ターミナル2の中心で愛を叫ぶ | DNA of DeNA

ターミナル2の中心で愛を叫ぶ



私は常にいろいろなことを警戒し精一杯用心深く生きている。


とくに自分のズボラさには警戒を怠らない。


出張先のホテルでは忘れ物をしないように、次の日に着るスーツ以外はすべてスーツケースにいちいち戻しておくようにしている。


化粧ポーチもアクセサリーも出しっぱなしにせず、時計もベッドサイドなどに置かず、とりあえずスーツケースに全部入れておく。


ところが今日、そのスーツケースごとタクシーに置き忘れた。


空港に着いたちょうどそのとき、いまさっきまで打ち合わせをしていた相手から電話が入り、話しながらチップを計算して支払ったりしてすっかりスーツケースのことを忘れてしまった。


自分が異常に身軽なことに気づくことなく普通にチェックインをしようとしたら、航空会社のカウンターが見つからず、うろうろした挙句ターミナルが違うと言われ、あわてて正しいターミナルに走り出して初めて、足取りがあまりに軽やかなことに違和感を覚えた。


もしや・・・


英語もあまり通じない異国の地でひとり、スーツケースもなくなるとかなり心細い。とりあえずホテルに電話し、ホテルがつかまえたタクシーがスーツケースごと消えたぞ責任をとれ何とかしろくらいの勢いでクレームを入れてみたが相手はいたって冷静で、タクシー会社の電話番号を私に伝えてそそくさと電話をきった。


タクシー会社に電話してもぜんぜん出ないし、一応降りた場所に行ったけど誰もいないし・・・あー、もーやだ、自分もマヌケだけどあの運転手も大ボケじゃないか・・・とスーツケースに入っていたものを一つ一つ思い出す。


スーツ、靴、パジャマ、基礎化粧品、PCのアダプター。明日の打ち合わせはものすごく格好悪いな、きっとこんな夜だから乳液も買えずにガビガビの顔で現れてまとまるものもまとまんないのか、それにしてもダメージ大きいのはあのカラータイツ、気に入ってたのにぃぃぃぃいいいいいいいっ!


私がヘマをして困ったときいつも助けてくれたポンチョさま、あぁぁぁああっしかしニッポンは真夜中でポンチョさまは熟睡中。せめて個人情報も秘密情報も(当然だけど)入れてないことを救いとしてめげずに生きていくしかないと観念し、すっかり肩を落として歩き始めると、私と同じくらい顕著に肩を落としている老人を発見した。


世界中の空港にはがっくりしている人がいっぱいいるんだ、一人じゃないんだ、しかしあの老人、旅人にもビジネスマンにも見えない、ぜんぜん見えない、何に見えるかというとしいて言うとしいて言えば・・・・


しいて言えば。。。タクシー運転手・・・タクシー運転手?タクシー運転手??まじ????



それは、私と同じくらい困り果てて茫然自失のタクシー運転手だった。



あまりの感激に走り寄ってアミーゴ、ジュテーム、ブラボーノ、ミツカリーノと狂喜乱舞で抱きついた。


タクシー運転手さんの喜びようも尋常ではなかった。しばらくターミナル2のど真ん中で抱き合った私たち。その後ふたりほぼスキップ状態でタクシーに戻りトランクからスーツケースを取り出してもう一回抱擁した。


短い時間で評価は激変し、いままで会ったいろんな感動的な運転手さんの中でもダントツ、イチバン感動的な運転手さんとなった。