ドナルド・トランプ大統領はロシアに甘いという認識を持たれている。また中東ではイランと対決しサウジアラビアと接近しているとの印象を与えている。だが、この大統領ほどロシアとサウジアラビアに打撃を与えた大統領はいない。というのはトランプがアメリカのエネルギー産業に対する規制の撤廃に動いているからである。パイプライン敷設の許可、シェール・ガスと石油の生産に不可欠なテクニックである水圧破砕への規制の撤廃、アメリカのエネルギーの輸出の推進など、国内の生産者が望んでいた方向に米国のエネルギー政策を動かし始めた。
これによって国内のエネルギー生産に拍車がかかる形になった。米国はオバマ大統領期に石油と天然ガスの生産を上昇させて、サウジアラビアやロシアと並ぶ大生産国となった。国内消費が巨大なので、まだまだ輸出に回る部分は少ない。だが、やがてエネルギーの大輸出国とな人々で満席になると、本当に飛行機の中が窮屈に思える。ノースダコタはカナダ国境の州である。ニューヨークやロサンジェルスでは夏服で過ごせたが、ここでは、もうコートが必要だった。アメリカは広い。
バッケン地層と呼ばれるシェール層で知られるノースダコタ州は、シェール革命の聖地である。このウィリストン市と隣のワットフォード市とマッキンゼー郡が、その聖地の聖壇である。人口流出に悩んでいた過疎のコミュニティが、突然のエネルギーブームに戸惑いながらも歓喜るだろう。エネルギーの地政学が変わりつつある。そして、それをトランプが加速している。北米にサウジアラビアに匹敵する新たなエネルギー大国が出現したのである。その名を業界人はサウジ「アメリカ」と呼ぶ。
その米国のシェール・エネルギー生産の中心地のノースダコタ州を9月に訪ねた。ニューヨークからミネソタ州都のミネアポリスまで飛び、そこからノースダコタ州のウィリストン市へと飛行機を乗り継いだ。数十名乗りの小さな飛行機は満席であった。石油マン風の体の大きなしていた。
ブームは、爆発的な人口膨張を引き起こした。奔流のように流入する労働者によって、社会インフラが圧倒されていた。学校も住宅もすべての供給が追い付かない状況であった。すべてが新しかった。新しい道路の建設に地図のほうが追い付かないのか、カーナビに載っていない道を車で走った。
2015年のサウジアラビアの増産戦略で限定的な打撃を受けたものの、ノースダコタの石油生産はトランプの規制撤廃の方針を受けて上昇基調である。現地のジャーナリストは、1バレル20ドルの価格があれば利益を出せる油井が多いと語っていた。
油田地帯では、随伴ガスを燃やす「中東的な風景」が周囲に広がっている。アメリカ的だったのは、油井の周辺を歩いているのがラクダや羊ではなく、放牧されている牛だった。シェール革命の風景であった。サウジアメリカの光景であった。
※『経済界』 2017年12月号 66ページに掲載されたエッセイです。
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