、利用するユーザーがある程度限定されるため混雑が少なく、特にサービス開始初期は速度面で恩恵を得られる可能性もある。
auまとめ(Androidの場合)
auのAndroid(将来的にWindowsPhoneも対応見込み)は、75MbpsのプラチナバンドLTEのおかげで「繋がりやすくて速い」という恩恵を最も受けやすそうだ。
対応エリアも広く、実用性という意味でも期待できる。
ソフトバンク
ソフトバンクは、2012年9月21日よりLTEサービスを始める予定だ。当面、速度は下り最大37.5Mbps。
なお、傘下のWCP(Wireless City Planning)が、TD-LTEと100%互換性のあるサービスを「SoftBank 4G」として開始しているが、今回はiPhoneが対応するFDD(FDD-LTE)を単にLTEと表記・対象にして話を進める。
基地局整備
ソフトバンクは、3月のプラチナバンド獲得の少し前からLTE対応に向けて基地局整備に着手している。当初は他のキャリアに比べて遅れをとっていたが、急ピッチで対応を進めているとのこと。
ソフトバンクはドコモとは基地局整備については逆のアプローチを取っている。まずは通信カバーエリアを拡大し、エリア内の通信品質向上のための整備は順次行っていくというアプローチだ。
このため、非常に速いペースで対応エリアは拡大する見通しだ。
LTEの周波数
ソフトバンクのLTEが利用する周波数は、当面2GHz帯になる。現在のドコモと同様に、障害物に弱い。
また、この2GHz帯はソフトバンクにおける3G通信のかなりの部分を占めているため、既に混んでいるという問題がある。
このため、既に渋滞している道路で工事を行ったら大渋滞になってしまうのと同じような理由で、ユーザーの利便性を損なわないように3G用の帯域をLTE用の帯域に変えていくのは簡単ではない。
現状では、プラチナバンドの整備を進めて3Gの通信をそちらに逃がしつつ、余裕が出てきたところから2GHz帯をLTE化していくことになる。しばらくはLTEの恩恵を得られるのは一部エリアに限られてしまう可能性もある。
ソフトバンクまとめ(iPhone)
iPhoneが利用する2GHz帯のLTEは、周波数的に屋内で繋がりにくく、対応エリアもしばらくは限定的である可能性が高い。同社のiPhoneユーザーは非常に多いため、限られた電波を大人数で共有することになる。
ゆえに、当面は繋がりにくい、速度が出ないといった状況になる可能性がある。
どのキャリアが「速くて繋がる」?
こうして見ると、現時点ではau(KDDI)に軍配が上がりそうだ。
対応機種が出てくれば、プラチナバンドが利用できるauのAndroid端末が最も「繋がりやすく」「通信も速い」LTEサービスを利用できる可能性が高い。
今年の冬モデル以降の機種ではドコモでも同じような恩恵を受けられる。最大通信速度も大幅に向上するので期待したい。
iPhone5でのLTE利用に限ってみても、ここでもauがソフトバンクよりも優位に立ちそうだ。プラチナバンドLTEにiPhoneが対応しないのは残念だが、都市部の屋外などでは利用できるシーンが多いだろう。
ただ、実際に2GHz帯LTEを利用してみた感想では、都市域で生活していても思ったほどLTEを使える機会は多くない。したがって、現在のところはiPhone5におけるLTEの繋がりやすさを必要以上に重視しなくてもよいのかもしれない。