最近、巷でLTEという単語を聞くことはないだろうか? スマホとセットで聞くことが多いが、そもそもLTEとは何だろうか。LTEとは要するに「とても速い通信回線」のことなのだが、一体どのようなものなのかを、キャリア各社の計画や同じく高速通信が可能なWiMAXとの比較を交えて、ユーザ目線でなるべく簡単にまとめてみた。
LTEとは
LTEって何?
LTEとは新しい携帯電話の通信規格のことである。現在、日本では主に第3世代(3G)の通信システムが使われているが、LTEはその次の世代の新しい通信方式だ。世界的には第4世代(4G)通信として扱われることが多い。
余談だが、厳密にはLTEは3Gと4Gの中間技術であり、3.9Gとも呼ばれている。しかし、国際電気通信連合(ITU)がLTEとWiMAXについて「4G」という名称を使うことを認めており、米国の大手キャリアや端末メーカーはLTEを「4G」としている。日本のキャリアでは、ソフトバンクが実質LTEと同じサービスを「4G」と呼んでいる。
LTEで何が変わる?
LTEになると何が変わるかというと、ユーザー側からすれば、通信速度が速くなるというのが一番変わるところだ。
速度はキャリアや場所などによって多少異なるが、概ね、2007年以降主流となっている端末の3倍近い速さで通信ができるようだ。
これにより、アプリや音楽、動画などをスムーズにダウンロードしたり、画像の多いサイトを素早く閲覧することができるようになる。
また、既にLTEのサービスを「Xi(クロッシィ)」という名称で開始しているNTTドコモは、契約プランも異なるものを準備している。今のところ期間限定ではあるが、パケット定額のプランがXiは月額4410円となっており、FOMA向けの5460円より1050円安くなるというメリットもある。
さらに、「Xiカケ・ホーダイ」というサービスも展開しており、月額700円で国内のドコモ回線への通話料が24時間無料になるオプションもある。
ドコモ以外のキャリアがどのようなサービスを展開するか現時点では分からないが、スマホを使うという前提で考えるなら、現時点ではLTEになると「速くて安くなる」と思っていいだろう。
なお、現時点ではLTEに対応しているエリアは非常に狭い(大規模都市などに限られている)が、エリア外では自動的に3G通信に切り替わるので、3G移行当初の頃のように、「圏外になって使えなくなる」といったことはなく、追加料金も発生しないので安心してもらいたい。
追記:5月1日
ドコモは2012年5月1日より、「Xiスタートキャンペーン2」を開始し、9月30日までパケット定額月額4935円で利用可能となった。従来よりやや割高となっているので注意。
異なる2つの方式
ちょっとだけ込み入った話なので、興味が無ければ読み飛ばしてほしい。
実はLTEには2つの方式がある。ひとつはFDDと言われるもので、現在主流となっている方式だ。もうひとつはTDDと言われるもので、一般的にTD-LTEと呼ばれることが多い。
日本でもFDDが主流で、キャリア各社はこの方式を採用している。一方、TD-LTEもソフトバンク傘下のWCP(旧ウィルコム)がこの方式と完全互換性のある通信方式を採用しており、「SoftBank 4G」としてサービスを開始している。
この2つの方式は、近いようでまったく別物だ。大きな違いは、FDDは音声通信(要するに電話)の利用を前提にしているのに対し、TD-LTEはデータ通信での利用が前提になっている点だ。
このため、FDDは(電話はお互いの声をやり取りするため)発信(上り)も受信(下り)も同じだけの帯域を必要とする。道路に例えると、上りも下りも2車線ずつ用意しなければならない。
しかし、TD-LTEは上りと下りで同じ車線数を用意しなくてもよい。一般的に、ユーザーは受信量のほうがはるかに大きい(例えばあなたがTwitterに1回書き込む(送信する)間に、何人分もの書き込みを受信して読んでいるだろう)。車に例えれば、上りを走る車が10台しかいないのに、下りは100台いるようなものだ。上りと下りで同じ車線数にしてしまうと、上りはスカスカなのに、下りは大渋滞で速度が出せなくなってしまう。このため、上りを1車線、下りを3車線といったようにすることで、(道が広ければ速度を出せるので)下りの速度を早くすることができる。
こうしてTD-LTEは、FDDと比べてより速い受信速度を実現している。
WiMAXと何が違うの?
LTEと同じように高速通信が可能になるモバイルWiMAX(ワイマックス)という通信規格がある。主にモバイルノートPCなどに先行して採用されており「いつでもどこでも無線で高速通信」が可能というのが売りとなっている。
LTEとは技術的に異なる通信規格ではあるのだが、実際の速度ではほぼ遜色なく、3G通信の数倍の速度で通信が可能だ。
日本ではKDDI傘下のUQコミュニケーションズという会社が「UQWiMAX」というサービスを提供しており、ガチャピンとムックを広告キャラクターに採用しているので、どこかで見たような気がするという方も多いだろう。
このWiMAXだが、スマホやタブレットにも対応製品が出始めており、auからWiMAX通信に対応しているスマホが発売されている。
LTEとの違いだが、現時点でユーザーにとって違いを感じるのは以下の4点だろう。
第一に、料金プラン。
LTEはそれがメインの通信方式であるため、基本契約として3G通信契約の替わりにLTE用のプランを契約することが必須となっているが、WiMAXは基本的に3G通信の契約があり、その上でWiMAXをオプションで使える、という形になる。このため、基本料金にプラスしてWiMAXの利用料を支払う必要がある。現時点では、月額525円となっている。
第二に、通信量制限の有無。
ドコモはLTEの利用について、2012年10月以降は月間のデータ通信量が7GBを超えた場合、通信速度を大幅に制限(128kbps)するとしている。制限を解除するには追加料金が必要となる。しかし、現時点においてWiMAXについてはそのような制限はなく、使い放題となっている。
第三に、対応エリア。
2009年2月からサービスが開始されており、ドコモのXiと比較しても2年弱先行しているだけに、対応エリアがかなり広い。UQコミュニケーションズの発表では、2012年1月24日に全国実人口カバー1億人を達成したとのことだ。
最後に、屋内での通信環境。
これは、UQコミュニケーションズのWiMAXが利用している周波数の関係で、屋内での電波受信に難があるという点。ドコモやKDDIが提供するLTEと比較すると、屋内での通信が弱点となっている。3G回線があるので、まったく通信ができなくなるということはほぼないだろうが、どんなときでもWiMAXの高速通信を使えるわけではないという点は考慮するべきだろう。
と、ここまでLTEとWiMAXを比較してみた。ただ、WiMAX対応端末はauからのみの提供(おそらく今後も)で、そのauがLTE対応するのは早くても年末なので、現時点ではどちらを選択しようか悩む余地はあまりないとも言える。
キャリア各社の取り組み
NTTドコモ
前述の通り、NTTドコモは、他のキャリアに先駆けて2010年よりLTEのサービスを「Xi」という名称で開始している。この秋冬モデルから、「GALAXY S II LTE SC-03D」「ARROWS X LTE F-05D」などのLTE対応スマホを発売しており、利用者も徐々に増えてきている。
2012年3月末時点では、人口カバー率25%と、県庁所在地級の都市をカバーする程度に止まるが、累計8800億円を投資し、2013年3月に主要都市がカバーされる60%、2014年3月に地方都市まで含む同80%、2015年3月末時点で同98%をカバーする予定としている。
また、現在は受信時の最大通信速度が37.5Mbps(羽田空港など一部屋内施設では75Mbps)となっているが、2012年度中にこれを100Mbpsまで引き上げる計画を持っている。まずは東名阪以外のエリアから速度が引き上げられ、2014年度から東名阪エリアでも対応する予定だ。
追記:5月1日
ドコモは4月27日の決算会見にて、2012年第3四半期より周波数の利用帯域を増やし、一部地域で下り最大112.5Mbpsのサービスを提供、冬モデルより対応機種を投入する新たな計画を発表した。
前述の「100Mbpsまで引き上げる計画」からより高速化した計画へとバージョンアップしたようだ。東名阪エリアでは2014年度からの対応になる。
また、サービスエリアの拡大についても当初計画を前倒しにしており、今年3月末時点で全国政令指定都市100%カバーとなる人口カバー率30%を達成。
計画についても2013年3月に人口カバー率70%にするなど、上方修正している。
KDDI(au)
KDDIは2012年12月よりLTEのサービス提供開始を予定している。サービス開始時点で、人口カバー率60%を目指して準備を進めており、予定通りになれば、先行するNTTドコモよりカバー率で上回ることになる。2015年3月末時点では同96.5%をカバーすることを目標としている。
また、サービス開始時より受信時の最大通信速度を75Mbpsにする予定だ。
KDDIは他社と比較すると、(周波数再編の関係で)LTEのサービス提供開始時期が遅くなっている。このこともあって、現時点では、WiMAXやWi-Fiスポットの充実に力を入れている格好で、LTEの展開に対する具体的な計画はそれほど出てきていないといったところだ。
追記:5月1日
KDDIは4月25日の決算会見において、時期は未定としながらもLTEサービス提供開始時期を2012年12月より前倒しにすると発表した。
さらに、当初計画よりも周波数の利用帯域を増やし、2013年3月時点で実人口カバー率96%を目指すとし、エリアカバーについては大幅に計画を前倒しにするとしている。
ソフトバンク
ソフトバンクはFDDのLTEサービスを2012年度中に開始したいという方針を発表している。しかし、これはまだどうなるのか分からないというのが現状のようだ。
その理由は、同社が通信キャリアとしては後発であることの影響もあり、利用できる電波の帯域が少ないためだ。つまり、前述の道路の例に例えると、ドコモやKDDIは2車線分の道路(帯域)があるので、1車線を工事していても残り1車線を使えるため、LTE導入という「工事」を行えるが、ソフトバンクは元々1車線分しかないので、工事してしまうと通行止めになってしまうのだ。
このため、総務省が新たに1キャリアに割り当てる予定の900MHz帯の電波をソフトバンクが獲得できるかどうかが最大の焦点だ。もしこれが獲得できれば、車線が増えることになるので、晴れてソフトバンクもLTEを導入することができるようになる。
どのキャリアに割り当てられるかはまだ分からないが、ソフトバンクは、既にこの帯域獲得を見越して大規模な設備投資を始めているなど、積極的な姿勢を見せている。
また、こちらも前述しているが、ソフトバンクは傘下のWCPがTD-LTEと100%互換性のあるサービスを「SoftBank 4G」として開始している。
SoftBank 4Gは受信時の最大通信速度が110Mbpsと、他社のLTEよりも高速となっている。2013年3月までに政令指定都市の人口カバー率99%を目指すとしており、全国をくまなくカバーするまでにはやや時間を要しそうだ。
既にサービス自体は開始されているが、現時点で発表されている対応端末はモバイルルーターだけで、スマートフォンやタブレットの対応機種が出てくるまでにも時間を要しそうだ。
追記:5月1日
ソフトバンクは、「プラチナバンド」と言われる900MHz帯電波の利用権獲得に成功したことにより、LTE戦略を進める上での最重要課題をクリア。
これを受け、2012年秋にもFDD方式のLTEサービスを開始し、当初はパケット定額月額5985円に設定するとしている。
イー・アクセス
イー・アクセスは2012年3月よりLTEサービスを開始するとしており、ドコモ、WCPに次ぐ3社目のLTEサービス提供事業者になる予定だ。2013年3月までに人口カバー率70%を目指す。
受信時の最大通信速度は37.5Mbpsを予定しているが、都心部以外では帯域に空きがあるため、より高速な75Mbpsとする計画となっている。
イー・アクセスもソフトバンクと同様に、後発であるがために利用できる帯域が制限されているため、900MHz帯の割り当てを狙っており、この結果次第でLTEの計画にも影響がありそうだ。
追記:5月1日
イー・アクセスは、当初の予定通り「EMOBILE LTE」という名称で、LTEサービスを3月15日より開始している。実質のパケット定額料金は月額3880円と、LTEの利用料金では現時点で最安値となっている。
対応エリアは、2012年6月末時点で東名阪主要都市(東京23区、千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市)の人口99%をカバーする予定であると発表されている。
今、LTEを選ぶべきか
さて、ここまでLTEについて概要を解説してきたが、結局、現時点においてLTEを選ぶべきなのだろうか。
LTEは必ずしもいいことばかりではないので、以下のメリット・デメリットを考慮してもらいたい。
LTEのメリット
- 通信速度がとにかく速い
- パケット定額料金が安い
LTEのデメリット
- バッテリー消費がかなり早い
- 端末の選択肢が少ない
上記のメリット・デメリットから、何を優先するのかという問題だ。
「動画サービスのヘビーユーザーなので、高速通信がないと……」「モバイルPCの通信にXiをテザリングで使いたい」といったように「よほど高速通信が欲しい」という理由があるなら、LTE対応端末を選択するべきだし、バッテリーを特に気にする人なら、LTEの消費電力が改善するのを待ってもいいだろう(Samsungあたりは今年中の解決に自信を見せている)。
現在発売中の端末におけるバッテリー消費量はかなりのもので、「ARROWS X LTE F-05D」などは夕方まで持たないなどといった嘆きの声がちらほらと聞こえてくる。
個人的には、Wi-Fiタブレットなどを持ち歩くために「テザリング」をしたいということで、バッテリーチャージャーとセットで持ち歩くことを前提に、LTE対応端末を買ってもいいかなと考えている。