昔々、
っていうかわりと最近、
あるところに、
っていうか兵庫県高砂市JR宝殿駅前に、
結婚物語。という、
小さな結婚相談所がありました。
ある時、その相談所に、水曜どうでしょうが大好きなバリキャリ女子が入ってきました。
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大らかでメンタルが強く底抜けに明るかった彼女は、36歳という年齢と、ぽっちゃりさんという弱点をものともせず、すぐに同年代のハイスペさんの心を鷲掴みにし、仮交際に入りました。
同じ頃に、
30歳のSEさんも入会してきました。
その男性は、
それはそれはこだわりが強い、
神経質な人だったのです…。
※ほんの少しだけ
スペックにフェイクを入れています
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年齢・30歳
職業・SE
身長・180センチ
学歴・有名大学院卒
年収・600万
家事・得意(料理もめちゃできる)
いいじゃんいいじゃん!
この人めっちゃいい感じじゃん!
私のテンションはぶち上がっていました。
元々はアプリで婚活していた彼。しかし、ドタキャンされる、高いご飯を奢った後にラインブロックされる、投資のセミナーに誘われるなど散々な目に遭遇。
そんな時、この記事に出会い、
「普通の男なら相談所の方がモテるのか!」
と、万華鏡写輪眼を開眼して入会。
※現在は会員外のメールは受付けていません
彼のプロフを途中まで読んだ私は、年収・学歴・身長とバランス良い彼のスペックに、かなりテンションが上がっていました。
しかしそのテンションは「お相手への希望」でダダ下がりすることになります。
⚫️共働きを希望します。結婚後にパートや派遣社員・専業主婦になる・なりたい方はお断りします。
⚫️子供は欲しいです。ただし産後も仕事を続けてください。
⚫️お見合いの場で無関心・無反応・携帯弄りが相手に見受けられた場合、仮交際は即お断りします。
「できれば奥さんに結婚後も働いて欲しい」という希望は、男性のほとんどが持っているでしょう。それ自体は別にいいのです。
ただ、
言い方あるやろがい!!
「お仕事が好きな方に惹かれます」「一人暮らしが長いため、家事はかなりできます。育児もしっかり分担するので、結婚後も共働きしてくださる方だと嬉しいです」とかあるやろがい!
プロフにこんな書き方したら、
いくら若くてスペックが良くても、
私の天才的な頭脳によって、彼のプロフはこだわりを残しつつもふんわり万人ウケする感じに修正されました。本来のスペックの良さもあるし、これでお見合いは組めるはずだ。
プロフが公開され、
そこそこ申し込みも入り、
私はやりきった感にあふれていました。
しかし、それは甘かったのです…。
一人目のお見合いが終わりました。
彼が「写真通りに綺麗な方で、にこやかで話しやすかったです」と言ってきたので、私は胸をなでおろしました。
「そうだったんですね。それでは、交際希望でよろしかったですか?」
「いえ、お断りで。」
お前今なんつった!?
※会員様にお前とか言ってはいけません
「彼女は俺の話を楽しそうに聞いてくれましたが、向こうから話題を振ってくることがありませんでした。俺は自立した女性を求めているので、ああいう女子アナ系の方はお断りです。」
色々言いたいことはありましたが、まだ1回目だったので、私は流すことにしました。
2人目のお見合いでは仮交際が成立し、ホッとした私でしたが、2回目デート終了後、すぐに彼からお断りのメッセージがありました。
「趣味や食の好みが違いすぎて共通点が無いので、彼女とは合わないと思います。」
「は、はあ…例えばどういう点が合わなかったんでしょうか?」
「俺はペペロンチーノが好きですが、
彼女はカルボナーラが好きなんです。」
き、き、
キングオブ
どうでもええ!!!!
パスタ好きで共通点あるやないか!
どっちも、
で共通点あるやないか!!
3回目のお見合いも速攻でお断り。
「彼女は写真とだいぶ違った上、時間ギリギリまで携帯をいじっていて、大変態度が悪かったです。お見合い前から断ると決めていました」
携帯でプロフ見て何喋るか考えてたんかもしれんやないか!
4回目もお断り。
「彼女は政治に興味が無いようです。知的好奇心が薄い方とは話が合いません。軽減税率の話も分からない方で驚きました。」
こっちはあなたがお見合い初回で政治の話をしたことに驚きましたよ!
ちなみに彼には伝えませんでしたが、3人目と4人目は向こうからもしっかり断られていました。お見合いのお相手も、すぐにムッとしたり、上から目線でジャッジしてくる彼の態度に辟易していたのです。
5回目は、彼は交際したかったのですが、
向こうからお断り。
彼に理由を聞かれたので、
「フィーリングが合わなかったので」
というお相手の言葉を伝えたら、
「一回で断るなんて!一時間のお見合いで何が分かるんでしょうか!?」
お、お、
お前が言うなやーーーーーー!!
※会員様にお前とか言ってはいけません
イラついてiPadを地面に叩きつけそうになった私を、所長が「よーしよしよし、よーしよしよし」とムツゴロウさんのようになだめてくれました。
神経質な彼は、お見合い相手だけでなく、私たちにも攻撃的でした。所長にはすごく低姿勢なのに、なぜか女性社員には当たりがきつく、ちょっとしたことですぐキレるのです。
ストレスが溜まった私たちは、
腐ったパイ生地を菊練りにし始めました。
※今日は水曜どうでしょうが分からない人は全員置いていくスタイルです
しかし、ちょうどその頃。
彼も実は、婚活がうまくいかないことについて、悩んでいたのです。
「自分はもしかしたら、女性が苦手なのかもしれない」
誰に会ってもすぐに
「この人とは無理だ」と思ってしまう彼。
実は、彼のお母様は、
結構な教育ママでした。
勉強ができないと、いつも「あなたのために私がこれだけしてあげているのに、どうしてできないの!?」と激昂されていた彼。叩かれることもよくあり、彼は「真面目ないい子」を必死で演じるようになりました。
親に反抗できず、人の気持ちを察するのが苦手だった彼に比べ、妹は空気が読めてとても要領が良いタイプ。家を改装するときも1番いい部屋をもらい、自分よりずっと親から可愛がられているように思えました。
家庭では居場所がなかった彼は、学校でもボス的な女生徒のグループに目をつけられてイジメを受け、いつ転生トラックに轢かれてもいいような、わりと暗めの小・中学校時代を送っていたのです。
ある時女ボスのあまりのイジメに堪え兼ね、彼が彼女に暴力を振るってしまったことがありました。もちろん大問題になり、女ボスも彼も先生からかなり怒られました。
その時のことです。
あんなに女ボスと仲良く結託して
自分をいじめていた女性徒たちが、
「私たちは関係ありません!
悪いのは彼女です!」と手のひらを返し、
女ボスを仲間外れにしたのです。
あれが、彼に女性不信を植え付けた、
決定的な出来事だったのかもしれません。
実家から独立して自分で稼ぐ今となっては、誰からも「キモい」なんて言われないし、いじめられることもない。背は伸びてシュッとしたし、男友達はたくさんできたし、すっかり丸くなったお母さんは「あの時は本当に厳しくしてごめんね」と言ってくれる。
お母さんに怯え、妹に嫉妬し、
クラスメイトに苦しめられた時代は、
とっくの昔に終わっている。
それでも彼は、
どうしても女性が苦手なのです。
感情的な女性は昔のお母さんを連想するので苦手だし、奢られて当然の世渡り上手な女性を見ると妹を思い出す。
そもそも、笑顔で仲良くしてくれても、女は何を考えているか分からないのです。女ボスに手のひらを返した女性徒たちのように、都合が悪くなれば一瞬で自分から離れてしまうかもしれない。
結婚したいのに、女性を信じて裏切られるのが怖かった彼は、何度お見合いしても、誰と会っても、3回目のデートまで進むことが出来ませんでした。
彼が過去の亡霊に捕まって抜け出せなくなっていた頃、ちょうど、36歳のバリキャリさんも、同年代のハイスペさんと交際を続けるか悩んでいました。
ハイスペさんはハイスペなので(日本語おかしい)仕事が忙しい。できるなら奥さんに家事を全部やって欲しいけれど、忙しく働く彼女は家事を分担したい。
2人が交際終了になったので、私はブログでお相手を募集してみないかと彼女に持ちかけました。
人の悪口を全く言わず、取次一つにも丁寧にお礼を言ってくれる彼女の性格の良さに心底惚れ込んでいた私たちは、絶対に最高の男性を見つけてやると意気込んでいたのです。
次回予告を出し、
彼女の記事が公開直前になったその時。
なんと、彼から連絡がありました。
「その人に会ってみたいです」
彼女に打診すると
「共働きOKで家事も出来るなんて!
嬉しい!よろしくお願いします!」
と返事が返ってきたので、私は内心(いやあなたには絶対もっといい人がいます。そいつは結構こじらせている面倒な男です)と微妙な気持ちになりながらもお見合いを組みました。
※会員様のことをそいつとか言ってはいけません
まあいい。
どうせ彼は今回もすぐに断るだろう。
このお見合いが終わったら、
彼女の紹介記事をアップすればいい。
その私の予測は、
見事に裏切られることになりました。
彼のプロフィールから「御朱印集めが趣味」という一文を発見した彼女は、今までに集めた御朱印をどっさり持って行き、「見て見てーーー!私も御朱印集め大好き!」とテーブルにバーっと広げたのです。
今までのお見合いでは彼が心を開いていなかったので、お相手とは毎回表面的な会話で終わっていました。しかし、彼女は最初から誰にでも自然体で心を開けるタイプでした。
お見合いで鉄板の話題は「共通点探し」ですが、2人には、御朱印集め以外にもかなりの共通点がありました。
好きなアニメや漫画がかなり被っていたり、同じテレビ番組を見ていたり、さらに「どちらもはてブ経由で入会した」というかなりニッチな共通点まで見つかり、あまりに意気投合した2人は、お見合い中に次のデートの予定も立てたほどでした。
※はてブが何か知りたい方はこちら⭐️
問題はここからでした。
彼女は彼をとても気に入ったので、彼以外からの申し込みを全て断り、彼とだけデートをしていました。
しかし、彼はまだまだ他の方とお見合いを組んでいました。
「彼女とはすごく気が合う。
でも、この人に決めていいんだろうか」
そうです。
彼は、
沢山お見合いが組める人が発症しがちな
「もっといい人いるかも病」
に罹患していたのです!
※この病気の処方箋はこちら
2人が何回かデートを重ねた後、
彼女から「彼と一緒にいると、すごく自然体でいられる。彼が良かったら、真剣交際に進みたいです。」とメッセージが来て、私は頭を抱えました。
片方が真剣交際をしたいのに
片方にはまだその気がない。
これは本当に伝え方が難しい問題です。
とりあえず、あと2ヶ月は他の人も見たいという彼の意向を聞いて、ドキドキしながら彼女に「まだ早いかも」と切り出したところ、
彼女は
「分かりました。彼の気持ちが1番大事ですもんね。2ヶ月くらい全然大丈夫です。」
と返してきました。
私たちは、
「神メンタルーーーー!」
と叫びました。
大らかで好奇心旺盛で、
いつも自然体で楽しそうな彼女。
彼が実はオタクなのだとカミングアウトしても「行ったことないけど、コミケって楽しそうだね!」と目をキラキラさせて話を聞いてくれる彼女。
ありのままの自分を認めてくれる彼女のおかげで、女性不信が劇的に改善されたのか、彼は人が変わったように穏やかになりました。
ちょっとした取次にお礼を言ってくれたり、旅行に行った際にお土産を事務所に送ってくれたり、攻撃的だった性格が、バファリンと同じくらい優しくなったのです!
あまりの彼の変貌ぶりに、
「これはもはや別人。本物の彼はもう死んでおり、何者かが彼の肉体に寄生しているのではないか」
という説が社内に出回りました。
しかし、
なんということでしょう。
自分の女性観をガラッと変えてくれた、
そんな素敵な人に出会えたというのに、
2ヶ月経った頃、
彼はまだ悩んでいたのです!
彼女といると安心するし、
あんなに性格がいい女性は見たことがない。
だけど、
恋愛のドキドキがあるかと言われると難しい。
(わりとこのパターンは珍しいです。普通は男性が最初に夢中になり、女性が「いい人だけど恋愛感情が無い」と悩みながらお付き合いが続き、成婚退会時には女性の方がメロメロになっている、というのが主流)
「たしかにそろそろ期限だけど、
もう決めないとダメだろうか?
もう少し他を見てはダメだろうか?」
彼からのメールを読んだ私は、
うっすらと笑みを浮かべました。
「なるほど、そう来たか…。
いいだろう。
お前がそのつもりなら、
こちらにも考えがある。」
※もはや完全にお前呼ばわり
私は、彼にメールを送りました。
ーーーーーーーーーーーーー
やっほー⭐️元気?仲人Tだよ⭐️
まだ決められないの?
これ以上時間がかかるようなら、
彼女に他の人とのお見合いを勧めちゃうね!
文句ないよね?
自分だって同じことしてるんだし!
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メールを読んだ彼は、
あまりの動揺に携帯を取り落としました。
彼女が、他の人に会う!?
絶対ダメだ!あんなステキな人、
他のやつも全員好きになるに決まってる!
彼女を誰にも取られたくない!
そう思った瞬間、
彼は突然ドキドキしてきました。
彼女のことを考えると、
何も手につかなくなりました。
デートをしても、
彼女がものすごく可愛く見える。
今まで、彼は、彼女は自分から絶対に離れていかないだろうと安心していました。30歳で身長180、年収600万で有名な大学院も出ている自分のスペックは、婚活界ではかなりの強者のはず。
ジャングルで言えば、
虎のようなものだ。
彼はそう思っていました。
でも、よく考えてみれば、彼女は学歴にも年収にも身長にも全くこだわっておらず、ただただ気が合うからと彼のそばにいてくれているのです。
もし彼女がお見合いをして、
自分より気が合う相手が出てきたら!?
彼女は誰とでも仲良くできそうだけど、
自分は彼女じゃなきゃ絶対にダメだ!
自分は、勘違いしていた!
自分は、
虎なんかじゃなかった!!
ようやく自分の気持ちを自覚した彼は
彼女と真剣交際に入ろうと決心し、
張り切って花火大会に誘いました。
できる限りロマンチックな雰囲気で、
彼女に真剣交際を申し込みたい。
そして、待ちにまった当日!
台風が直撃し、花火は中止になりました。
近くのビアガーデンにたどり着いたものの、
あまりの強風で、メニューとレタスが空へ飛んでいきました。
彼は彼女に、手持ち花火を買って海まで行こうと提案しました。しかし、せっかく海まで行ったのに、いくら頑張っても、強風でライターの火が消えてしまい、花火はできませんでした。
あまりの間の悪さに、
普通の男性なら諦めたかもしれません。
でも、彼は、どうしても今日真剣交際を申し込むと決めていました。
台風がなんだ。
花火の中止がなんだ。
ムードの無さがなんだ。
こんなにデートの計画がめちゃくちゃになっても、笑って「こういうのも楽しいね!」と言ってくれ、どんなに自分がグズグズしていても、何も言わず決断を待ってくれた彼女。
彼女の笑顔が見たい!
どんな状況であっても、
俺は今この場所で、
絶対に真剣交際を申し込む!
彼が彼女に真剣交際をしたいと伝えると、彼女は「今!?」とびっくりしましたが、にっこりして言いました。
「真剣交際をどのくらいしたら、
結論を出す感じですか?」
「えっ…それは全然考えてなかった。っていうかもう俺は〇〇さんしか考えられないから、いつでもいいよ。」
「じゃあ、私、いい夫婦の日の11月22日に入籍したいっていう夢があるんだけど」
「わかった。そうしよう。」
彼女はえへへと笑うと、
「じゃあ、これ、
プロポーズだね。」
と言いました。
2人は照れ臭そうに見つめ合いました。
真剣交際をかなり待たされた彼女でしたが、
待った甲斐あって(?)
仮交際から真剣交際に進むのではなく、一気に成婚退会することになったのです。
「一生、幸せにします。」
強風が吹きすさぶ、誰もいない砂浜で。
2人の影は、
ゆっくりと重なりました。
彼女の実家に挨拶に行った時、
底抜けに明るくて美人のお母さんに
「奇跡!この子絶対結婚しないと思ってたー!お買い上げありがとうございまーす!」
と言われ、
彼が
「このお母さんが彼女をこんな素敵な人に育ててくれたおかげで、自分は過去から救われたのだ」
と、
笑いながら
ちょっとだけ泣きそうになったのは、
また別のお話。
本日も読んでいただき、
ありがとうございました。
(ナレーション)
この番組は、大和出版と、
結婚物語。の提供でお送りいたしました。
このあとは?
水曜どうでしょう最新作が初公開!