自動車運転と抗うつ剤、抗てんかん薬の話
昨年11月、サインバルタの添付文書の改訂が行われ、自動車運転を一律に禁じる記載ではなくなり下線が引かれているように、十分に注意喚起することで、自動車運転もできるようになった。
この2ページでは添付文書改訂に至った根拠が記載されている。
ジェイゾロフトは、上記の2ページ目の左側の下の方「重要な基本的注意」の欄に、「自動車、機械を操作する際には十分に注意させること」とある。この注意レベルにサインバルタは並んだのである。
一方、3環系抗うつ剤ではどのように記載されているかというと、
これはアナフラニールの添付文書だが、1ページの左側の需要な基本的注意の(1)に、
眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。
と記載されている。
整理すると、全てのSSRIは自動車運転はできると記載。SNRIの3剤(トレドミン、サインバルタ、イフェクサー)は十分注意して運転せよ、ただし具合が悪いと自覚したらやめとけと、注意喚起しつつできると記載されているのである。(訂正:読者の方の指摘通り、デプロメールの添付文書は旧来の抗うつ剤や抗てんかん薬と同じく、できないと記載されている。一般にSSRIは認知に悪影響を及ぼさない特性を持ち、これが運転を許可される根拠となっている。デプロメールだけ特別に悪いという根拠は乏しい。おそらく最初に発売されたSSRIで、今や売り上げも低く、ずっと以前にジェネリックが出ているSSRIなので放置されているのかもしれない)
一方、古典的3環系および4環形抗うつ剤、リフレックスは自動車運転はできないと記載されているので、この差は非常に大きい。
皆さん、リフレックスを服用中は公式には自動車運転できないって知っていた?
ところがである。現在、日本では抗てんかん薬を服薬していても、一定期間発作がなければ運転免許を取得し運転も可能である。これは世界的にはずっと以前からそうだったが、2002年の道路交通法改正でやっと世界に追い付き、一定の条件を満たせば免許を取得できるようになったのである。(てんかん情報センターのQ&A参照)
一方、添付文書的には抗てんかん薬服用中は運転できるように書かれていない。例えば、デパケンRでは、
デパケンR
眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意する。
フェノバールも同様である。新規抗てんかん薬のうち単剤で投与できるイーケプラはどうかというと、
イーケプラ
眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。
と記載されている。微妙に言い方は異なるが、デパケンRとイーケプラは言っていることは同じである。やはり単剤投与できるラミクタールも、自動車運転に関してはデパケンRと全く同じことが記載されている。
ということは、てんかん患者さんで運転免許を持ち日々運転している人たちは、いったい何を服薬しているのでしょう?
ということになる。これは医療と社会において、責任の所在を曖昧にしているものの1つだと思う。医療の現場に丸投げしているのである。
てんかん患者さんは日本全体から言えば、目立った精神症状もなく普通に働いている人たちがかなりいる。(障害者雇用ではなく)。
東京などの大都市ならともかく、地方では車の免許がないと職が見つからない、あるいは通勤できないということが普通に起こる。従って、日本経済全体を考慮すると、コントロール良好なてんかん患者さんは働いてもらい、税金や社会保険料を納めてもらった方が遥かに良いのである。彼らから、運転免許を取り上げると、まずくすると生活保護になり、今以上に社会保障費用が膨れ上がる。
また、そのくらいのことは国もわかっているのだが、細かい点まで首尾一貫しないため、このように奇妙なことになるのである。
てんかん患者さんが服薬しつつ運転できるのであれば、たいていの向精神薬は服薬していても精神症状が概ね落ち浮いていれば、プライベートの運転を許可するのは自然だし、その方が日本経済にも良い影響を及ぼす。(実質、そうなっている)
大学を卒業した頃、ドイツのてんかんマニュアルを読んでいると、てんかん患者は服薬でうまくコントロールできていれば、プライベートで運転するのは問題ない。しかし、長距離トラック運転手やバスの運転手はできないという具体的な記載がされていた。
日本は施政も遅い上、指示がはっきりしないのが大問題だと思う。
今年、認知症の運転免許の許可に遂に手が付くが、試験に合格したものの、アリセプトを服用している人は果たして運転できるのか?という問題に直面する。
アリセプトの添付文書には、
アルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症では自動車の運転等の機械操作能力が低下する可能性があり、本剤により意識障害、眩暈、眠気等が現れることがあるので自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事しないよう患者等に十分に説明する。
と記載されているからである。