第24回 武田砂鉄×アルテイシア対談

この連載は、ヘビーなこともストレスフルなことも楽しくパワフルに切り返すアルテイシアさんが、毎回ゲストの方とジェンダー観やフェミニズムについて語ります。
第24回は、ラジオやコラムなどで活躍しており、時事問題などを繊細に深く分析するフリーライターである武田砂鉄さんです。4回構成の最終回は、男社会が女性に強いてきたものとその対応について語り合います。

 

男社会が女性に強いてきたもの

アル:そこまで悪質じゃなくても、異性の優しさを好意と勘違いする男性は一定数いますよね。
男性に普通に親切に接したら好意があると勘違いされて、デートに誘われたり、断ると逆切れされたり、最悪はストーカーされてしまったり。そんな経験のある女性は多いので「男性には優しくしないように気をつけてる」という声もよく聞きます。

武田:女性と目が合ったら笑顔で会釈してくれたとか、病院で看護師さんが丁寧にケアしてくれたとか、ささいなことで「おやおや、気があるのかい」と飛躍するスピードの速い人がいますよね。

アル:おめでたいなと思いますけど、これって男性同士で優しくしないからじゃないでしょうか。だから優しさを「特別なこと」だと勘違いして、優しくされると好きになっちゃって、結果的に怖がられて優しくされなくなる。そんな哀しきモンスターみたいな話にならないために、男性同士でもっと優しくケアし合ってほしいです。

武田:女性にケアを押しつけるんじゃなく、男同士でケアし合うことや、そして、自分で自分をケアできることが必要かもしれません。

アル:妻が「風邪ひいたみたい」と言うと「俺も熱っぽいんだよね」と返す夫はあるあるですけど、相手が上司だったら「僕も熱っぽいんですよ」なんて返さず「大丈夫ですか?」と気づかいの言葉をかけるんじゃないでしょうか。これも「妻はケアする側、自分はケアされる側」と無意識に思ってるからでしょう。

「女性ならではの気づかい」という言葉も「男性は気づかいできない」という言い訳とセットですよね。男性も上司や取引先には気づかいや忖度をしているわけで、できないんじゃなく、相手を選んでるだけだろうと。

武田:あらゆる「女性ならでは」という冠がついてる表現は、男社会が女性に強いてきたものが多いのではないかと思います。

水回りの掃除をするとき、僕は背が高くてかがむと腰が痛くなるので、シンクの手前側を磨くのをよく忘れるんです。あるいは雑になる。それを指摘されて、「うわ、まただ」と次回はそこもちゃんとやる。でも、また忘れてしまって指摘されて……なんてことがあります。

でもそれ、「男性・女性ならでは」ではなく、自分が「手前側の掃除を忘れる人」で、妻は「それを指摘してくれる人」というだけ。そこで、もし自分が「やっぱり、女性って細かいところに気づくよね」と言ったらやばい。おまえが手前側の掃除を忘れているだけなのに。

アル:精神分析の父と呼ばれるフロイトは「女性はヴァギナが汚いので、掃除をするのに向いている」と信じていたそうです。

武田:えっ、それ、どういう理屈ですか。

アル:女性は自分の体の不浄を埋め合わせるために、せっせと家をきれいにするそうです。『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? これからの経済と女性の話』(河出書房新社)に載っていて「フロイト、気は確かか?」と思いました。

実際は女性器はすぐれた自浄作用があって清潔だそうですよ。男性器のほうが包皮に垢が溜まりやすく細菌が繁殖しやすいそうです、形状的にも外に出てるし。

武田:むしろ、もうちょっと中にしまっとけよ、っていう形をしてますよね。

アル:もし女性が「男性はペニスが汚いので掃除に向いている」と珍説を唱えても、精神分析の母にはなれなかったでしょう。そんなトンデモな理屈や「母性」や「本能」といった言葉で、女性にケア労働を押しつけて、家に閉じ込めてきたんですよね。

武田:本当にそうですね。自分に何らかの変化を加えなきゃいけないけど、変われない、変わりたくないときに「うーん、やっぱり男じゃダメだなんだな、女性の方が向いてるんだよ」と言いたい欲はいろんな場面でありそうです。

アル:「やっぱり女性の入れたお茶はおいしいね」と言うおじいさんに「それ千利休に言ってみろ」って言いたくても言いづらいですけど。

武田:良かれと思って、褒めるつもりで言うことも多いですよね。そういうのも1つ1つ指摘していくしかないんでしょうけど。

冷笑はダサい

アル:とはいえ希望もありまして、最近はジェンダーの講演やイベントに若い男性が増えてきました。先日のイベントでは20代の男性たちが「女性のフェミ友しかいないから、フェミ男子に出会えて嬉しい」ってインスタ交換してましたよ。

武田:ここ5年くらいでフェミニズムの本や記事も増えていて、「今のままでいいのかな」「どうやらよくないらしいよ」と疑問を持つ人口は増えてますよね。「最近こんなのばっか」みたいなものも出てきますが、反復しながら増えていき、徐々に変わってきてるとは思います。

アル:X(旧ツイッター)にはアンチフェミやミソジニストがうようよいるけど、あそこはもう人の住むところじゃないので(笑)。私が現実世界で出会う若者たちはジェンダー意識が高いし、社会を変えるためにアクションする人も多いです。

武田:その通りですが、一方で、森喜朗や麻生太郎がいまだに影響力を持ち続けているように、ミソジニーを燃料にしながら高い地位についた人が、その権力を維持できる社会システムは残ったままです。あの手の人がまだまだ、あらゆる企業や団体にいるので、そこを変えていかなきゃとは思いますよね。

アル:メディアもいまだマッチョな男社会ですよね。TV局の女性ディレクターさんが「離婚後の共同親権について取り上げたくても、トップの男性陣が無関心で尺をくれない」と嘆いてました。

武田:先日、教員不足の問題について大学の先生に取材したら、最初に問題意識を持って取材したのは地方新聞の女性記者で、ものすごーく時間が経って、ようやく、大手新聞の男性記者が取材にやってきたと聞きました。向き合うべき問題がどこにあるか、メディアの中にいる人間は常に考えなきゃいけませんよね。

アル:私は冷笑おじさんたちに全滅してほしいです。デモをして声をあげる人たちを「そんなことしても無駄」って笑うおじさんとか。我々の世代が無関心だったせいでこんな社会になってるのに責任を感じないのか、いつまでも若者気分でいるんじゃねえよ、みっともねえ大人だなって。

武田:そういう振る舞いに対して僕は「ぷぷぷ」って思うのですが、なぜかあっち側が嘲笑してきます。今ある問題にアクションを起こす人に対して冷笑する声があって、それをかっこいいと思う人がいるのは本当にどうしようもないです。

アル:みんな「冷笑はダサい」と早く気づいてほしいです。

武田:「冷笑をどう打ち返すか」は課題ですね。向こうは即物的な弁論術のテクニックだけは持ってるので、こっちが負けたかのように演出してくる。だから、「いやあなた超ダサいですよ」と焦らずにお伝えしたいですね。ヘラヘラせずに真顔で。


 

対談は今回で終了です。
今冬、単行本化しますのでお楽しみになさってください。

構成:雪代すみれ

 

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武田砂鉄

武田砂鉄

1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で時事問題やノンフィクションの本の編集勤務に携わり、2014年よりフリーランスに。2015年『紋切型社会』(朝日出版社刊)で「第25回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞、2016年「第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。他の著書に『マチズモを削り取れ』『わかりやすさの罪』『なんかいやな感じ』など多数。現在は、TBSラジオ『武田砂鉄のプレ金ナイト』、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ』(火曜レギュラー)などのパーソナリティほか、「AERA」「女性自身」「日経MJ」など多数の雑誌でコラムを連載中。