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Core i9-12900Kの性能&消費電力に驚愕! Alder Lakeぶん回しにふさわしいZ690マザーと一緒に徹底検証
Core i9-12900K+MSI「MPG Z690 CARBON WIFI」で新世代のPC自作へ text by 加藤 勝明
2021年11月5日 00:00
Intelの第12世代Coreプロセッサー、通称“Alder Lake-S”がついに発売となった。Intel初のメインストリーム向け10nm Enhanced SuperFinプロセス(正式な呼称は“Intel 7”プロセス)というだけでなく、Pコア(高性能コア)とEコア(省電力コア)という2種類の性質の異なるコアを組み合わせたハイブリッドデザインのCPUである。さらにDDR5やPCI Express Gen5の採用など、新要素山盛りの意欲的な仕様となっている。
このAlder Lake-SでPCを組む場合に絶対に必要になるのが新しいIntel 600シリーズチップセットを搭載したマザーである。Alder Lake-Sはダイの大型化に伴いソケット形状もLGA1700という新形状に変更され、チップセットもUSB 3.2 Gen 2x2をサポートした新モデルに更新されたのだ。11月4日に販売が始まるAlder Lake-Sはすべてオーバークロックが可能なK/KF付きモデルで、合わせて発売されたマザーはすべてオーバークロックに対応した「Z690」チップセット搭載マザーとなる。
今回はAlder Lake-Sのベンチマーク速報に加えて、Alder Lake-S自作の要となるマザーのうち、注目の1枚を簡単なベンチを交えつつレビューしてみたい。各社さまざまな趣向を凝らした製品を投入しているが、ここでは、スペックや装備のバランス的に“ちょうどよい”感のあるMSIのアッパーミドル製品「MPG Z690 CARBON WIFI」に注目してみた。
MTP 241WのCPUに負けない電源回路を備える重厚な作り
Alder Lake-SはPコアとEコアを組み合わせ、Intel製メインストリームCPUとしては初めて物理コア数最大16基に到達したCPUだが、同時に消費電力も前世代と比較してもかなり上昇している。消費電力まわりの背景を少し解説すると、Alder Lake-SではCPUが消費できる電力の評価基準が変わりっている。従来のTDPおよびPL1はPBP(Processor Based Power)と呼ばれる仕様になり、PL2はMTP(Maximum Turbo Power)と呼ばれるようになった。そして、第12世代CoreプロセッサーではMTPを長時間維持できるようなシステムが望ましいとIntelはメーカーに働きかけている。最上位のCore i9-12900KのMTPは241W(PBPは125W)と非常に高いため、各マザーメーカーはCPUの電源回路の作り込みに余念がない。
MSIもこのMPG Z690 CARBON WIFIを含め、全モデルについて1世代前のモデルよりも電源回路の構成を強化。MPG Z690 CARBON WIFIの場合は18+1+1フェーズ、75A SPS対応の強力なものを実装している。安心してCore i9-12900Kを全力で回せる設計と言えるだろう。
オンボードの装備はバックパネル側にUSB 3.2 Gen 2x2やWi-Fi 6(設計的にはWi-Fi 6E対応)、さらにケース前面のUSB Type-C用にUSB 3.2 Gen2のヘッダを備えるなど今時の要素はすべて備えている。
またMPG Z690 CARBON WIFIは5基のM.2スロットを搭載しており、NVMe M.2 SSDだけでも大きなストレージプールを構築することができる。しかも5基のうち4基はPCI Express Gen4動作(残りはGen3)となっているため、速度面でも十分なものが確保できる。
そのほかピンヘッダの類は定番かつ必要なものを十分な数揃えている。Z690なのでCore i9-12900KのOCにも挑戦できるが、オンボードの電源/リセットボタンがない点は少々残念だ。
初物ゆえの制約もあるがDDR5は定格どおり動作
MPG Z690 CARBON WIFIのレビューを行なうにあたり、以下のようなパーツを用意した。メモリはDDR5-5200対応モジュールだが、クロックや電圧の設定はすべてAuto任せとし、2枚挿しでDDR5-4800として運用している(後述)。CPUのパワーリミット設定に関しては近年のIntel製CPUを検証するにあたってまず頭を悩ませるところだが、MSI製マザーはデフォルト設定がパワーリミット無制限設定であるため、今回もそれに従った。比較対象としてRocket Lake-SおよびZen 3世代の現行モデルから、Alder Lake-Sの3モデルに競合するものをすべてピックアップした。マザーとメモリ以外の要素は極力同じにしている。
CPUクーラーに関してもLGA1700に対応したものが必須になるため、同じMSI製の簡易水冷クーラー「MPG CORELIQUID K360」も用意している。
CPU | Intel Core i9-12900K(8P8Eコア24スレッド) Intel Core i7-12700K(8P4Eコア20スレッド) Intel Core i5-12600K(6P4Eコア16スレッド) |
メモリ | Kingston KF552C60BBK2-32 (PC5-41600 DDR5、16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition |
ストレージ | Western Digital WD_BLACK SD850 WDS100T1X0E [M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB] |
電源ユニット | Super Flower SF-1000F14HT (1,000W、80PLUS Titanium) |
OS | Windows 10 Pro 64bit版 |
CPU | Intel Core i9-11900K(8コア16スレッド) Intel Core i7-11700K(8コア16スレッド) Intel Core i5-11600K(6コア12スレッド) |
マザーボード | Intel Z590搭載マザーボード |
メモリ | G.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX (PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition |
ストレージ | Corsair CSSD-F1000GBMP600 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB、システム用] +Silicon-Power SP002TBP34A80M28 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、2TB、ゲーム用] |
電源ユニット | Super Flower「SF-1000F14HT(80PLUS TITANIUM、1000W) |
OS | Windows 10 Pro 64bit版 |
CPU | AMD Ryzen 9 5950X(16コア32スレッド) AMD Ryzen 9 5900X(12コア24スレッド) AMD Ryzen 7 5800X(8コア16スレッド) AMD Ryzen 5 5600X(6コア12スレッド) |
マザーボード | AMD X570搭載マザーボード |
メモリ | G.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX (PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2) |
ビデオカード | NVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition |
ストレージ | Corsair CSSD-F1000GBMP600 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB、システム用] +Silicon-Power SP002TBP34A80M28 [M.2(PCI Express 4.0 x4)、2TB、ゲーム用] |
電源ユニット | Super Flower「SF-1000F14HT(80PLUS TITANIUM、1000W) |
OS | Windows 10 Pro 64bit版 |
前述のとおり今回はMPG Z690 CARBON WIFIで動作確認がとれているKingston製のDDR5-5200モジュールが同マザーと一緒に送られてきたのでこれを使って検証に臨んだが、結論から言うとDDR5-5200で動かすことはできなかった。設定の勘所があるのかもしれないが、BIOSでXMPを有効にしただけではPOSTが通らなかった。そこでメモリまわりは自動認識設定として、その設定で適用されたDDR5-4800として運用している。
DDR5-4800ならばCPUの定格設定ではあるが、メモリコントローラがメモリクロックの半分(Gear 2相当)で動いているので、まだ伸びる余地は残されている。Alder Lake-Sでメモリの限界に挑みたい人はもう少しBIOSが熟成されるか、ノウハウが蓄積されるまで辛抱かもしれない(それ以前にモジュールの流通が少ないという噂だが……)。
また、DDR5-4800動作になったのはDDR5モジュール2枚挿し時のみで、同モジュールを4枚挿した場合はDDR5-4000動作となった。Intelの資料でもDDR5-4800動作には2枚挿しが必要と明言されているので、メモリを盛りたい人は注意が必要だ。ただし今後BIOSが熟成されればこの制約がより緩くなる可能性は十分にある。
Core i9-12900Kを定格でブン回すと……
今回はテスト時間も筆者の体力も限られているため、CINEBENCH R23をはじめいくつかのテストのみをチェックする。CINEBNCH R23のテスト方法は10分ウォームアップの後に計測するデフォルトの計測方法だ。
マルチスレッドで26,000ポイント以上、シングルで1,980ポイント以上というのはRyzen 9 5950Xを大きく上回るものとなった。Core i9-12900Kは論理コア数(もっと言えば性能の出るPコア数)ではRyzen 9 5950Xより少ないが、マルチスレッド性能は勝っている。MTP 241Wと大きいだけに後述する消費電力では圧倒的にRyzen 9 5950Xよりも大きくなるものの、パワーでライバルをねじ伏せた形だ。
一方Core i7-12700KやCore i5-12600Kもなかなかよい働きをしている。12700KはRyzen 9 5900X以上、12600KはRyzen 7 5800X以上のパフォーマンスを見せている。
IntelはAlder Lake-Sを最強のゲーミングPC向けCPUであるとしているので、ゲームの性能も見てみよう。Intelが発表回などで推すリーグ・オブ・レジェンドやMount&Blade II Bannerlordといったタイトルもよいが、あえてここはAMDの肝いりタイトルである「Far Cry 6」で試してみたい。解像度はフルHDの一通りとし、画質は“最高”、レイトレーシングやFSRは無効とした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。
Core i9-12900KがRyzen 9 5950X/5900Xを平均fpsはもちろん、最低fpsも大きく引き離すという結果には驚くしかない。Core i7-12700KよりCore i5-12600Kのほうがよい結果を出している(12700Kがやや低い)のはデフォルトのMTPが190Wと低いCore i5-12600Kがパワーリミット無制限環境に置かれた結果という推測と、Windows 10環境でのテストゆえにPコアとEコアの使い分けが(今回の計測のタイミングでは)Core i7-12700Kでうまくいかなかった、という推測が立ち上がる。ただ今回はどちらが正解なのかを見きわめる時間が得られなかった。あくまで今回の検証環境ではこんなもの、という紹介程度にしておきたい。
ゲーム時におけるPコアとEコアの負荷をチェックすると、非常におもしろい状況が観察できる。ゲームアプリ本体の処理はPコア、しかもHyper-Threadingで増えた論理コアでないコア(本来のコア)に集中し、EコアはほとんどOSやドライバの処理(カーネル時間)を引き受ける。すべてのゲームがこういう割り当てになるわけではないが、貴重な計算資源であるPコアを処理速度が必要な処理に優先的に割り当てるというAlder Lake-Sの設計(とくにそれを司るIntel Thread Director)は奏功していると言えるだろう。
なお、11月5日(金)21時開始のライブ配信ではさらに詳しいレポートをお届けするので、ぜひご覧いただきたい。
次にCore i9-12900K環境で「OCCT Pro v9.1.4」を使い「OCCT」テスト(エクストリーム&負荷一定モード)を20分実施した際のCPUクロックや温度などを見てみよう(12700K/12600Kは時間の都合上割愛させていただく)。MTP 241WのCPUをパワーリミット無制限で回すと発熱的にかなり大変なことになりそうだが、実際はどうなのか検証してみたい。温度やクロックの追跡には「HWiNFO Pro」を使用した。
まず動作クロックはすべてのPコアがほぼ常時4,888MHzを、Eコアは3,691MHzを維持しており、MPG Z690 CARBON WIFIがCore i9-12900Kのパフォーマンスを十分に引き出せていることが見て取れる。その際のP/Eコアの温度は70℃〜80℃で変動しているが、OCCTでフル回転させているせいかPコアのほうが若干コア温度が低いようだ。ちなみにCPUのPackage Powerは212W前後で安定し、サーマルスロットリングに入ったコアはない。36cmラジエータを備えた簡易水冷、かつ定格動作でこれか! と感じるかもしれないが、プロセスルールのシュリンクで得たアドバンテージをすべて性能に振ったのがAlder Lake-Sと考えれば、MPG Z690 CARBON WIFIはAlder Lake-Sの持ち味を十分引き出していると言えるだろう。
CPUだけで210W以上食うようなシステムだとCPUの電源回路部分の発熱が気になるが、HWiNFOで観測できるMOS温度ならびにVR VCC温度ともに75℃(20分後の値)とかなり高め、若干頭打ち傾向が見られるが上昇傾向は続いているため、運用する際はCPU周辺の空気をしっかり回すようにファンを配置する必要があるだろう。
最後にラトックシステム「RS-WFWATTCH1」でシステム全体の消費電力を計測してみた。アイドルとはシステム起動10分後の安定値、OCCTとは前述のOCCTテスト開始時10分後の安定値を見ている。
Ryzen 5000シリーズがせいぜい250Wで収まるところをCore i9-12900Kは300Wを大きく超えているので、P/Eコアを全開で使う前提なら決して省電力なCPUとはいえない。この大食らいなCPUを確実に安定動作させるには、MPG Z690 CARBON WIFIのようなマザーが必要になるだろう。
“盛れば勝てる”Alder Lake-Sのポテンシャルを十分に活かせるマザー
第12世代Coreについては賛否両論があることは確実だが、これまでどんなにクロックや電力を盛ってもマルチスレッド性能でRyzenに大敗していたIntel製CPUが、MTP大盛りの状況ならしっかり勝てるようになった。この点は高く評価すべきだろう。
P/Eコアを完全に使いこなすにはOSやアプリもある程度選ぶ必要があるが、まずはCPUに大電力を安定供給しハイパフォーマンスシステムを構築できるマザーが必須だ。その点でこのMPG Z690 CARBON WIFIは思い切ってAlder Lake-Sを全力運転できるマザーと言える。Alder Lake-Sで組む際はマザーの選択肢にいれてみてはどうだろうか。
改造バカ&KTUがAlder Lakeをライブで詳細解説!
[制作協力:MSI]