今月3日、小沢一郎・民主党代表の公設第一秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載など)の疑いで逮捕されました。近く行われるであろう総選挙で政権を取る可能性が高いと言われている野党第一党の代表の公設秘書が逮捕されたのですから、大ニュースとして報道されました。検察の国策捜査ではないか、小沢代表は辞任するのではないか、等等、大きな関心が持たれていますが、ここは、拙速な判断をすべきではないと思います。
この件については、今週初めに発売された週刊プレイボーイ(3月23日号、NO12)で、私のインタビューが次のように掲載されています。「全ての事実関係がハッキリしたわけではないので何とも言えないが、4日までに報道された虚偽記載だけでの逮捕はかなり不自然に感じた。虚偽記載の問題を言い始めたら、与党にも迂回献金だと指摘された問題が多数ある。それとどこが違うのか。検察の無理筋な気がするし、他の狙いがあるのかもしない。」
また、8日(日)に地元で行われた連合山口の春闘大集会に集まった5000人の人達に、私は、「報道されている捜査の嫌疑も、『虚偽記載』から『違法な企業献金』へ、そして『収賄的な金銭の受取り』へと変化しつつある。また、捜査対象も、小沢代表だけでなく、二階・経産大臣を含む自民党国会議員へと拡大しそうだと報道されている。事実関係がハッキリするまで拙速な判断はしないで欲しい。事実関係がハッキリした時には、国民の皆さんが納得できる対応をすることをお約束したい。」と申し上げました。
現在も、毎日毎日、新しい事実関係がリークされて報道されたり、捜査の対象が色々なところに広がっていたりして、ハッキリしたことは依然として言えません。しかしながら、本件について留意しておかなければならないこととしては、以下の3つの点を指摘したいと思います。
先ず、第一点は、本件が、容疑者逮捕を含む強制捜査をするほど重大な刑事事件であるのか、についてです。この点については、5,6年前に自民党長崎県連の違法献金問題を捜査して、その途中で最高検察庁検事に栄転した(実質は、「飛ばされた」)郷原・元検事が、週刊朝日(3月20日号)で次のように解説しています。
即ち、「虚偽記載」容疑については、「政治資金規正法は『寄附した者』を収支報告書に記載することとしており、寄附の資金を誰が出したのかについては報告書に記載する義務はない。」として違法性に疑問を呈し、「今回の事件が、政治資金規正法違反として特に悪質なものと言えるのか、それ以上のプラスアルファの事件があるのか、いずれかでなければ、・・・現在までの報道を見る限り、この事件が特別に悪質には見えません。」と言っています。
私も、郷原氏と同様に感じています。即ち、これまで何度となく、自民党国会議員を中心に「迂回・紐付き献金」が指摘されてきたにも拘らず、捜査当局は何の行動も起こしてきていません。政治家個人に対する献金を禁止されている企業・団体と政治家個人の資金管理団体の間に介在する政治団体が、「実体のないものか」又は「実体はあっても軒先を貸しているのか」の違いで違法か合法か決まる、というのも変な話だと思います。
次に、第二点は、本件が、いわゆる「国策捜査」なのか、についてです。この点については、元警察庁長官である漆間・官房副長官が、5日の記者との懇談で「自民党側は立件できない。」と語った(漆間副長官は、特定の政党名を挙げたことは否定しています。)ことから、特に疑惑が深まっています。一般の国民にとっては、検察庁は「正義の味方」と思われているかも知れませんが、「国策捜査」の疑惑はこれまでも何度かありました。
例えば、先日最高裁で無罪が確定した日本長期信用銀行頭取の背任等事件もその一つです。バブル崩壊で破綻した長銀の頭取らが、99年に背任、証券取引法違反の罪で起訴された事件は、破たん処理に多額の税金を投入することから、米国で行われた経営者への刑事責任の追及と同様に、日本の銀行経営者に対しても責任追及が行われたものです。検察当局者も「これは国策捜査だ」と言っていた、との話もあります。
他方、政治団体の職員や派閥の会長代理しか起訴しなかった日歯連の1億円ヤミ献金事件については、検察審査会が「検察庁が橋本元総理を起訴しないことは不当である」との結論を出しても、検察庁は起訴しませんでした。この例は、「国策不捜査」とも言える話かもしれません。冒頭指摘した自民党政治家によく見られる「迂回・紐付き献金」に対する「不捜査」も、それに当たるのかもしれません。
私の経験の中でも、「検察庁が政治的に動いた」と感じたことがありました。その一つは、3年前の「偽メール事件」の際の東京地方検察庁の動きです。その日、民主党の永田議員が委員会で昼前にメールの存在を示して小泉首相に迫ったのに対して、その僅か4時間後、東京地検は「メールや指摘された事実関係について全く把握していない」と記者会見で発表したのです。いつもなら、「捜査に関しては一切コメントできない」と言っているにも拘らずです。
もう一つは、2年前の松岡利勝・農水大臣の自殺の際の検察の動きです。あの時、東京地検は、「松岡氏の関係者に対する取調べの事実は無く、その具体的予定も無かった。」と記者に語りました。更に、時の総理の安倍総理は、この東京地検の説明を捻じ曲げて、「東京地検から『これから取調べを行う予定も無い』という発言があったことを承知している。」と言って、将来の捜査可能性までも否定して、事実上、捜査をストップさせてしまいました(07年6月1日付け「今日の一言」参照)。
「国策捜査」は、起訴されて裁判になれば、裁判所でチェックできますが、裁判所の結論が出るのは、上記のように捜査が終わってから相当時を経てからです。政権交代があれば、後から「国策捜査」や「国策不捜査」を検証できるでしょうが、やはり捜査から時を経てからです。捜査途上にある検察庁をチェックする機関が事実上存在しない現行制度の下では、進行中の「国策捜査」をチェックするのは国民の良識しかない、と言えそうです。
第三点は、以上の点は、検察の対応を批判しているのですが、民主党側、小沢代表側に反省すべき点はないのか、についてです。この点については、多くの新聞社社説や有識者が指摘しているように、小沢代表側の金権体質問題、或いは、業者との癒着問題があると思います。法律違反とか、違法行為とまでは行かなくても、政治の正当性、妥当性、公平性、信頼などを疑わせることになりはしないか、という問題だと思います。
小沢代表は、「資金の出入りを透明性を持って全て明らかにしていれば、それで良い。後は、有権者がその資金の出入りの妥当性を判断すれば良いのだ。」という考え方に立っていると思います。それはそれで一理あると思いますが、例えば、公共事業を取扱う一つの企業が多額の献金を毎年一人の政治家に献金することが、その政治家の政治活動の正当性等を疑わせることになることも否定できないと思います。影響力のある政治家なら、なお更一層注意すべきことです。
多分、そのことが、マスコミが世論調査をした際、「小沢代表の説明に納得できない」と答えた人が8割近くいたことに繋がっているのではないか、と思います。この点について、小沢代表も、民主党も、有権者の気持ちにシッカリと対応しなければ、有権者の支持を失ってしまうことになるのではないかと心配しています。