OXFAMというイギリスが本家のNGOがあります。先日、ダボス会議に先立ち「世界の85人の富豪の総資産は、35億人の総資産と同じ。累進課税やタックス・ヘイヴン防止のための措置を取るべき。」というレポートを出していました。


 昔から、このOXFAMの出すレポートというのは、視点が良い、打ち出しが良いということで、世界を震撼させるようなものが出て来ます。一番思い出すのは、私が外務省でWTOを担当していた時は「欧米の綿花農家への手厚い補助金が公正な競争を妨げ、結果としてマリ、ニジェール、チャド等のアフリカの綿花栽培、輸出の可能性をダメにしている。」という報告が出た時の事です。たしかに、欧州は生産量が大したことはありませんが補助水準が極めて高く、アメリカは生産量が多く、補助水準は欧州ほどではないけども高い、ということで、そうやって補助漬けになった綿花輸出が途上国、特に最貧国であるサハラ砂漠地域の国にダメージを与えているという視点は衝撃的でした。


 欧米の農業補助金、特に輸出に対する補助やクレジットが、公正な貿易を妨げ、農業に依存する途上国の発展を妨げているというのは昔から言われてきたことです。私がアフリカ勤務時、よくマリの綿花畑を見に行きました。大河ニジェール川沿いにパーっと広がる綿花畑、かなり良いものが取れている印象がありました。コストも安かったです。しかし、それが国際市場に出る時には、欧米の綿花に負けてしまうという現状がありました。勿論、綿花を衣類等の製品に仕立てて行く能力がないということもあります。


 OXFAMが上手いと思ったのは、綿花に目を付けたことです。ちょっと世界の農業貿易を考えれば「砂糖」に目が向きそうです。砂糖への欧米の補助金は巨額でして、分かりやすいと思うのですが、砂糖はどうしてもブラジルやオーストラリアといった国が非常に強い分野でして、途上国とのコントラストがバシッとは出て来ません。綿花とサハラ砂漠諸国というコントラストを上手く描き出したその能力は大したものです。


 実際、このOXFAMのレポートは、当時の(そして多分今も)WTO農業交渉に激震を走らせました。分かりやすさでアピールするものが大きかったのでしょう。「cotton issue」という単独のカテゴリーで考えるところまで国際交渉を引っ張りました。


 また、それ以外でも、最近フランスの原子力企業AREVAはニジェールのウラン採掘で搾取していると指摘しました。ちなみに日本の原子力発電所で使っているウランの中にも、ニジェール産のものがあるのではないかなと思います。ニジェールは世界最貧国の一つです。しかし、ウラン生産については世界第4位。ウラン生産に関して、AREVAは免税、減税措置等をフル活用して、ニジェールの発展に貢献していないという内容でした。これまで35億ユーロ以上の輸出をしたのに、ニジェールが裨益したのはその13%程度、4億6千万ユーロ程度に過ぎないということを言っています。「フランスでは1/3の電力はニジェール産のウランで生産されているにもかかわらず、ニジェールでは90%以上の国民が電気へのアクセスがない。」、上手いですね、この辺りは(AREVAは反論していますが劣勢気味です。)。


 そして、今、ニジェール政府とAREVAの間で採掘権更新の交渉が行われていますけども、このOXFAMのレポートが陰に陽に影響したのでしょう。内容はよく分かりませんが、報道から漏れ聞こえるところでは相当に利益配分が変わりそうな印象です。


 こういう政策提言型のNGO、良いなと思います。役所、諸外国を動かすくらいの提言をしようと思えば、かなり研究して詰まった内容の提言をしなくてはいけません。例えば、今、TPP交渉が行われています。日本は(珍しく)オーストラリアと組んで、アメリカの輸出信用(Export Credit)を叩いています。WTO交渉では、輸出補助金を使っている(日本がそれなりにお仲間だと思っている)EUに配慮するあまり、輸出補助金叩きをやりきれませんでしたが、TPPにはEUはいません。アメリカの輸出信用が如何に公正な貿易を妨げているか、みたいなストーリーをOXFAM並みの戦略性を持って叩くNGOがあってもいいかなと思います。上手くムーブメントを作ることが出来れば、「輸出信用で対応がなければ、関税削減で応じない。」みたいな構図をもっとクローズアップできると思うのです。