「楽園追放」セルルックCGアニメでキャラクター演技に挑む CEDECでグラフィニカがメイキングセミナー
CEDEC2014で「『楽園追放 -Expelled From Paradise-』にみるCGアニメの制作フロー」が開催された。アニメーション制作のグラフィニカがセルルックのCGで挑んだメイキングを披露した。
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9月4日夕方に行われた「『楽園追放 -Expelled From Paradise-』にみるCGアニメの制作フロー」もそのひとつだ。2014年11月15日公開の劇場アニメ『楽園追放 -Expelled From Paradise-』のメイキングをグラフィニカのスタッフが披露した。
『楽園追放 -Expelled From Paradise-』は、監督に水島精二氏、脚本に虚淵玄氏を起用、東映アニメーションが製作する話題作だ。アニメーション制作をグラフィニカが担当する。グラフィニカは、『青の6号』や『戦闘妖精雪風』などで定評があったゴンゾのデジタル部門の流れを組むCG・VFXスタジオである。当日のセッションは、国内のCGアニメーションの老舗であるグラフィニカが、いまCGアニメーションで何が出来るのか、何を目指すのかを語る興味深いものであった。
登壇したのは3名、3DCGプロデューサーの森口博史氏、リードアニメーターの柏倉晴樹氏、リードモデラーの横川和政氏である。CEDECということもあり専門家向けのセッションではあったが、動画やビジュアルを多用することで、CGアニメーションの現場の門外漢でも、グラフィニカがどういったコンセプトで映像にづくりにチャレンジしているかや、技術のダイナミズムが理解できたに違いない。
制作にあたってグラフィニカが特に重要視したのは、“キャラクターの演技”だという。CGの不得意な芝居に挑戦した。また、森口氏は、「(CGアニメーションは)リミテッドアニメの伝統をまだリスペクトし切れていない」と話す。その実現に近づく作品が『楽園追放』というわけだ。
現場でおけるワークフローやメイキングは、柏倉氏、横川氏が解説した。セルラインの表現、影の表現、逆光表現、色彩設計など様々な角度から、どうやってセルアニメーションらしさのあるCGアニメーションの映像を獲得していったのかが語られた。
例えば影の処理では、ライトシェーディングだけでは気持ちのよい影にならないので、アニメーターが最適なシェーディングを設定する。セルラインでも、より自然な作画のために補正をする。また手描きのスタッフによる作画監修を入れることでレイアウトのバランスもとる。
こうしたことは長年商業アニメーションとの協業が多いグラフィニカならではの強みだろう。「リアルさがセルアニメで正しいわけでない」という、森口氏の言葉には大きく頷かされた。
一方で、CGアニメーションがセルアニメーションの模倣になっているわけではない。細かいディティールの実現や、複雑なアングルはCGならではの強みも最大限に活かしている。そこにCGで敢えてセルタッチを手がける意味が見える。
これまで日本の商業アニメーションでは、手描きの2DパートとCGで制作した3Dパートを組み合わせたハイブリッドと呼ばれるかたちを採用すること多かった。しかし、『楽園追放』のメイキングを見ると、今後はCGアニメーションの制作のなかに2Dの技術や感性を持ち込んだ作品がどんどん増えるのでないかと感じた。それが新たなかたちでのハイブリッドなアニメーションになるのかもしれない。
現在、セルアニメーションルックのCGアニメーションに挑戦するのはグラフィニカだけでない。サンジゲンによる『009 RE:CYBORG』や『蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐』、ポリゴン・ピクチュアズによる『シドニアの騎士』など話題を呼んだ作品も多い。2013年以来、セルルックのCGアニメーションは少しずつ登場し、新たな潮流となりつつある。
そうしたなかで『楽園追放 -Expelled From Paradise-』は、劇場作品という大きな舞台で挑戦する意欲作だ。新しい流れの中で新たなターニングポイントになる作品だろう。本作の劇場公開は11月15日、そこでグラフィニカが目指したキャラクターによる細かな演技がどう表現されたのかも確認出来るに違いない。