精神症状としてのGPS
内因性精神疾患、特に統合失調症の精神所見として、「なんだか見られている感じ」と言うものがある。これは「被注察感」とか、「注察念慮」「注察妄想」などと言う。このような訴えをする人は、統合失調症の人とそうでない人に分かれる。
個人的に、一過性の「見られている」体験は、重篤な精神病まで至らず、そのまま治癒してしまう人が相当に多いのではないかと考えている。(参考)
ただし、これは自分の臨床的感覚であり、統計など取れない。その理由は、その程度の症状で精神科にかかる人はそう多くはいないと思うから。
「見られている」体験の他、はっきりとした悪口を言われる幻聴、被害妄想まで揃うと、極めて統合失調症が疑わしいまでは到達するが、それでもまだ途上にある。
なぜなら、そこまで揃っていてもなお統合失調症ではない人もいるからである。このような人は、治療に時間がかかると非常にまずい(参考)。あるいは、病院にかかるまで月日がかかっていると一層、条件が悪いが、それでもなお、数年そのような異常体験があって、統合失調症でない人も存在する。
ここが長年、個人的にちょっとわからないところであったが、最近は自分なりに結論が出ている。
「見られている」体験、悪口を言われる幻聴、被害妄想などの症状が揃っていてもなお、初診時に統合失調症ではない人は、何らかの器質由来の精神病状態なのである。従って、これは統合失調症とは言わないし、一見して統合失調症ではないので、その点でも整合性がある。
時間がかかるとまずいのは、このような精神病状態が長く続くことにより、不可逆性に脳機能を悪化させるからである。その結果、器質由来の欠陥状態に至る。これが重い場合は器質性荒廃である。
器質性荒廃に至ると、統合失調症と社会的には区別する必要がなく、同じように障害年金なども受給できるべきだと思うので、その点では個人的に反論はない。学問的に異なると言っているだけである。(ただし、このブログ的には重大なことである)
DSMでは継続時間(つまり悪い期間)を重視しており、ある一定の期間を超えて、悪い状態が持続した場合、統合失調症と診断して良いとされている。(ただし、明確な器質性疾患の場合は別。例えばバセドー病やSLE)
ここが、臨床に基づく個人的な統合失調症の診断とDSMとの決定的な相違である。
「見られている」体験、悪口を言われる幻聴、被害妄想の3点セットが揃っていても、初診時に一見して統合失調症ではない人がいる。このような人は強力に薬物治療した後、跡形もなく症状が消退した場合、そのまま薬を中止しても、既に治癒に至っている確率はそう低くはない。
そのように思うときは、初診時に家族にそういう風に伝えることがある。ブログだからこそ書けるが、このレベルの大変な病状の際に保護室の外で、
○○君(さん)は統合失調症ではなく、しばらく治療すると治癒に至る確率が高い。
と病状説明するのは、言い辛いものだ。かなり度胸が必要。その理由だが、僕は安請け合いなどはしない方だからである。家族に楽観的なことを言い、あとで落胆させるのは、その逆よりずっと残酷だと思う。
このようなケースでどのくらいの期間の服薬が必要かは、経験的に悪い病状の継続のあり方に関係するように思われるので、DSMは若干はずしていると思うが、それでも良い線は行っている。
このようなことを考えていくと、慢性期の長期間入院している患者さんも、症候群としてのごった煮の「統合失調症」と考えた方が、他の色々な現象の説明がつくし理解もしやすい。この考え方は極めて重要である。
さて、タイトルに戻るが、最近の患者さんの言葉として、「見られている」体験のボリュームが上がり、「GPSで監視されている」と訴える人がいる。
時代は、盗聴器からGPSに変わったのである。
盗聴器とGPSの相違だが、盗聴器は1つの部屋ないし建物に限定されているのに比べ、GPSはたとえ北極に逃げようとも監視されていること。どこに行っても逃れられない。それくらい機能が進化している。全く今の人は大変だよ。
GPSだが、本来、戦争の監視デバイスであったという。湾岸戦争の際に、当初、砂漠は道に迷うので、砂漠に慣れているイラク軍は有利であろうと言われていた。多国籍軍は、戦車や軍用トラックの動かし方、イラク軍の動きを掴むのが難しいと予測されていたのである。ところが、GPSの出現で、砂漠の戦闘も多国籍軍は有利に進められたのであった。
現代社会は、スマホや携帯電話にすらGPSが付いている時代である。今の若い人には盗聴器のほうが馴染みが薄いのであろう。
このように幻覚妄想系の異常体験の内容は、その時代の文明を反映する。古来、統合失調症の本質的な異常体験は変わっていないと思うのだが、表現される形は変わり続けているのである。
参考
周りで笑い声がすると・・
器質性荒廃
3人目の女性患者
アスペルガーと前頭前野
伝播はあるが電波はない
器質性荒廃と統合失調症による荒廃の相違点(仮題、近い将来アップする予定)
個人的に、一過性の「見られている」体験は、重篤な精神病まで至らず、そのまま治癒してしまう人が相当に多いのではないかと考えている。(参考)
ただし、これは自分の臨床的感覚であり、統計など取れない。その理由は、その程度の症状で精神科にかかる人はそう多くはいないと思うから。
「見られている」体験の他、はっきりとした悪口を言われる幻聴、被害妄想まで揃うと、極めて統合失調症が疑わしいまでは到達するが、それでもまだ途上にある。
なぜなら、そこまで揃っていてもなお統合失調症ではない人もいるからである。このような人は、治療に時間がかかると非常にまずい(参考)。あるいは、病院にかかるまで月日がかかっていると一層、条件が悪いが、それでもなお、数年そのような異常体験があって、統合失調症でない人も存在する。
ここが長年、個人的にちょっとわからないところであったが、最近は自分なりに結論が出ている。
「見られている」体験、悪口を言われる幻聴、被害妄想などの症状が揃っていてもなお、初診時に統合失調症ではない人は、何らかの器質由来の精神病状態なのである。従って、これは統合失調症とは言わないし、一見して統合失調症ではないので、その点でも整合性がある。
時間がかかるとまずいのは、このような精神病状態が長く続くことにより、不可逆性に脳機能を悪化させるからである。その結果、器質由来の欠陥状態に至る。これが重い場合は器質性荒廃である。
器質性荒廃に至ると、統合失調症と社会的には区別する必要がなく、同じように障害年金なども受給できるべきだと思うので、その点では個人的に反論はない。学問的に異なると言っているだけである。(ただし、このブログ的には重大なことである)
DSMでは継続時間(つまり悪い期間)を重視しており、ある一定の期間を超えて、悪い状態が持続した場合、統合失調症と診断して良いとされている。(ただし、明確な器質性疾患の場合は別。例えばバセドー病やSLE)
ここが、臨床に基づく個人的な統合失調症の診断とDSMとの決定的な相違である。
「見られている」体験、悪口を言われる幻聴、被害妄想の3点セットが揃っていても、初診時に一見して統合失調症ではない人がいる。このような人は強力に薬物治療した後、跡形もなく症状が消退した場合、そのまま薬を中止しても、既に治癒に至っている確率はそう低くはない。
そのように思うときは、初診時に家族にそういう風に伝えることがある。ブログだからこそ書けるが、このレベルの大変な病状の際に保護室の外で、
○○君(さん)は統合失調症ではなく、しばらく治療すると治癒に至る確率が高い。
と病状説明するのは、言い辛いものだ。かなり度胸が必要。その理由だが、僕は安請け合いなどはしない方だからである。家族に楽観的なことを言い、あとで落胆させるのは、その逆よりずっと残酷だと思う。
このようなケースでどのくらいの期間の服薬が必要かは、経験的に悪い病状の継続のあり方に関係するように思われるので、DSMは若干はずしていると思うが、それでも良い線は行っている。
このようなことを考えていくと、慢性期の長期間入院している患者さんも、症候群としてのごった煮の「統合失調症」と考えた方が、他の色々な現象の説明がつくし理解もしやすい。この考え方は極めて重要である。
さて、タイトルに戻るが、最近の患者さんの言葉として、「見られている」体験のボリュームが上がり、「GPSで監視されている」と訴える人がいる。
時代は、盗聴器からGPSに変わったのである。
盗聴器とGPSの相違だが、盗聴器は1つの部屋ないし建物に限定されているのに比べ、GPSはたとえ北極に逃げようとも監視されていること。どこに行っても逃れられない。それくらい機能が進化している。全く今の人は大変だよ。
GPSだが、本来、戦争の監視デバイスであったという。湾岸戦争の際に、当初、砂漠は道に迷うので、砂漠に慣れているイラク軍は有利であろうと言われていた。多国籍軍は、戦車や軍用トラックの動かし方、イラク軍の動きを掴むのが難しいと予測されていたのである。ところが、GPSの出現で、砂漠の戦闘も多国籍軍は有利に進められたのであった。
現代社会は、スマホや携帯電話にすらGPSが付いている時代である。今の若い人には盗聴器のほうが馴染みが薄いのであろう。
このように幻覚妄想系の異常体験の内容は、その時代の文明を反映する。古来、統合失調症の本質的な異常体験は変わっていないと思うのだが、表現される形は変わり続けているのである。
参考
周りで笑い声がすると・・
器質性荒廃
3人目の女性患者
アスペルガーと前頭前野
伝播はあるが電波はない
器質性荒廃と統合失調症による荒廃の相違点(仮題、近い将来アップする予定)