楽器用チューナーの謎の印 | コントラバスフルート吹き Bamboo Satake の モノローグ
楽器のチューニングや練習にチューナーをお使いのみなさまへ

ディスプレイ上の目盛の半端な位置に妙な印の付いたクロマチック・チューナーがあります。

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赤丸で囲んだ印は何でしょうね?
「この範囲に入っていればOK」の目安ですか?
いいえ、違います。
よく見ると左右でその位置が微妙に対称ではありませんね。

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左の印の位置に比べ、右の印の位置は中央からちょっとだけ遠いように見えます。
話がちょっと脱線しますが、合奏をする場合の音程は中央ピッタリ(0 cent)が正しい音程とは限りません。
じつは、チューナーは多くの場合、十二平均律で表示しています。
(詳しい解説は読み飛ばして結論を急ぎたい方は Coda12 マークから続きをお読みください。)

ある音の高さの2倍の周波数(周波数とは1秒間の振動数)をその1オクターブ上の音と定義します。
比で言うと1:2の関係になりますね。
そして隣り合う半音程(「ド」と「ド#」、「ド#」と「レ」、等)の周波数の比がどこの半音程でも一定になり、1オクターブでちょうど1:2になるよう配分したのが十二平均律です。
ところが、この調律方法では殆どの和音で唸りが生じます。
唯一唸りが生じないのはユニゾンのときだけです。
ユニゾンとは同音程またはオクターブ(2オクターブ以上のオクターブも含む)の関係にある和音です。
十二平均律はどこの半音程でも周波数の比が一定なので鍵盤楽器等において転調、移調が自由にできる利点がある反面、ハーモニーを若干犠牲にした妥協的な調律方法なのです。
もっとも、十二平均律で調律された(厳密に言うとインハーモニシティ(ピアノの弦などで含まれている倍音が計算上の倍数よりも周波数が高くなる)のためにストレッチ・チューニング(つまり高い音はより高めに、低い音はより低めに)を行うので、オクターブの比がオクターブ関係になっていませんが、その効果も手伝ってか)ピアノの音に聞き慣れてしまうと、その調律で心地よく感じてしまう場合も少なくないようです。

一方、合奏できれいにハモるのが純正律です。
純正律は分数で表すことのできる比で音階が成り立っています。
言い替えれば倍音とそのオクターブ関係のみで音階ができていますので、重ねても唸りが発生せず、ピッタリ合えば和音が融け合って一つに聞こえます。
例えばハ長調の音階では、「ド」と「ソ」の関係は「1:3/2」、つまり「ソ」は「ド」の1.5倍の周波数なのです。
同様に「ド:ファ」は「1:4/3 ≒ 1.3333倍」、「ド:ミ」は「1:5/4 = 1.25倍」、「ド:ラ」は「1:5/3 ≒ 1.6667」になります。
ちなみに十二平均律の「ド:ソ」は「1:2の7/12乗 ≒ 1.4983倍」であり純正律での1.5倍とはちょっとずれています。
また、十二平均律の「ド:ミ」は「1:2の4/12乗 ≒ 1.2599倍」であり、純正律での1.25倍とは大きくずれています。
その他の音程での関係もユニゾン以外では両者は一致しません。

Coda12 さて、話を元に戻して例の印の正解を言いますと、純正律において、ある音の長3度上に合わすときの指標と、短3度上に合わすときの指標なのです。
純正律の長3度、短3度が十二平均律の 0 cent とどれだけずれているかを示しています。
左側の指標は長3度上の場合(約 -13.69 cent)、そして右側の指標は短3度上の場合(約+15.64 cent)に使います。
左右の位置が対象でない理由はこれなのです。
(ここで、十二平均律の半音程は 100 cent、1オクターブは両者とも 1200 cent です。)
例をあげると「ド ミ ソ」の和音の場合は「ド」が 0 cent ならば「ミ」は -13.69 cent に合わせます。
また、「ド ミ♭ ソ」の和音の場合は「ド」が 0 cent ならば「ミ♭」は +15.64 cent に合わせます。
「ソ」はどちらの和音も約 +1.96 cent なのですが、これは 0 cent に合わせても概ね問題ありません。
もっとも、液晶表示のチューナーでは半端な位置の指標にピッタリとは合わせられないという「オチ」があります。
写真の製品の場合、セグメントは1本の針が 2.5 cent 間隔、その中間値を2本同時点灯で表現しても 1.25 cent 間隔。

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※ 特別なモードで全てのセグメントを点灯させております。

まあ、実際には 1~2 cent の誤差は問題にならないでしょう。
それでは、機械式メーターのチューナーの針ならば半端な位置でもピッタリと指示するのかと言いますと、機械式メーターは 0 cent の位置以外の場所での精度は落ちますので、ピッタリ自体に意味がなくなってしまいます。
その理由は、製品の校正時に 0 cent を正しく指示するよう調整しますが、その他の位置で目盛りどおりに指示されているかどうかは部品としてのメーターの特性次第(言い替えれば調整できない)なのです。
(別の問題として、内部的にはアナログではなくデジタル処理で計算しているので、針のメーターと言えども完全な連続値ではありません。)

それでは、チューナーを正しく理解して、みなさまの音楽生活にお役立てください。

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おっと、大切な事を言い忘れました。
チューナーは演奏前のチューニングや音程のチェック、トレーニング等に使う道具です。
アンサンブルでの演奏中はチューナに頼らず、ご自分の耳に頼って演奏してください。
決してチューナを見ながら演奏しませんように。
もしあなたが「だってチューナーに合ってるもん。」と自分の音程の正しさを主張するようであれば、あなただけがズレてしまいますよ。



最後にコレ、押してね。
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改訂
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