既存政治への拒否感 欧州におけるポピュリズム アメリカでは暴言を弄する「変わり種候補」への支持 | 碧空

既存政治への拒否感 欧州におけるポピュリズム アメリカでは暴言を弄する「変わり種候補」への支持


ポピュリズム
(欧州の主な反EU「ポピュリズム」政党 2014年欧州議会選挙より 【1月6日 産経ニュース】)

【「欧州を1匹の妖怪がさまよっている。ポピュリズムという名の妖怪が」】
「フランス革命」は一般的には、「自由・平等・博愛」の精神を広め、その後の市民社会や民主主義の基礎を形づくったと言われていますが、世界における民主主義確立の重要な舞台となったそのフランスでも、民主主義への価値観に揺らぎが見えているようです。

****フランス国民は独裁政権も歓迎****
フランスの民主主義は、終焉を迎えつつあるようだ。
世論調査によると、国が陥る深刻な問題を解決するためには独裁政権という選択肢もあり得ると回答した国民が40%に上った。

世論調査会社IFOPが成人1000人を対象に聞き取りを実施。以下の状況にどの程度賛同できるか答えてもらい、回答は支持政党ごとに集計した。

例えば質問の1つは、「選挙で選ばれた政治家がフランスを衰退の危機から救うために必要な改革を実行できない場合、独裁者に政権を託せるか」というもの。全体では40%がイエスと回答し、極右政党・国民戦線支持層では賛成は60%に上った。

また、「必要だが不人気な改革を行うため、選挙を経ないテクノクラート(実務家)が統治するのは許せるか」との質問には67%が賛成。最大野党の国民運動連合(UMP)支持層は80%もの支持を表明し、与党・社会党支持者も54%が賛成した。

フランス革命も真っ青の民主主義軽視は、財政再建や構造改革を一向に断行できないオランド政権への反発かもしれない。【11月17日号 Newsweek日本版】
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フランスに限らず欧州全体において、経済危機や反移民感情を背景に、これまでの「民主主義」を担ってきたエリート政治への不信感を前面に出したポピュリズムが台頭しています。

熱狂的なポピュリズムの嵐は、往々にして少数派に不寛容で、独裁的な政治権力を生む土壌ともなります。

****欧州で広がるポピュリズム EU不信集め各国で台頭 左・右派の政党「大衆利益」叫ぶ****
「欧州を1匹の妖怪がさまよっている。ポピュリズムという名の妖怪が」。マルクスが19世紀に記した「共産党宣言」の書き出しをもじった、そんな表現が欧州のメディアで使われるようになった。念頭にあるのは、欧州連合(EU)各国の議会選などで近年、相次ぎ躍進するポピュリスト政党だ。

ただ、ここで注目すべきなのは、選挙結果や世論調査の数字だけではない。ポピュリズムが台頭する背景には、グローバル化する経済の恩恵を実感できない多くの人々の不満がある。ポピュリスト政党はそうした民意をくみ取り、刺激することで、欧州統合に対する異議申し立ての源になっている点こそが重要だ。

こうした政党は、保守、革新という既存の政治思想の垣根を越えて存在する。

例えば、ギリシャのアレクシス・チプラス首相が率いる急進左翼進歩連合(シリザ)と、フランスのマリーヌ・ルペン党首の右翼政党・国民戦線(FN)は、移民対策などについては正反対の政策を掲げている。だが、一方で明確な共通点がある。エリート層がEUのかじを握り、国家の権限を縮小するような欧州統合のあり方こそが「大衆」の利益に反しているとどちらも主張しているのだ。

人々の不信感は、すでにEUを揺るがし始めた。ギリシャを発信源とした財政危機と、シリアなどから国境を越えて到来する難民・移民をめぐる危機。今年、欧州を相次いで襲った二つの危機は、ポピュリズムと深く関係している。

ギリシャ危機に際し、シリザが掲げた看板は「反緊縮」だった。共通通貨ユーロの信用を保つため、EU側から財政赤字の削減を要求されたギリシャは、福祉カットなどの緊縮策を受け入れ、国民の暮らしは困窮した。チプラス氏らは「EUが押しつける緊縮策はギリシャ人からの富の収奪だ」と訴えることで共感を得て、政権を獲得した。

後にチプラス氏は、新たな支援と引き換えに緊縮継続は受け入れた。ユーロやEUからの脱退までは国民も望んでいないと判断し、譲歩した。だが、再度の総選挙で勝ち、政権継続を決めた今も、エリート層やドイツなど債権国の横暴に対し、国民の利益を代表できるのは自分たちだ、という立場は変えていない。

一方、「右」のポピュリスト政党は「反移民」を掲げることが多い。EUでは、域内でヒトとモノの自由な動きを保障するのが大原則だ。それを「国境の外から移民を押しつけ、国民から職を奪っている」と非難することで、グローバル化の恩恵を感じられない人々を引きつけている。

ルペン党首率いるFNは長年、移民排斥の主張を唱えてきたポピュリスト政党の典型だ。だが今年、紛争下のシリアなどを逃れた人々が欧州に押し寄せ、EUの移民難民対策が後手に回る事態に陥ると、これらの政党は人々の不安感の受け皿となり、勢いづいた。

政権の求心力を強めるため、ポピュリズムを採り入れる動きも目立つようになった。難民危機に際して国境をフェンスで封鎖、「キリスト教中心の欧州の価値を守る」と主張するハンガリーのオルバン首相はその代表格だろう。

英国でも、反移民や反EUを掲げる「英国独立党」(UKIP)だけでなく、キャメロン首相を支える政権与党、保守党内にも強硬な反EUを唱える一派がいる。英国のEU残留の是非を問う国民投票が2017年末までに実施される予定だが、結果次第では、英国離脱という激震がEUを襲う可能性がある。

民意が政治の決定に反映されにくい「民主主義の赤字」が、ポピュリズムを勢いづかせる。EUがその赤字解消に真剣に取り組んで改革をはからないと、欧州統合は挫折しかねない。

 ■ポピュリズムとは――エリート政治に対抗
ポピュリズム(populism)とは一般的に、「エリート」と対立する集団として「大衆」を位置づけ、大衆の権利こそが尊重されるべきだとする政治思想をいう。ラテン語のポプルス(populus)=「民」が語源で、日本語では大衆主義、人民主義と訳されることもある。

このような考えを掲げる政治家は、ポピュリストと呼ばれる。既存の政治システムへの不信感を原動力としており、保守(右派)、革新(左派)いずれの政治潮流にも存在するとされる。

ポピュリズムはしばしば、「大衆迎合」「大衆扇動」といった意味でも使われる。だが、有権者の関心に応じて主張を変えたり、大衆の危機感をあおったりする政治手法は、ポピュリストとみなされない政治家も用いるものだ。

欧州などで台頭しているポピュリズムの最大の特徴は、「大衆」を善良な集団とし、腐敗した悪いエリートから受ける不利益に立ち向かう集団として強調する点だ。複数の集団による、互いに絡み合う利害の調整は「汚い」と排除する。

また、「大衆」を一枚岩ととらえるため、その中の少数派の意見は尊重されなくなる傾向が強い。【11月10日 朝日】
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【左右両極に分裂した社会の反エリート狂騒劇】
既成の政治システムへの不信感は、アメリカにあっても保守草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」によって前面に押し出せれてきましたが、次期大統領選挙においても、共和党では政治的“素人”のトランプ氏やカーソン氏がトップを走り、民主党では米議会でただ一人「民主社会主義者」を名乗る急進左派サンダース氏に一定の支持が集まると言った、「アウトサイダー」がもてはやされる異様な展開となっています。

****(分断大国 2016米大統領選)アウトサイダー候補、台頭****
次期米大統領選で異変が起きている。政治家でない「アウトサイダー」がもてはやされ、既存政治への嫌悪が渦巻く。

保守派の一部では排他的・差別的発言がむしろ歓迎され、リベラル派では「政治革命」を唱える左派候補に一定の支持が集まる。人種の壁や所得格差が深刻になり、寛容が失われつつある。

 ■共和 差別的発言を許容
「大統領になれば国境の安全を守るというが、就任までどうするのか」
10月23日の米アイオワ州カウンシルブラフス。共和党から名乗りをあげるテッド・クルーズ上院議員(44)の集会で真っ先に質問をぶつけたのは、ラリー・ストーラーさん(72)だ。

ストーラーさんは「米国は移民の国だが、我々の文化を学び、同化することが前提。今ではスカーフをしたままのイスラム教徒の女性もいる」と違和感を持ち、既存の政治家が行動しないと反発する。

「ワシントンの政治家は我々の願いから完全に離れている」。保守草の根運動の「ティーパーティー(茶会)」から支持を受け、共和党の上院議員でありながら公然と党執行部を批判するクルーズ氏に期待する。

クルーズ氏も、自らを「アウトサイダー」だと強調する。ドナルド・トランプ氏と支持率でトップを競う元神経外科医のベン・カーソン氏(64)も政治経験ゼロだ。

既存の政治への不信感は、日本の比ではない。米世論調査会社ギャラップによる10月の調査では、オバマ大統領への支持率こそ5割近くあるものの、米議会への支持は13%にとどまる。父と兄が大統領という名門政治一家のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が苦戦しているのも、そうした空気を反映している。

カーソン氏は信仰を熱く語り、熱心なキリスト教徒に特に人気だ。「イスラム教徒にこの国を委ねることには賛成できない」などと発言。

米国では個人や団体を中傷、軽蔑しないよう政治的に配慮した発言を「政治的公正さ」と呼び、尊重してきたが、カーソン氏は「この国は『政治的公正さ』を気にしすぎている」とも公言する。差別的とも映る発言を繰り返し、むしろ支持は上向いている。

政治、宗教、人種、貧富など、米国の分断は長年かけて徐々に進んできた。そんな中、オバマ氏は「一つのアメリカ」を掲げて7年前に大統領に当選したが、当時よりむしろ社会の分断は深刻の度を増している。

政治とメディアの関係に詳しい米ペンシルベニア大のキャスリン・ジェイミソン教授は指摘する。「従来は、行き過ぎた発言には党内からも制裁があったが、暴言が当たり前になっている。そうした人物が選ばれれば、米政治で前例のない事態だ」

 ■民主 急進左派にも支持
「工場という工場が閉鎖された街」「炭鉱は全て掘り起こされ、労働組合員もこそこそ去って行った」
1980年代に発表されたビリー・ジョエルの「アレンタウン」という曲で歌われた街が、米東部のペンシルベニア州にある。

アレンタウンにある老舗レストラン。10月13日にあった民主党候補のテレビ討論会を見ようと、バーニー・サンダース上院議員(74)のサポーター200人超が詰めかけた。

「あなたや米議会はウォール街を規制できずにおり、ウォール街に議会が支配されている」。サンダース氏が、ウォール街との関係が深いとされるヒラリー・クリントン氏(68)を批判すると、ノーマン・サラチェックさん(76)は、飲んでいたマティーニを置き、「そうだ!」と叫んで仲間とハイタッチした。

サラチェックさんの父親はアレンタウンで繊維工場の副社長を務め、サラチェックさんもこの街で生まれ育った。1850年代に「ベスレヘム鉄鋼会社」が巨大な工場をつくり、全米2位の鉄鋼生産量を誇った。第1次、第2次世界大戦での戦艦、ニューヨークのロックフェラーセンターに使われた鉄鋼もここで製造。米国の力の象徴とされた。

街は潤い、サラチェックさんも豊かな家庭環境で医者を目指し、心臓外科医として開業した。だが、第2次大戦後のアレンタウンでは日本など海外からの安価な鉄鋼に押され、工場が次々と閉鎖した。

貧困率は全米平均の倍近い約28%。高騰する医療費で治療に来られなくなる患者、うなぎ登りの薬代。「社会のゆがみ」を医師として体感してきた。

2008年にはオバマ氏に期待し、戸別訪問で「チェンジを実現しよう」と訴えた。だが、金融危機後の銀行救済に踏み切ったオバマ氏に失望。そんなサラチェックさんの心に、富裕層への減税措置の廃止や、公立大授業料無償化など「所得再配分」を唱えるサンダース氏の訴えが響いた。

サンダース氏は、米議会でただ一人「民主社会主義者」を名乗る急進左派。無所属を通す「米議会のアウトサイダー」だ。共産主義や社会主義という言葉への拒否反応が非常に強い米国で、サンダース氏を支援することに抵抗がないのか聞くと、「市民の生活を踏みにじる企業資本主義の方が問題だ」と言い切った。

かつて繁栄した「ベスレヘム鉄鋼会社」跡地。いまはカジノが進出するなか、14年前に破産・閉鎖された工場の一部が保存され、さびついた巨大な鉄くずの前にパネルがあった。欧州やメキシコなどから来た移民も、新しい職と安定した生活を得て、「社会の一員となっていった」と書かれていた。いまや、そんなアメリカンドリームはかすみつつある。【11月7日 朝日】
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既成政治に不満を抱く人々をひきつけるのは、既成政治に「ノー」と声高に叫ぶ「変わり種候補」です。
そこにあるのは理性というよりは感情です。

*****「フィーリング」第一の大統領選****
アメリカでは世論の両極化か進み現状にノーと言える指導者を求める空気が生まれている
選挙を決するのは理性か感情か

・・・・民主党支持者も共和党支持者も現状に不安や不満を抱き、変化を望んでいるようだ。
アメリカ国民はかつてないほど極端な党派対立に陥っている。各地で行われる討論会は、相手政党に対する罵倒合戦と化すことがよくある。(中略)

「変わり種候補」に託す希望
左右両極に分裂した社会の反エリート狂騒劇、2016年大統領選へようこそ。

有権者は二大政党に不満を抱くあまり、「ノーと言う党」を立ち上げたに等しい。そして現状に「ノー」を叫ぶだけのお騒がせ候補者たちが、今の政治プロセスと既存政治家に幻滅した有権者の受け皿となっている。(中略)

今のアメリカでは理屈よりも「感じ」がものをいう。エリートは信用できない、「あっちの党」は邪悪だ、一部の人間が国民の運命を支配している。そんな「感じ」だ。

来年の大統領選は、こうした「感じ」に支配されたまま民主・共和両党の陣取り合戦に突入するだろう。今のところ、民主党が制しそうな州には選挙人の数が多いところが目立つ。つまり民主党が優勢だ。

しかしクリントンが晴れて大統領になったとしても、国民の間に潜む不信の「感じ」は消えそうにない。

誰が勝とうとも、既成の政党や政治家に反旗を翻した国民の反エリート感情は残る。両極化した国を率いていくのは困難な仕事だ。外交政策もさらに両極化するだろう。

世界は米大統領選に注目すべきだ。そして世界一の経済大国で最も重要な民主国家であるアメリカがどこへ向かうかを、慎重に見極めてほしい。【11月17日号 Newsweek日本版】
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【その先にあるものは・・・・】
日本にあっても、欧州のポピュリズムの台頭やアメリカにおける「アウトサーダー」「変わり種候補」への支持と同じような状況でしょう。
ネット上にあふれる、従来は当然のものとも思われていた価値観への批判。そこでは極端であることは歓迎され、攻撃的であればあるほど多くの支持が集まります。かつての「維新」に対する期待も。

第2次大戦におけるファシズム、冷戦下の共産主義との戦いは過去のものとなり、既成の政治ステムの正当性を示す「敵」がいなくなったこと

社会で深まる格差。政治やメディアに自分たちの声が反映していないという不満

各個人がインターネットを通じて情報発信が可能となった社会

そうした政治・社会情勢の変化をうけた流れでしょう。
既成の政治システムが現状に対応し切れていないのは事実であるにしても、声高に「ノー」を叫ぶその先に何があるのか・・・不安を感じます。