「いたまる」 | tobiの日本語ブログ それ以上は言葉の神様に訊いてください

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日本語アレコレの索引(日々増殖中)【26】
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mixi日記2021年09月20日から

 某所で聞いた話。閉鎖空間での話なんで、ちと気を使いながら。
 発端は下記かなぁ。
【編集プロダクション 文筆堂のブログ 「炒まる」はヘンですよ】2012-12-05
https://ameblo.jp/bunpitsudo/entry-11420747242.html
 料理番組では「いたまる」という言葉がよく使われるらしい。
 本当かなぁ。料理番組はあまり見ないからなんともいえない。
 対案がないので広まったのか、としている。
 それはフツー「火が通る」というのでは。あるいは「シンナリする」も見る気がする。

 参考サイトとして下記が紹介される。NHKのサイトはすぐ引っ越すので、文末に全文を保全する。
【1】【 最近気になる放送用語 「炒まる」?】2019年10月1日
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/20191001_4.html
【2】【 最近気になる放送用語 いたまる?】2002.11.01

 

 【1】によると、〈1971(昭和46)年には放送用語委員会の席上で質問が出された記録〉があるそうだから、歴史のある表現らしい。知らねえなぁ。
 
『初級を教える人のための日本語ハンドブック』(P98)には自動詞・他動詞のペアが紹介されているらしい。【2】で紹介されている自他のペアより、はるかに本題に沿っている。

A1. -aru:-eru型
*当てはまる 当てはめる  
*改まる   改める
*いたまる  いためる
*薄まる   薄める
*埋まる   埋める
 植わる   植える
 終わる   終える

「植わる」は古風な気もするけどアリだろう。
 本当に「いたまる」なんていうのだろうか。明鏡モドキには一応あるようだが……グレーゾーン行き?

 【2】には〈他動詞「いためる」から自動詞「いたまる」を作り出すことは、日本語文法の枠内では実は可能なことなのです〉とある。でもなぁ。

 用例としては……。
 ウルトラマン教本にならあるかも。
 打撃技などで相手にダメージを与え、十分にいたまったところでスペシウム光線などの必殺技を繰り出す。
「先生!? スペシウム光線などの必殺技は物理的な破壊技なので、相手のダメージには関係なく効果があるのでは……」
「番組の尺を考えなさい。必殺技を出すのは変身後2分30秒を目安にするように」

 

【20211215追記】

温める⟺温まる
鎮める⟺鎮まる
丸める⟺丸まる
止める⟺止まる
求める⟺求まる



【 最近気になる放送用語 「炒まる」?】2019年10月1日
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/20191001_4.html
===========引用開始
Q
「野菜が炒まったら」という言い方は、いけないのでしょうか。
A
実際にある程度使われている言い回しではあるのですが、違和感を覚える人も少なくないようです。

<解説>
「炒まる」という動詞[自動詞]は、「炒める」という動詞[他動詞]から導き出されたものです。この「炒まる」という言い方がおかしいのかどうかについては、昔から議論になってきました。このコーナーでもかつて2002(平成14)年11月に一度取り上げたことがあり、また1971(昭和46)年には放送用語委員会の席上で質問が出された記録があります(『文研月報』1971年9月号)。なかなか難しい問題なのです。

最近おこなった調査では、「野菜が炒まったら」という言い方は「おかしい」という人の割合が、6割以上になりました。

ややこしいのですが、この問題の文法的・意味的な面について、ちょっと考えてみます。「炒まる」という自動詞が成り立ちにくいのは、この動作の意味とも関係している可能性がありそうです。

日本語では、ある人が、ある動作を意図的におこなう場合には、まず他動詞での表現が考えられます。

私が ごはんを 炊く[他動詞]
私が おふろを 沸かす[他動詞]
一方、「ある人が、ある動作を意図的におこなう場合」であっても、自動詞を使った表現が好まれることが、よくあります。

「ごはんが炊けました」(←実際には「私」がごはんを炊いた)
「おふろが沸きました」(←実際には「私」がおふろを沸かした)
これを、他動詞を使って「ごはんを炊きました」「お風呂を沸かしました」と言うと、場面によっては、「(あなたのために)わざわざ炊いてあげた」「(あなたのために)わざわざ沸かしてあげた」といったようなニュアンスが生まれてしまうこともあるのです。

ただし、すべての動詞に他動詞と自動詞がペアで備わっているわけではありません。たとえば次の【B】のように「放置していてはその動作が成立しない」動詞の場合には、他動詞はあっても自動詞が存在しないものがあるようです。

【A】ある程度放置していても成立しうる⇒他動詞と自動詞がペアで存在
揚げる〜揚がる、炊く〜炊ける、漬ける〜漬かる、煮る〜煮える、焼く〜焼ける、沸かす〜沸く、……
【B】放置していては成立しない⇒他動詞のみ
ゆがく[×ゆがかる]、(米を)とぐ[×とがる]、あぶる[×あぶらる]、三枚に下ろす(×三枚に下りる)、……
この「ゆがく」や「とぐ」などは、その動作をする人がほぼ付きっきりで対応しないとふつうは成立せず、自動詞が成り立ちにくいのだと考えられます。

「炒める」という動作は、ひっきりなしにフライパンを動かしたりしますよね。放置した状態では成立しないため、この他動詞「炒める」は、【A】ではなく【B】に属する(つまり「自動詞『炒まる』は成り立ちにくい」)ととらえる人が多いのです。

「炒める」の話、これにて失礼します。炒チャオ!
メディア研究部・放送用語 塩田雄大
===========引用終了

【 最近気になる放送用語 いたまる?】2002.11.01
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/20191001_4.html
===========引用開始
Q 「野菜がいたまったら火を止めてください」という言い方は、日本語として間違っているのでしょうか。
A 文法的には間違っていませんが、なじんだ表現ではありません。放送では、「(野菜を)いため終わったら」「(野菜に)火が通ったら」など、別の言い方を工夫する必要があるでしょう(『ことばのハンドブック』p.15)。
解説
文法のことばで、「他動詞・自動詞」というものがあります。これをきちんと定義するのは本当は難しいのですが、ここでは、目的語として「〜を」が使われるものを「他動詞」、そうでないものを「自動詞」としておきます。例えば「(火を)消す」が他動詞、「(火が)消える」が自動詞です。

日本語の動詞には、他動詞と自動詞の両方が「ペア」で備わっているものと、そうでないものとがあります。料理に関係する動詞を例にしてみると、

(ペアのもの)
揚げる〜揚がる
沸かす〜沸く
炊く〜炊ける
焼く〜焼ける…

(他動詞のみ)
あぶる
ゆがく
煎じる
炒る
焙じる…
などがあります。ペアのものを見てみると「(天ぷらを)揚げた結果、揚がった」「(お湯を)沸かした結果、沸いた」という関係になっています。ここでは、他動詞(揚げる・沸かす)は「行為」、自動詞(揚がる・沸く)は「行為の結果」を表しています。

他動詞しかないものについても、「行為(あぶる・ゆがく…)」だけでなく「行為の結果(きちんとあぶられた状態・きちんとゆがかれた状態…)」というものも「考える」ことはできますが、それを表す自動詞は日本語には備わっていません。

「いたまる」に話を戻すと、文法のことばかりで恐縮ですが、他動詞「いためる」から自動詞「いたまる」を作り出すことは、日本語文法の枠内では実は可能なことなのです。その点では「いためる〜いたまる」という「ペア」がある、と考えることもできるかもしれません。しかし実態として、「いたまる」は料理に通じている人が主に使う言い方で、一般にはなじんでいません。文研で実施した世論調査では、「おかしい」と答えた人が59%いました(『放送研究と調査』 1998.7)。

一般にはあまり使われていない自動詞の表現として、このほかに「(電波が)受かる」「(解答が)求まる」といったものがあります。これも、部内用語・専門家の用語としては問題ないのですが、一般にはなじんでいないので、放送では別の言い方を工夫するようおすすめします。

(メディア研究部・放送用語 塩田雄大) 
===========引用終了