東京電力の計画停電を考える
東日本で発生したマグニチュード9.0の大地震によって
日本経済の中心、そして世界経済に強い影響を与える東京を含む
東京電力のサービスエリア(関東1都6県+山梨県+静岡県東部)が
現在、計画停電という状況に追い込まれています。
いつまで計画停電が続くのか・・・実際に停電に遭遇されている方々には
とっても気になるところであるかと思います。
東京電力の電力需給につきまして、私は若干の知識がありますので、
この記事で理性的に考えてみたいと思います。
東京電力の発電設備と現在の可能供給力
まず、東京電力の発電設備ですが、大きくは次の3つに分けられます。
水力発電所:約850万kW
火力発電所:約3700万kW
原子力発電所:約1750万kW
ちなみに他に風力発電所や地熱発電所もありますが、
水力・火力・原子力に比べると発電量は微々たるものです。
さて、総計約6300万kWの発電設備のうち
少なくともどの程度の設備が今回の地震で被害を受けているか
東京電力の[プレスリリース]
から分析してみたいと思います。
(Digital Globe社撮影画像を引用)
まず、今回の地震によって、夏までにはまず復活できないと思われるのが、
福島原子力発電所の計940万kWです。
福島第一原子力発電所:500万kW
福島第二原子力発電所:440万kW
また、今回の地震によって緊急停止している火力設備が
次の計680万kWです。
広野火力発電所(2号機+4号機):160万kW
鹿島火力発電所(2号機+3号機+5号機+6号機):320万kW
常陸那珂火力発電所(1号機):100万kW
東扇島火力発電所(1号機):100万kW
以上の緊急停止している発電施設を除くと、
この段階で稼働可能な発電設備は約4700万kWということになります。
現在の電力需要の最大値が約3500万~4000万kWなので、一見すると
まだ余裕がありそうに見えますが、これがなかなか余裕がありません。
というのも、電力設備には必ず点検・メンテナンス期間が必要になります。
事実、世界最大の原子力発電所である柏崎刈羽原子力発電所の、
2,3,4号機(計330万kW)は定期検査中で稼働していません。
また、水力発電所の設備容量(約850万kW)はあくまで最大値であって、
この大部分を占めている揚水発電所の稼働率は10%程度、
調整池式・貯水池式も50%あればよいところのではないでしょうか。
実際に100%稼働させることは不可能といえます。
一方、中部電力から受け取っている融通電力は計160万kWです。
*通りすがりさんいつもご指摘どうもありがとうございます。
貴方様は本当に素晴らしい知識人で正義の味方です。
「中部電力から」と書いたことで関係各位には多大なるご迷惑おかけしました。
ここに訂正してお詫びいたします。
新信濃変換所:60万kW
佐久間変換所:30万kW
東清水変換所:10万kW
北本連系設備:60万kW
残念ながら全体量に対してドラスティックな効果を与える量ではありません。
つまり、現在の電力消費量に対して
ホントにギリギリの線で運用していると言えます。
残念ながら、東京電力の計画停電は、
とってもリーズナブルな方策と言えます。
一日の電力の需要と供給
電力は一度発電すると、貯めておくことはできません。
つまり発電した電力はすぐに使わなければ無駄になるわけです。
なので、電力会社は電力需要に合わせてその分を発電します。
下の図は、1日24時間の電力の需要と供給の関係を示したものです。
まず、図の赤い線は、電力需要曲線です。
多くの人達が眠ってしまう真夜中に最低となり、
多くの人達が活動する昼間の午後に最高となります。
この最高となるときの電力を最大電力と言います。
電力供給にあたって重要なターゲットとなるのは、この最大電力です。
この最大電力を含めた各時間の電力需要を上回る供給を行えない時、
早期の回復が困難な大停電が発生して
日本人の暮らしと経済に大打撃を与えると考えられています。
以前、カリフォルニア大停電がありましたよね。
さて、上の図には、このような電力需要に対して
電力供給をどのようにやっているかについても示しています。
供給面から見ると、電力には次の三つの種類があります
ベース供給電力:原子力など出力調整が困難な大容量の電力
ミドル供給電力:火力(特にLPG、LNG)などの出力調整ができる電力
ピーク供給電力:水力(特に揚水)などのすぐに稼働できる電力
つまり、原子力発電をベースに、火力発電で出力調整しながら、
水力発電でピークを補うというものです。
このうち、最大電力を確保するための決め手となる重要な電力設備が、
「環境に悪い」「脱ダム」「ダムは無駄」などと
人気取りの政治家や特定のイデオロギーを持つ運動家から
コテンパンに攻撃を受けているダムによる水力発電なんです。
水力発電は、電力の全体的なデマンドに対して
ベースとなるような大きな電力量を供給することはできませんが、
他の電力にはない素晴らしい長所があります。
それは、水を落とすための蛇口をひねれば、
すぐに発電が可能となることなんです。
つまり、電力消費量のピークが現れそうな時に
短時間(4時間~6時間)だけ、すぐさま大きな電力を供給できる
とっておきの電力設備といえます。
阪神で言えば、藤川さんっていったところです。
このようなピーク対応の水力発電所には
調整池式・貯水池式・揚水式の3種類がありますが、
このうち、下図に示す揚水式発電が最強設備と言えます。
揚水発電は、地下発電所とその上下にある貯水池を使った発電方法です。
夜間に余った電力を使って下部貯水池の水を上部貯水池に運び、
昼間の電力のピーク供給時にこの水を下部に落として発電するものです。
河川流量の大小に関わりなく毎日確実に発電できるのが特長です。
東京電力の揚水発電所としては次のようなものがあります。
安曇・水殿・新竜島発電所:90万kW
新高瀬川発電所:128万kW
玉原発電所:120万kW
塩原発電所:90万kW
今市発電所:105万kW
葛野川発電所:160万kW(現在80万kW)
神流川発電所:282万kW(現在47万kW)
このうち、安曇・水殿・新竜島発電所を除けば、
いずれも岩盤の中に掘削された地下発電所で
特に神流川発電所については、私も見学したことがありますが、
高さ52m、長さ33m、長さ216mの世界最大規模の地下発電所です。
日本の電力の根幹をこのような揚水発電所が支えていることを
ここに強調しておきたいと思います。
今後の電力需給の見通し
今後、計画停電をいつまで継続するかは、
今後の電力需給の回復にかかっています。
事故のダメージを考えれば、福島第一・第二原子力発電所の940万kWの
今年中の復活はまずあり得ないと思います。
そんな中、火力発電所のダメージがどのくらいであるのかは
情報がないために何とも言えませんが、報道がほとんどないところを見ると
福島原発に比べれば壊滅的なダメージを受けていないことが期待されます。
早期の回復を願うところです。
また、柏崎刈羽原子力発電所2、3、4号機については
点検が終われば復帰するはずです。
これらが復活すれば、
暖房の季節が終わって電力需要がやや少なくなる5月頃には
計画停電が中止される希望が持てます。
・・・が、
問題は6月~9月までの夏です。
最大電力の大きさと時間帯は季節によって異なります。
今の季節は暖房が必要なため、
少し寒くなる夕方の18時~19時に約4000万kWというピークが出ます。
一方、真夏には、クーラーを使用するため、
最も暑い14時~15時に多い時で約6000万kWというピークが出ます。
これは年間を通してのピークでもあり、
この時期に東京電力やその関連企業のオフィスを訪れると、
電気を消して真っ暗な中で仕事をしている異様な風景が見られます。
このことがマスコミで報じられているのを見たことがありませんが、
電力供給を続けるためにまず自らが省エネを行っているんです。
ちなみに、やや冷夏だった平成21年の東京電力の最大電力は
7月30日14:00-15:00に記録した5450万kWです。
平成22年についてはデータが公表されていないために何とも言えませんが、
通常は、6000万kWに近い需要があります。
つまり、これまで東京電力は、6300万kWの発電設備で
かなりのコストイフェクティヴな運用をしてきたわけです。
また、新潟地震新潟県中越沖地震で
柏崎刈羽原子力発電所が停止した時には、
東北電力から融通電力があったのでなんとか乗り切りましたが、
今年の夏は東北電力からの融通は期待できません。
そんな中で福島第一・第二原子力発電所の940万kWが絶望ということは、
たとえ4月末に計画停電が一時終了したとしても、
今年の夏には確実に計画停電が復活するものと考えられます。
残念ながら↓このような東京は夢のまた夢です。
(Sankeibizから引用)
そんな中、明日はそんな夏を克服するには私達が何をすればよいか?
について考えたいと思います。
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