Rubyの創造者、まつもとゆきひろがプログラミングに関係あったり、なかったりする質問に独自の視点で回答します。
1990年に大学を卒業してプログラマとして就職した私は、もう業界歴30年のベテランです。その長い経験から、職業ソフトウエア開発者が心の平安を保つ方法について考えてみました。
[ソフトウエア開発]
Q.ソフトウエア開発を職業としていますが、たびたびストレスを感じます。ソフトウエア開発者として心の平安を保つ方法がありますか。
ストレスの原因
ストレスを感じる原因は、自分や職場の状況によって千差万別でしょう。ただし私の知る範囲内では、仕事そのものから発生するものと、職場の人間関係から生じるものが多いようです。
仕事から発生するものには、仕事内容と自分のスキルのミスマッチから発生するものと、純粋に分量が多すぎるものとがありそうです。
人間関係から発生するものは、上司(マネジャー)との関係によるもの、同僚との関係によるものなどがありそうです。
まとめると、表1のようになります。もっとも、これだけがストレスの原因ではないでしょうが。
仕事からのストレス
表1では仕事からのストレスの原因として、「仕事とスキルのミスマッチ」を挙げました。
例えば、現在の自分のスキルでは解決できそうにない難しい問題が与えられている場合は、大変なストレスを感じそうです。逆に、自分にとって簡単すぎる仕事しか与えられなければ、「つまらない」と感じてしまい、それはそれでストレスではないでしょうか。
スキル的には適正な仕事でも、分量が多すぎるミスマッチがあれば、それもまたストレスのもとです。実は、この原稿を書いている私も、原稿の残り分量と締め切りまでの残り時間との兼ね合いで、今この瞬間もストレスを感じています。
このように仕事上のストレスには、「ミスマッチ」というキーワードが密接に関係しそうです。
ミスマッチの解消
しかし、そもそもどうしてミスマッチが発生するのでしょうか。
私の場合は、原稿の締め切りはずっと前から分かっていたのにもかかわらず、なかなか原稿に取り掛からなかったことで苦しんでいるので、自業自得としか言いようがありません。
しかし、ほとんどの人は、私のように怠惰なせいでストレスに苦しんでいるわけではないでしょう。どちらかと言うと、「スキルに合わないタスクを割り当てられてしまった」「こなせる分量以上のタスクが割り当てられた」などが原因になることの方が多いでしょう。
そうすると、ミスマッチ問題は「タスクを割り当てるマネジャー」との意思疎通や情報共有などに難があることから発生する(場合が多い)と考えられます。
心理的安全性
職場での人間関係の問題は、「心理的安全性」の維持によって軽減されることが知られています。それだけでなく、心理的安全性が保たれている職場では生産性も高まります。
心理的安全性は、「Psychological Safety」の訳語で、自らの行動による拒絶や罰を恐れる心配のない状態のことをいいます。
心理的安全性のある職場では、メンバーは萎縮することなく自由に発言でき、多様なアイデアが生まれ、イノベーションが生まれやすくなります。メンバーはストレスに悩まされず仕事に集中できるので、生産性も高まります。